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190:昔の面倒な女

「――――これがお前が来る二日前の事だ。そして俺は静音と、丁度うちに来ていた分家の長にある程度の内容を話し、もしお前が来たらここへ連れて来るように仕向けた訳だ」

「なるほどね。時空神・万世の帝が残した情報は受け取った。そして俺がここへ『魂だけ』が導かれ、肉体は今だ異世界にあると言う事もな」

「さて、今日はもう刻限だ。そろそろ子の刻も終わろう……」

「ああ分かった、また来る。その時は……」

「うむ。流よ、俺の精神が持つのが後五日だ、それ以上は精神が崩壊するだろう。五日で悲恋美琴を物にせよ」

「……ああ」


 流は静音が待つ入口へと向かう。そして入り口扉が閉じると、中からは猛獣のような咆哮と悲鳴のような絶叫が聞こえて来たのだった。



「流様、旦那様とのお話はどうでしたか?」

「ええ全ての謎が溶けましたよ。美琴……お嬢様の葬儀は本日でしょうか?」

「そうです。本日の午前中に執り行います。是非参列してくださいまし、あの子も喜びます」


 流は最初から思っていた、不審な感覚を静音に聞いてみる事にする。

 なぜある程度情報を知っているからと言って、ここまで好意的にせっするのかと。


「静音様は、どうして私にここまでしてくれるのですか?」

「そう……ですね。私は旦那様共々人の親としては失格です。特に美琴に関しては……。だから旦那様から最後に聞かされた『希望』にかけてみたいと思っています」

「それが私だと?」

「ええ、多分貴方は……いえ、それは美琴が決める事なのでしょうね。葬儀が終わったら『悲恋美琴』をお渡しします」

「分かりました」


 そう言うと静音は提灯を頼りに母屋へと戻って行く。

 その後には母を慕う子供のように、蛍が舞い踊っていた。

 

 流は離れへと入り、外をぼんやりと眺める。石灯篭には薄明かりが灯り、池や周りを照らし、まだ少し肌寒い初夏の庭園に彩りをそえる。

 ふいに冷たい風が吹き込み、丸窓の障子戸が音も無く閉まる。

 そして障子戸の外には、女の影が浮かび上がり、静かに佇んでいる。


「美琴か?」

「はい……」

「お前の父上と会って来た」

「……どうでしたか?」

「そうだな、最低のクズヤロウだったぞ?」

「は、はい……恥ずかしいです……」


 美琴は消え入りそうな声で恥ずかしそうに答える。幽霊なのに。


「お前って幽霊だろう? なぜ恥ずかしそうにするし」

「ちょ!? 酷いです! 私は生きていますよ、悲恋の中で!」

「それって幽霊よりヤバイ存在じゃ……」

「はぅぅ」

「はっはっは! 『はぅぅ』って何だよそれ。……本当にお前は刀照宮美琴なんだな」

「……ええ」


 流は典膳に聞かせられたと同時に、神から下賜された宝物とも言える、黄金のクリスタルを使い、流へと自分が見た光景を空間に浮かび上がらせ「見せられた」内容を思い出し、それが真実なんだと実感する。

 

「美琴、お前はその……千石の事を覚えているのか?」

「……いえ……その名を聞くと思う処はあります。でも今は貴方の事だけで一杯です」

「そうか、なにかこう……妬けるな」

「流様……。私は貴方の()でありたい。そしてその意味がどんなに残酷で、恐ろしく、甘美なものだと言う事を知っています」

「残酷で恐ろしく甘美、か……。なぁ美琴。俺はさぁ、お前に食われるなら本望なんだって言ったろう?」

「だから、それじゃ嫌なんです! 流様を私の一部とするなんて、それはとても恐ろしい事だし、私と何時までも一緒と思うとそれは甘美な囁きだし……。でもその後に残る私はまた一人になるのかと思うと、恐怖で夜も眠れません!」


 そう言うと、美琴はさめざめと泣き始める。


「夜も眠れないって……お前おばけだろう? 夜に寝るのかよ!?」

「お、おばけぢゃないもん!!」

「い~や、立派なおばけだね! 妖怪面倒な女おばけって所かな?」

「ひ、酷い……ひっぅ、ひっ……うわあああああん」

「うぉ!? 幽霊のマジ泣きとか、絶対俺しか見た事無い気がするぞ」


 深夜に響き渡る美琴のマジ泣き声……。

 そんな幽霊娘が何時までも泣き止まないので、流は立ち上がり障子戸を思いっきり〝スパーンッ〟と開け放つ。


「ええい! 何時までも泣く……な……っぷ!」


 障子戸を開くと、白装束に身を包んだ美琴がいた。

 だがテンプレ過ぎる三角の天冠(てんがん)を頭に着けていたので、死しても生者と同様に振る舞う美琴が付けていると滑稽だったし、なんとなくコントのようでもあった。


「ぶっは!? なんだよ、その頭の天冠は。コントかよ!」

「え……? あああ!? 取るの忘れてましたぁ……ってもう恥ずかしい! 流様のばかああああああああ」


 そう言うと美琴は正に〝どろん〟と効果音を残し消えてしまった。


「ど……どろんってお前……どんだけアナログな娘なんだ……」


 美琴の消えた窓の外を眺めながら、流は独り言ちる。


「それにしても美琴、全盛期のお前は本当に美しいな。想像以上だった……」


 目の前にいた娘は、透き通るような象牙のような白い肌に、夜に輝くシルクのような黒髪を背中まで伸ばし、顔立ちは可愛いというより、目鼻がそれぞれ調和された美しい娘だった。

 

 そんな初めて見た美琴の姿を思い出しながら、流は天に瞬く星を見る。初めて会ったのに、何故か以前より知っている気がしてならなかったが、時間も遅くなったので明日の葬儀にむけて休む流であった。

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