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188:失態の意味

 典膳は万世の帝が言った「失態」の意味が分からなかった。

 たしかに御物を創造出来ず、真逆の妖刀になってしまったのは痛恨だろう。

 しかし先に神が言っていたように「手痛い代償」を支払ってまで、神の体を捨て受肉をして顕現する。

 その意味が全く理解できなかった。


「神よ、なぜにお体を捨ててまで、美琴へと移られたのですか?」

「そうよな……。そちには知る権利もあろう。聞くがよい、あれは我が時空の歪にある些細な事に気を取られていた時に起きた事だった。そちも先ほど見た人形とはどう言う物かは分かるな?」

「はい、人に仇なす恐ろしい存在です」

「そうだ。神としては一世界の事など些細な出来事なれど、人と言う存在は愚かしくもあるが、愛でるべき存在でもある」


 万世の帝は言いながら、美琴の顔で自愛の表情を浮かべる。

 それがどうにも天膳には奇妙に見えたが、やはり神なのだと思い直す。なぜなら、とても落ち着く波動を美琴の体から放出していたのだから。


「そこに積極的に関与する事は理が邪魔する事で、力がありすぎる上位神になる程に難しくなる。が、下位になる程に人界で力も行使出来るのだ。無論我らからすれば些細な物だがな。時に典膳、最下位の神はどのようにして生まれるか知っておるか?」

「はい、私の知る所では古き物や、長く生きた獣が神格化すると聞いた事があります」

「その通りだ。そして今回の話の肝は、その人形が神格化した存在『付喪神』になった事から始まる」


 そこまで話し終わると、万世の帝は美琴の顔で苦虫を噛み潰したように話しを続ける。


「最下位の神たる付喪神の力は、大きくなるには最低数百年単位が必要だ。ところがあの人形に関してはそうでは無かった。人の際限ない欲望を取り込み、それを力とする事で僅か数十年と言う短い時間であの人形は『禍津神(まがつかみ)』へと覚醒した」

「だからあんなに人を塵のように……」

「そうだ。そしてあの禍津神を脅威と見た人間達が、それを討滅しようとした」

「それが古廻の前にある、鍵鈴(けんれい)の者達ですか?」

「うむ。だがそれも敵わず、鍵鈴と同格であった二家は滅ぼされ、鍵鈴は名を捨て古廻となったのは見たな?」

「はい……そしてその生き残りが、美琴を(たぶら)かした男である事も理解しました」


 典膳は悔しそうに目の前にいる、娘だった者を凝視しながら絞る様に呟く。


「やがて禍津神の暴挙に下級神共が騒ぎ始めた、あのままでは「神の力による大虐殺で理が乱れる」とな。事実その弊害は出始めておった。この世界だけでは無く、別の世界でも同時に似た現象が起こり始めたりしてな」

「先程見せていただきましたが、異世界ですか……驚くべき事実です」

「さもあろう。だが我らからすれば、隣の家に行く感覚だ。だからこそ見落としていたのだ。いくら最下級の神から覚醒し、禍津神へと成ったあの人形が、異世界へと逃れる力を持つなどとはな」

 

 娘の顔で怒りを滲ませながら震える神を見て、典膳も心底から恐怖を感じる。

 やがてその怒りも多少収まったのか、万世の帝は話を続ける。


「禍津神が異世界へと逃れる原因となったのは、下級神共がこれ以上放置は出来ないと直接動いた事にあった。いくら絶大な力を持つ禍津神とて、下級神達に狩り立てられる事には対処が不可能となった。そこで異世界へと逃げ込んだ訳だ」

「こ、ここまでは分かりました。しかし何故貴方様のような最上位の神が、娘の肉体を使ってまで?」


 典膳は震える声で確信へと迫る。


「そこだ!! それこそが我が油断した隙を付いて、禍津神が時空をこじ開けたのだ!! ヤツは理を捻じ曲げ、無理やり異世界へとの門を開き渡って行ったのだ。時空間の管理責任者たる我を無視し、あざ笑うかのようにな……。このような醜態を失態と言わず何とする!?」

「ひぃッ!? か、神よどうかお静まりください」


 娘だった体の周りに青と金色の炎が顕現し、怒りによって渦巻いていた。

 それを何とか諫める典膳だったが、魂を握られたような圧迫感で押しつぶされそうになる。


「む? すまなかったな。少し感情的になってしまったようだ許せ」

「お戻りになられて助かりました……。人の身ではあまりに酷ゆえに」

「そうだったな、話を戻そう。そこで我はそち、もとい娘に禍津神を討滅しえる神剣たる御物創造を命じた訳だ。それを古廻の者へと託すためにな。めぼしい者も選定済みだったのだがな。だが扱える力はあれど、妖刀・悲恋美琴を、人の身では持っただけで、取り殺されてしまう程の強烈な呪力がある。だからこそ我が失態を雪ぐためにこうして顕現したと言う訳よ」


 全ては神の油断と、その傲慢な考えに巻き込まれた……いや、典膳自身も喜んで加担した結果、最愛の娘をこの手で殺したも同然の事実に膝から崩れ落ちるように座る。


「そ、そんな事のために美琴は……」

「馬鹿者が。どの道、娘は死ぬ運命だったのだ。だから有効活用してやったまでの事」

「…………」

「それにだ、あの忌々しい禍津神たる人形を神たる我の力で斬れば、悲恋美琴ですら無事では済まないだろう。予想では真っ二つに折れるはずだ」

「なん……だと」


 驚愕する典膳、だがそれを無視をしてさらに続ける時空の神。


「その時が我と、そちの娘双方の願いが叶う時だ。我は汚辱を雪ぎ、美琴は『運が良ければ』妖刀から解放され、また輪廻へと戻る事が可能となろう」

「もし、失敗すれば?」

「当然そちのむすめの魂は消滅し、二度とこの世界には戻って来れぬだろうな」

「そんな…………」

「これで理解したな? 今だこの体に馴染んではおらぬ故、数日このまま養生し、その後に古廻の者達と合流して異世界へと立つ。そちも付いて参れ、新しい世界の始まりを見せてやろう」


 呆然とする典膳をその場に置き、万世の帝は鍛冶場の入り口へと向かって行く。

 その様子を呆然と見つめる典膳は、そこにある「悲恋美琴」に目が移る。

 研ぎも磨きもしていない状態だと言うのに、悲恋美琴はとても美しく、まるで熟練の研ぎ師が一世一代の仕事をやり遂げたような美しさがあった。



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