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181:黄金の知識

「なああ!? ま、まさか……美琴おおおおおおおおお!!!!」

「うむ、これでよし」

「き、貴様! 美琴に何をしたあああああああああああ!?」


 典膳はむき出しの村正を拾うと、烈火の勢いで万世の帝へと斬りかかる。

 微動だにせず典膳の一閃を、万世の帝はその身に受ける……が。


「無礼な奴め、だが今は気分が良いので特別に許してやろう」


 万世の帝は村正をその身に受けるが、傷一つ無くその場に佇む。

 その様子を見て典膳は悟った、「人がどうこう出来る存在では無い」と。

 だからその後に続く、目の前の「神」の言葉を大人しく拝聴する。


「典膳、そちは何故(なぜ)に力を求める?」

「ちか……ら?」

「なんだ、気が付いていなかったのか? 神剣たる御物を創造すると言う事は、この国のパワーバランスを大きく変える物だ。それを力と言わず何とする?」

「……は? ぱ、ぱわー……え? 何ですと?」


 聞いたことのない言葉。それに戸惑うが、すぐに万世の帝が補足する。


「あぁ、つまり力の天秤が大きく傾くと言う事だ」

「そこまでの事で御座いますか……。そうか、俺が求めていたのは力だったのか……」

「そうだ、御物ともなると絶大な力の塊と言っても良い。それを創造すると言う事は代償が必要となる。そしてそれは誰でも創造出来るものでは無い。無論神ですらその枠からは逃れられん」

「なんと……。私のような存在でも分かる、強大な貴方様のような、神ですらもですか?」

「そうだ、だからお前と言う器を見つけて降臨したのだ。だが蓋を開ければ、お前では無く娘だったと言う」


 美琴がとても心配だったが、神の言葉が気になり「その先が知りたいと言う好奇心」に典膳は支配される。


「そ、それでこの後、何をすれば『御物』を創造出来るのでしょうか?」

「それだがな、そちの娘に刀を打たせよ。無論、我の加護は存分に与えよう。心配は無用だ」

「美琴に刀を……。い、いえ。ですが、鍛冶場は女人禁制でして、まして女子(おなご)の細腕では(つち)を振る事も難しく――」

「黙れ、神の言葉は絶対ぞ?」


 瞬間、典膳の体は硬直し、息をするのも困難な状況になってしまう。

 頭の先から足の先まで、例えるなら一本の針でも打ち込まれたかのようになり、全ての体の活動が、最低限の動きしかできないような感覚に囚われる。

 やがてその恐ろしい感覚は数舜の間の後に、典膳は得体のしれない束縛から解放される。


「まさに蒙昧(もうまい)よな。そちにもこれで分かったろう? さて、女子の手には無理と言うたか? そこは心配するでない。身体能力も並みの男より遥かに高く『改造』しておいた。それこそ一人で刀を打てる程……いや、この国で最高の武芸者レベル以上の身体能力を付けてな」

「え? れべる? ま、まさか先程の短刀で?」

「そうだ、あの短刀には我の加護と、肉体を改造する神力式を組み込んでおいた。今は仮死状態であろうが、時期に目を覚ますだろう」

「何と言う……」

「そしてこれは娘への褒美でもある。そちの娘の未来を視た。この先不幸になるだろうが、それが娘にとって最良の結果となろう」


 あまりに身勝手な時空神・万世の帝の言いように唖然とするが、その続きを諭すように話し始める。


「ふっ……。神とはそう言うものぞ? 特に我はな。さて典膳、そちには最早選択の余地は無い。刀照宮美琴を、そち以上の刀鍛冶師に仕上げ、この国最強の刀を創造する事を命ずる。完成させた暁には、そちの名が後世へと残る様に確約しよう」

「おおお…………」


 天膳は神の目もはばからず、その心は狂気し、目からは止めどなく熱い涙があふれてくる。

 万世の帝は「愚かよな」と内心思ったが、そのまま夢心地の天膳に約束の時を告げる。


「うむ、理解したようで何よりだ。では御物はこれより九年の歳月を経た後に完成されるであろう。これは確定事項だ。その時に娘も解放されるであろう」

「ほ、本当に美琴は解放されるのですか!?」

「ああ、解放は約束(・・・・・)しよう」

「……分かりました。全身全霊を持って娘を育ててみせます!」

「期待しておる。それと祭壇はこの空間座標に固定して置く。ああ忘れていた、無知なそちには我の知識のほんの一部を授けよう」


 万世の帝が右手の指を〝パチン〟と鳴らすと、典膳の頭上より黄金色だが、とても透明な色合いの水晶のような物が、ゆっくりと目の前へと落ちて来る。

 その大きさは直径にして二センチ、長さ五センチ程の物だった。


「こ、これは!?」

「なに、この世の知識の砂粒のような物だ。だが今のお前(そち)には相応しかろう、受け取るがよい」

「は、ははぁ~。ありがたく拝領致します!」


 天膳は受け取った瞬間、膨大な知識が流れてくるのを必死に耐えきる。やがて、それが刀を打つための自分の知らない知識や、その他の知識の塊に恐怖する。


「か、神よ! これは事実なのですか!? 信じられない製法まで……」

無論(むろん)だ。神の行いは絶対だからな」

「なんと、なんと言う……。神よ、この天膳めの命に変えましても、必ず事を成就させてみせまする」

「うむ、では九年後にまた会おう…………」


 ――こうして時の神は時空の彼方へと去って行った。その「本来の目的」も、何も告げずに……。そして残ったのは己の野望を仄暗く燃やす屑のような男のみだった――。

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