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017:【トエトリーの町を堪能しよう】

「気持ちの良い奴らさ、何かあったら頼ってみるといいぜ?」

「そうか、ありがとうファン」

「っとこれを言うのを忘れてたぜ。ここは屋台が内側にあるだろ? そしてテーブルは崖と言うか外側にある。それがこの屋台の真の売りってやつよ」

「そうなのか? 俺はこの屋台の多さと照明の美しさかと思ってたんだがな」

「ははは、それもあるが――。そろそろ始まるぜ? ナガレ、空を見てな」

「ん? 空? ……お! おお!? おおお!! これは凄い天体ショーだ!!」


 空を見上げた流は一筋の光を発見する、それが消えた数秒後にまた光が落ちてくる。それが加速度的に増えて行き、最後は青や緑色の星まで流れていた。


「どうよ、スゲーだろ? これが流星屋台だぜ!」


 ファンの話だと月に数度こういう日があるらしく、その日は特にここの屋台が賑わうそうだ。

 天体ショーを堪能していると、愛想のいい店員が料理を運んでくる。

 ファンに事前に聞いていた説明によると、この肉は一角羊と言う、一本角を生やした体格が大きい動物の肉だそうだ。


「キタキタキタ! これがこの屋台最高の肉料理だ! さあ食って呑んでくれ、今日は俺のおごりだ!」


 まずは一角羊の肉汁焼が置かれた鉄板に視線が釘付けになる。厚さ三センチほどの肉の下に赤い野菜と白い野菜が交互にしかれており、そこから一角羊の肉汁が滴り落ちていた。


「これはまた美味そうだな! これは野菜か? 紅白の野菜から肉汁が溢れている……早速、肉を一口……」


 瞬間、旨味の洪水が流の口を満たし、その余韻が喉を過ぎるまで濃厚に絡みつく。


「うまーい!! 油がしたたり落ちてるほどなのに全然しつこくなく、濃厚な肉本来の味が強烈に美味い!!」

「はっはっは、だろう? だがまだ甘いぜナガレ? それの真価はな、こうするんだ!」

 そう言うとファンは肉と紅白の野菜を同時に切り落とし、そのまま口に入れる。


「くぅ~たまらん! ナガレもやってみろよ」

「マジかよ、どれ!! くそうめぇ……品が無い言い方だが、このワイルドな表現が一番あってると思う! 何だよコレは……」


 流はあまりの美味さで逆に素に戻ってしまうほどの衝撃を受けた。


「驚いたわ、この紅白の野菜はアミノ酸の塊か何かか? 肉の旨味を異常に押し上げているぞ!」

「アミノサン? が何かは知らねーけど、その野菜は白波キノコって言ってな、白波鳥の糞の山から生えるんだ。そしてその赤いのは妙竹林って言って、竹林に生えるキノコなんだよ。それもタケノコのように生えるからそのうち堅くなる変なキノコだ」


「クソウメェ訳だな、取れる場所だけに」


 異世界の洗礼を受けた流は、美味いのは正義と思いなおし熱いうちに完食する。


 そしてもう一つのメイン、マイル牛のホロホロステーキが運ばれて来た。

 店員が鉄板の上に乗っていた金属の蓋を開けた瞬間、強い香草の香がテーブルを支配する。

 それを楽しむ間もなく店員は香草の山に青色の酒を振りかけ、即――着火した。


「うわ!? 真っ青な炎に包まれたぞ!」

「それが良いんだよ。その後にな、ほら?」


 青い炎が五十センチは立ち上がり、その勢いがあっという間に無くなった頃、中から厚さが五センチ位でルビーレッドの肉の塊が出現した。

 驚く流に店員は「熱いうちにど~ぞ」とニコリと笑うと去っていく。


「これは……なんつーか豪快だな。あの強烈な香草の香が一気に飛んだかと思ったら中からこの肉かよ」

「フッフッフ、まぁ~ナイフを入れて見ろよ? 笑えるぞ~?」


 そう言うとファンは流の反応を楽しむようにエールを煽る。

 流は我慢出来ずにナイフを肉塊に刺した、はずだったが……。


「ハハ、嘘だろ。この分厚い肉の塊にナイフがほぼ抵抗なく入ったぞ……」

「驚いたろ? みんな驚く、俺も驚いた。そしてここに居る奴らもみんな驚いたもんだ。なあ~おまえら?」


 そうファンが言うと、周りも同意の声が聞こえた後大笑いしている。


「うわぁ肉が、肉がフォークで切れすくえる」


 肉の塊はプツンと言う感じで肉の繊維が綺麗に剥がれ、まるでそういう形だったかのようにフォークに乗っていたのを、慎重に我慢できないと訴える口へ放り込む。


「っっ!? 肉汁の塊か? いや、肉の繊維が口の中で解けた瞬間、肉汁が湧き出るんだ……それなのに、肉そのもの食感をしっかり感じるとか訳が分からない」

「お前は料理評論家か何かかよ」


 ファンは呆れている様だが、その通りなので苦笑いするのだった。


「あの強烈な香草の香も、青い酒? で燃やしたことにより、自然な香りづけに落ち着いてて、肉の旨味と香りが一層引き立つんだな! 一角羊は濃厚な旨味だったが、こっちはアッサリとしていながらも、みずみずしい肉本来の旨味が凝縮しているスープを飲んでいる感じだ、ある意味魚介系のスープに近い感覚だ! 肉の塊なのに……なんだこれ」


「俺はお前のその料理に対する評価に『なんだこれ』だぜ?」


 と愉快そうに笑うファンは店員にエールを二つ追加で注文する。

 ファンはその後来たツマミを食べながら、流にこれまでの事を質問する。


「へぇ~それでゴブリンの集落へ迷い込んだら、さっきの宿屋で会う予定だった娘が攫われたばかりの現場を目撃して助けたと?」

「まぁそんな感じだな。それと商人の女と、近くの村娘と、その女騎士を助けたんだよ」


 そう言うと流はペンダントを見せる。


「これは……クコロー伯爵家の家紋じゃねーか! マジかよ。で、何匹倒したんだ?」

「えーっとだな……雑魚が十一匹と、犬が一匹。それと中ボスが一匹と、酋長って言うのか? セリアが――あ、セリアってのはそのクコロー伯の娘な。で、そのセリアが酋長って言ってたな」


 そう流が告げるとファンはジョッキをテーブルに叩きつける。


「オイ! それはマジなのか!? 酋長を単独討伐だと? しかも集落も潰したとか信じられねーが……お前ならやっちまうと言う確信がある。マジかよ……」


 周りは喧噪が激しくなったためか、ファンの興奮した声はかき消され他には聞こえていなかったのか、誰も反応はしなかった。


「まあそんな感じだな。初めて死にそうになったんだけど、この美琴――ってこの刀の事な? その美琴が居なければ俺は間違いなく死んでいたね」

「へぇ、そのカタナって武器は凄いんだな。少し見せてくれないか?」


 ファンの申し出に一瞬考えるも、美琴が嫌がっていないのが分かったので聞いてみる事にする。


「なあ美琴、ファンは俺の友達だから少しだけ見せてもいいかな?」


 すると美琴はフルリと揺れたので、大丈夫だと確信しファンに手渡す。


「ファン、大丈夫みたいだ。見てやってくれ、とても綺麗な芸術品なんだよ」

「はは、まるで生きているかのようにカタナに接するんだなお前は」


 そう言うとファンは美琴をそっと手にする。


「生きているさ、今なら分かるだろ?」

「っ!? ああ分かる。何と言うか命を感じる……理屈じゃなく肌で感じるんだ」

「そうだ、だから無下に扱うと……死ぬことになるから気を付けろよ?」


 ファンはゴクリと唾を呑み込む、それが脅しじゃないと言う事が良く分かったからだ。

 普通ならこのまま返すのが良いのだろう、だがファンも商人の端くれである。その美しさと美術的な見事さに魅入ってしまうのだった。


「ナガレ……抜いてみても大丈夫か?」

「人が居るからテーブルの下でそっとならいいぞ」


 ファンは美琴をぶつけない様に、テーブルの天板から下げ刀身を見る。


「これは……なんて見事なブレードなんだ……。だがこれ以上は抜いてはダメだと、このカタナが俺に言っているようだ。ありがとうミコトさん」


 ファンはこの刀が女性である事と、抜いてはダメだと言う事が分かった。

 丁寧に美琴を納刀し、流へと手渡す。

 額にはびっしりと汗が噴き出し、その渇きを癒すように一気にエールを呑み干したファンは、やっと一息つく。


「ふう~。ありがとうナガレ、中々出来ない貴重な体験をさせてもらったわ」

「喜んでもらえて俺も美琴も嬉しいよ。どうだ、凄かったろ?」

「あぁ、凄いなんてもんじゃねーぜ。魂の籠った武器があるとは聞いたことがあるが、実際この手で触る事が出来るなんて思わなかった。それにその美しさと来たら美術品とナガレが言うのも頷けるってもんよ」


 美琴が褒められて、流も美琴もとても嬉しくなったのであった。

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