表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

176/539

175:日光ではない刀照宮

 意識だけが抜け出た感覚で、流は過去と言うには程近い記憶を遡って見ていた。

 それはあのコテージの一室から全ては始まった。

 

 第十階層である地下十階、通称リゾートエリアのコテージの一つで、流は美琴を手に部屋の中央に立つ。

 それを見守るように三兄妹をはじめ、鬼の夫婦がまさに鬼気迫る表情で見つめている。

 さらには窓の外からは嵐影が覗き込み、廊下には執事達が待機していた。


「本当にやるんでっか……。古廻はん?」

「ああ、どうせ何時かはやらねばならないだろう? なら早い方がいいさ」

「フム……。しかし確実に安全性があるわけではありあませんし」

「それは何度も話し合ったろう? 大丈夫、俺と美琴ならやりきるさ。それに死ぬと言っても失敗したらだろう? 何と言うか根拠は無いが、俺を失っても(・・・・・・)成功する自信があるんだよね」

「ガキんちょ……。油断なく気をシッカリと持ち続けるがよ?」

「そして恐れないようにしな、きっと恐怖が襲って来るだろうからね」

「ああ分かったよ、アドバイスサンキューな」


 そんなやり取りを〆はジッと見つめていた。

 本心は今すぐにでもやめさせたい、しかしそれが流の願いならと、無茶を承知でこの場を設けたのだった。

 そして、ついに……その時が来てしまう。


「さて、〆さんや。そろそろ始めようかね」

「……はい……。では古廻様。悲恋美琴をその手に持ち、円柱石を斬った時と同じように集中してください」


 〆にそう言われ、流は悲恋美琴へ妖力と纏わせる事に集中する。

 次第に妖力が美琴の刃先から〝じわり〟と広がり、最終的には刃の付け根である刃区(はまち)まで広がる頃に「あの感覚」に襲われる。


 意識はある。が、徐々に周りの景色がぼやけていき、音も光も何もかもが曖昧のうちに消えていく……。

 自分が溶けたような感覚から、ふと気が付く。


 流は日本にある古い井戸のような物の前に立っていた。その井戸が気になる、嫌な予感がするが、どうしても気になってしまう。

 その欲求に耐え切れなくなり、流はその井戸の底を覗く。


 ――井戸の底にはジットリと貼り付く、圧倒的な質量がある虚無が其処(そこ)()った。


 思わず覗いた事を流は後悔した。心底、本当に、やめておけばよかったと思う程に。

 その理由は、「井戸の深淵からも誰かが流を覗き込んでいた」からだった。


 ただ見ているのではない。一言で言えば「呪いそのもの」であり、人の負の感情が井戸の底に詰め込まれているかのような圧縮感と、閉塞感。

 それを濃密に煮詰め、井戸の底に押し込めた存在が〝めぢゃっり〟と見つめて来る。


 それは井戸の深淵から見つめる、心底不気味な女だった。

 だがそれでも流は、一瞬たりとも不気味で、恐怖そのものとも言える、その女から目を背ける事が出来なかった。


「お、お前は誰だ!! なぜ井戸の底から俺を見つめる!?」

 

 ひび割れた腕と、爪が剥がれた手で――


「…………何時も」

「何だと!?」


 艶の無い老婆のような髪を振り乱し――


「…………いてくれるって……約束」

「誰なんだお前は!!!!」


 目が窪み、眼球の無い瞳で睨みつけ――


「…………忘れてしまったの?」


 そう女が恨みがましく呟くように流へと言うと、視界に新たな風景が生まれだす。

 それは、町だった。しかし流が知っている現代日本の街並みではなく、京都ですら見た事も無い古い町だった。


「なんだ、これ、は……」

「あら、あんたもあの子を弔いに来たのかい?」


 突如背後から声を掛けられた流は、その声の主に向き直り話を聞く。


「えっと……アンタは?」

「嫌だねぇ。あんたが何時も来てくれるそこの茶屋の主さね。それより今日は刀照宮家の娘さんの通夜だろう? あんたもあの子に関わりがあったのかい?」

「……は? い、いや。誰か知らないが……」

「え? そうなのかい? まあ知らないのも無理はないのかね。あの子が生きているとは噂では聞いていたけど、まさか無理に刀を打ち続けた後に死んじまうとはねぇ」

「刀を、打ち続けて……?」

「ああそうさ。ここの主は昔はまともだったんだがねぇ。あたしの子供と、ここの娘はよく遊んでたものさ。それが突如主が狂っちまってね、そして娘が監禁同然で刀鍛冶をさせられてたのさ」


 その話で「何か重要な事」があったと思い出す。

 そして突然心の奥底にあった、一つのワードが口から零れ落ちる。


「……美琴?」

「なんだい、あんたやっぱり刀照宮家の娘を知っているんじゃないか。娘の名前は『刀照宮(とうしょうぐう)美琴(みこと)』って言うんだからね」


 刀照宮美琴。その名は初めて聞くが、なぜかひどく懐かしい気分になる。


「じゃあ、あたしは行くよ。まったく娘の呪いか何か知らないが、発狂した父親を蔵へ入れた所の番人の世話なんて、ホント勘弁して欲しいよ」

「待ってくれ! 最後に一つ教えてくれ!!」

「え、何だい大声で?」

「その……刀照宮美琴の最後はどうなったんだ?」

「あぁ、それは酷かったらしいよ。なんでも鍛冶場で老人のように精魂尽き果て、人の吐く量とは思えない血を吐きながら死んだって話さね」

「そ、それだけか?」


 迫力のある三十路の恰幅(かっぷく)の良い女は、やれやれと言わんばかりの溜め息を吐きながら、流へと先を話す。


「あんたも変わった人だねぇ。普通これだけ聞けばゾっとするもんだろ? そうさねぇ……。その後の話なら続きはあるけど?」

「頼む、教えてくれ!」

「まぁ……そこまで言うなら教えるけど、胸糞が悪くなるよ?」

「ああ、かまわない!!」

「……じゃあ、まぁ。その後のその娘だけどね、発狂する前の父親に担がれて、鍛冶場の井戸へと放り込まれたらしいよ。その際に美琴ちゃんが打った刀で、その美琴ちゃんを斬ったと言う話さ」

「なんだよそれ……」

「まあ知ってる事はここまでさね。じゃあ今度こそ行くよ」


 妙に恰幅が良く、話好きの三十路の女は去って行く。

 それを呆然と見送りながらも、聞いた話を反芻(はんすう)するように、流は何度も今聞いた話を思い出していた。

 ここから過去編になります。が! この過去編は「話が進みます(・・・・・・)」ので、だるくありません。

 世にも珍しい「話が進む過去編」をお楽しみください。


 もし面白かったらブックマークと、広告の下にある評価をポチポチ押して頂いたら、作者はこうなります→✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。


 特に☆☆☆☆☆を、このように★★★★★にして頂けたら、もう ランタロウ٩(´тωт`)وカンゲキです。

 ランタロウの書く気力をチャージ出来るのは、あなた様だけです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ