174:麗しき兄妹の死闘
――地下第九階層――
文字通り魂すら氷る冷獄に変貌したこの場所で、熾烈な兄妹喧嘩が始まっていた。
ただ普通の兄妹喧嘩と違うのは、負ければ確実に肉体は無論、魂が滅ぶと言う条件下だが……。
〆は流との静謐な時を邪魔され、さらに霊廟を荒らされた事の怒りで徐々に我を忘れ、その攻撃は手加減を一切無しに襲って来る。
その体は当初は黄金色の巨大な九尾の狐だったが、現在は徐々に赤く禍々しい神妖獣となり、壱と参の命を本気で刈り取りに来る。
それに負けじと、壱が攻撃主体となり、参は防御態勢で妹たる〆にあたる。
巨大な霊廟たる宮殿も、三人の猛攻に耐え切れずに、いたる所に損傷やヒビが入り始たが、それでも〆は攻撃の手を緩めず攻撃をする。
しかし参が〆の攻撃を結界術で防ぎきり、壱がその隙をつき両手に持った神聖属性が付与された純白の槍を投擲した刹那だった。
その危険な属性が付与された槍を察知した〆は、防御をするかと思いきや、逆に二重の魔法陣のような物を構築すると、そこから『雷を纏った炎の槍」を二人目掛けて無数に撃ち込む。
逆にそれを好機と見た壱は、同質量の聖槍を召喚し迎撃する。
一瞬爆炎で視界が霞んだ刹那、壱は参へと指示を出す。
「チィィィィッ、この馬鹿狐めが! 参、結界を反射から攻撃に変換後、十二秒援護しろ!」
「フム! お任せあれ!! 我を忘れおって愚か者が!! 《八卦封魔術式展開! 反転・常闇の封呪刀!!》」
参が〆の苛烈な攻撃を防ぐ防戦一方だったが、ここで壱が反転攻勢に出る。
守りの結界を解き、〆の力を削ぐために巨大な封魔仕様の八卦陣を召喚した参は、まるで深淵の闇のような漆黒の不気味で片刃の巨大な剣を、八本頭上から雷の如く降らせて〆を八卦陣に縫い付ける。
『ギュルウウウウウウウウウウッ』
「兄上! 今です!!」
「任せろ!! 《聖印術式展開! 神聖召喚・百八の聖砲!!》」
眩い光を放ちながら、純白の立体三重魔法陣が壱を中心とした場所に展開し、白銀と黄金で装飾され、玉座が搭載された長さが十メートル程の大砲が召喚された。
次に煩悩を吹き飛ばし、悪鬼羅刹に絶大な効力を持つ祝砲たる百八門の聖なる大砲が、専用の魔法陣から三次元に規律よく展開される。
その様子はまるで、「聖なる艦隊」が空中に浮いているかのように見えた。
艦隊の中央部から豪華な玉座艦が出現し終えると、そこへ飛び乗る様に壱は座ると同時に、力を封印されつつある〆へと向けて標準を定める。
「兄上! 残り五秒です!!」
「チィッ! 全砲塔愚妹へ向けて一斉掃射……撃てええええ!!」
短時間でこれだけの術式を組み、さらに標準を微調整しながら砲撃を試みる。
激しく唸りながら〆は封印術式を食い破らんと妖力を爆発させ、予想より二秒早く拘束を解き、「常闇の封呪刀」を九尾で破壊する。
しかしすでに壱が放った聖なる砲弾は、〆に向け着弾間際であった。
「このコースなら回避出来まい! 目を覚ませ、愚かな妹よ!!」
そう壱の予想通り、〆へと青き聖光を纏った砲弾が着弾し、青白い炎を上げながら次々と爆炎を上げ〆の体力容赦なく奪う。
『ギャウウウウウウウウウウウウウウ!!』
本来この程度なら難なく回避する事が可能であったが、〆にはそれを回避出来ない理由がある。
それは――。
「フム! 兄上も悪辣ですな。あの射線は回避不能!」
「ああ、愚妹の後ろには流様がいるからな……」
意識を飛ばしながらも、〆は流の遺体に傷一つ付けない様に立ち回っていた。
そこを利用して、壱は射線を取り攻撃をしたのだった。
さらに追撃を放つ聖砲は、容赦なく〆を追い詰める。
やがてそれらも収まる頃には、〆の妖力が小さくなっていく。
それを感じた参は、拳を強く握り思わず叫ぶ。
「フムウ! やったか!?」
「ッ!? この大馬鹿が!! 参、結界を再度反転させて防御陣形! 二秒で終えろ!!」
「ナッ? 承知!!」
壱が断末魔のように叫びながら、参へと緊急指示を出す。
それを聞いた参は一瞬戸惑ったが、即実行に移す。が、時すでに遅し。
「ぐぅぅぅ…………バアアアアアッ!?」
「あ、兄上ええええええええええええええええ!!」
九尾から放たれた格子状の殲滅術《賽の破断》により、壱と聖砲は粉々に粉砕される。
壱が粉砕されたと同時に、〆から膨大な妖力が復活し参をその狂った瞳で睨みつける。
その様子は最早「狂える神」であり、体毛一本一本からは濃密な殺神気が迸って参を襲う。
「クゥッ!!……ここまでとはッ」
「…………馬鹿者が、アレを復活させたのはお前だぞ?」
「あ、兄上!! ご無事でしたか!!」
「俺の能力を忘れたか? あの程度では滅ばんよ。愚妹め……獣体形で戦うから怒りに支配されるのだ。さて、どうしたものかな弟よ」
参の迂闊な一言が原因なのかはいざ知らず、〆は益々荒ぶり手に負えない状況だった。
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