161:善吉、そうお前は善吉! 中
「潰れてしまえ!」
「……ジジイ流・参式! 四連斬!!」
流は拡散タイプの参式を、金棒へ八連撃にして叩き込む。
当然その勢いは止まらなかったが、金棒は予定より流の「後ろ」へとずれて打ち込まれる事になる。
そのズレた隙間を縫うように頭を下げながら掻い潜り、金棒より内側へと入る事に成功する。
その先にある右スネを確認すると、流はそこへ真横に一閃し、そのまま善吉の股の下を潜り、背後へと抜けていく。
抜けながら、美琴を逆刃に構え妖力を籠手と美琴へ込めていく。
そして股の下を完全に抜けた瞬間、数歩そのまま進み一瞬止まると業を繰り出す。
「ヒグマは居ないがデカ物には違いない、ジジイ流・断斬術! 羆破斬!!」
――羆破斬は本来、背後から追いかけて来る巨大なヒグマを、カウンターで袈裟懸けに斬り倒す荒業だが、美琴の妖力でその威力が上がった現在は――
善吉の足が背後にある状態から、流は自信の左足を勢いよく右足の裏側へと回し込む。
すると体は左回りに回転し、それと同時に右足も左回りに足を運び、上半身も同じように回転する。
やがて回転が徐々に早くなり、その高速回転を三度行いながら遠心力を付けて、善吉の右フクラハギに向けて襲い掛かる。
美琴の妖力で練り上げた羆破斬は「紫の大きな丸鋸」の様になり、善吉の右足を斜めに斬り飛ばす。
それは元の業である力任せの荒い切断では無く、鋭利な刃物で一瞬のうちに斬られた、断面の美しさすら見てとれる程のものだった。
「なっ、消えた!? どこに行った――ぐああスネ!? 居ない!? どこっつ何だああああ??」
善吉は突如右足の踏ん張りが効かず、滑る様に右側へ倒れた事の意味が分からなかった。
その後訪れた激痛が善吉を襲い、やっと状況が掴めた時にはすでに最悪の状況だった。
「ぐあああああああッ!! あ、足が無くなって――」
「待たせたな善吉ぃぃぃぃぃッ! 散々嬲ってくれやがって……覚悟はいいか?」
倒れる前は届く事が無かった眉間の弱点を、倒れた現在、狙える位置まで来た事で形成は逆転する。
「なぁ!? ま、ま、待ってくれ!! 足が無いからもう無理だ!!」
「泣き言は地獄に帰ってから言うんだな。ジジイ流・刺突術――」
「はい、そこまでだよ!」
流が業を放つ刹那、後鬼が愛用の龍を模った煙管で美琴を止める。
「……後っちゃん?」
「まったく、こんなに早く善吉を倒しちまうとはねぇ。本当に坊やは末恐ろしい程の逸材だよ」
「って事はこれでクリアかい?」
「ああ、おめでとうさね」
「「「おおおお!」」」
後鬼の言葉で沸き立つ観戦者達。
「まったく、それに引き換え善吉。油断しすぎじゃないのかい?」
「いやあ、言い返せないですよ。まさか足を斬り飛ばされるなんて思ってもみませんよ。はっはっは」
「ふぅ~。ちょっと待ってな」
そう言うと後鬼は落ちている足を片手で持つと、善吉の元の足にくっ付けてからブラから呪符を出す。
「ほれ、治療しな」
呪符から白い布のような物が噴き出ると、斬られた足に絡みつき、そのまま暫くすると消えていく。その後には綺麗に治った足が付いていた。
「お~。治りました! ありがとうございます、後鬼様」
「凄いな後っちゃん、その布は因幡の薬みたいだな」
「馬鹿言っちゃいけないよ、坊やの斬り方が良かったんだよ。因幡様の薬と比べるなんて、烏滸がましいにも程があるさね」
「そう言うものか。何にせよ、良かったな善吉!」
「はっはっは。本当に一時はどうなるかと思ったぞ。強い男よな。名をなんと言うんだ?」
「俺は古廻流だ、よろしくな」
「うむ、こちらこそよろしく頼む。流よ」
死闘が終われば不思議と敵意も消える。
これが怨恨から来るものならそうも行かないのだろうが、訓練と言うものなら問題ないと流は思う。
もっとも一般人からすれば、命を狙われた時点で普通に話す事は出来ないのだが……。
「それでこの後は?」
「そうだなや……大体は分かったんが、まだまだ防御が不安がよ。死闘は無しにして、金棒で殴って来るのを防ぐ鍛錬をするぜよ」
「それがいいね。善吉、潰すんじゃなく払う感じで、坊やを軽めに払ってやってみな」
「分かりました。じゃあ流よ、まずは軽めにいくから受け止めてみよ」
「うっし、頑張るか!」
軽めと言えど、金棒の重さと振り抜く速度で流は受け止めるのに苦戦する。
その場に止まる事は出来ず、数歩下がるのが当たり前で、下手をすれば吹き飛んでしまうのだった。
「さて、どうしたものかねぇ」
「かと言って、アイツを呼ぶには確実に早すぎるがよ」
「そうなんだよねぇ。尽く予想の上を行く坊やだよ……。善吉の足、見たかい?」
「ああ、そらもう穴の空くほど見ちゅうが。あれはいくら何でも鋭すぎるっちゃ。もし不意を突かれ攻撃されれば、下手をしたらオイ達すら手痛いダメージを負うかも知れんがよ」
「まぁあれだね、一度お嬢と相談してから方針を決めようかね。さて、お嬢は……ぇ!?」
〆がいるだろうコテージの方を見ると、そこは……修羅場だった。
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