158:超越者
「坊や、ちょっとおいで!」
「ん? 何だ褒美でもくれるのか?」
「馬鹿ちんが、そんなもんは無いが! いいか、これから話す事をよっく覚えるちゃよ?」
「分かった。で、何を?」
「それを今から話すさね。いいかい、あちらの世界では色々な力がある。その最たるものは分かるかい?」
突然の質問。力と言うと単純に馬力とかのエンジンなどを思い出し、次に自然災害を思い浮かべる。
さらに考えると、火薬やガソリン燃料なども思い浮かべ、もっと単純に力と言うと電力設備を思い出し、それはらは科学力と言う事になる。
「科学力かい?」
「それは二次的に生まれた『知恵と知識』の産物さね。細かく言えば、まぁ違うんだろうが、アタシが言っているのは元々世界にあった力そのものさ」
「例えばガキんちょが今日使いこなした妖力は、知恵から生まれたもんでは無いがよ」
「妖力はどちらかと言えば、闇の力に属するのさ。だから鬼・妖怪等それに連なる者等が使える」
流は思う。悲恋美琴は「負の結晶」とも言える妖刀であり、妖力を纏うのは当然だと。
そんな事を一瞬考えていると、後鬼は続きを話し出す。
「さらに『超越者』と呼ばれる存在は、その垣根を越えて使う事が出来る訳さね」
超越者と言う単語に思わず聞き入る。
「超越者? どんな存在なんだ?」
「そうだなや……力と言うのは今言った妖力の他に、法力・神通力・神聖力・陰陽術・呪術・魔術・魔力などだな。まだあるが、こんな感じで力を行使する方法があり、そこから派生した超能力みたいなのもあるがや」
「つまり、それらを使いこなせることが出来るのが、超越者って訳か?」
「そうが! 基本的にはどの力も根源は一緒ちゅう事ぜよ」
「ただそれを体系的に分類した方が、術者が使える能力の幅も広がるから、何かを覚えたら普通は他のは手出ししないし、また手出ししようとしても習得出来ない事が多いねぇ」
なるほどと得心した流は、次の質問へと移る。
「その根源って何だ?」
「根源はそうさねぇ……例えば風は何故吹く? 火山はどうして噴火する? 海はなぜ対流する? それが分かるかい?」
「えっと、それは全て『科学』で説明出来るけど……後っちゃんが言いたい事は違うんだろう?」
ニヤリと口角を上げて笑う鬼の夫婦はその先を続ける。
「そうがよ。それは人が知識でこじ付けた理由に過ぎないぜよ。じゃあその科学じゃ説明出来ない理由で起こる力とも言える現象の原因は? って言うとだ、単純な話、星が巨大な生物その物だって事だがよ。それを詳細に記録し、現象を解明し、再現や発展させたものが科学ってわけぜよ」
厳密に言うと違うところもあるのだろうが、二人が言いたい事を流は理解する。
「石も水も空も風も大地も何もかも、無機質・有機質問わず生きているのさ。石には意思が無いし、生命活動をしていない? だからどうしたと言いたいねぇ。意思が無くても『力が宿っている』のさね。例えば人が分かり易いのは、エネルギーを取り出す事に成功したウランとかは力そのもだろう? 石炭だってそうさ。その辺に転がっている石ころにすら力はあるのさね」
「マジかよ、そいつはまた凄いな」
何となく言いたい事が分かった流はこう続ける。
「つまり力の根源たる惑星からその力を分けてもらい、それを術式等で行使できる感じか?」
「「正解!」」
「まぁ簡単に言えば、惑星の命の一部を『分けてもらっている』と考えれば分かるがよ」
「そうさね。アタシらの妖力は闇の力。つまり負の感情や、闇その物等から力を得ているのさ」
「だからと言って、某・星間戦争みたいな『使えば闇に落ちる』とか言う事は無い、くり~んな力だっちゃよ」
「闇の力がクリーンってギャグかよ……」
根源の正体を知ると、思っていたのと違う! とツッコミたい気持ちだが、今は黙って聞く流であった。
「時にガキんちょ。一つ聞くが『役 小角』と言う名に聞き覚えは?」
その問いに思わず喉を鳴らす後鬼は、流の答えに真剣な面持ちで魅入る。
「役 小角? ああ知っているぞ。今の奈良県生まれで、お前達を使役した偉い上人だろう?」
「ほ、他には!?」
「う~ん……そうだなぁ、今は特に無いかなぁ」
「そうかぁ……」
がっかりとした前鬼、しかし諦めきれないとばかりに後鬼がつづける。
「坊や、最近夢見はどうだい?」
「夢見? そう言えば今朝は最悪の目覚めだったな。なんかこう、思い出せそうで思い出せない夢……それでいて大事な事を忘れてしまったような……何と言うか、そんな感じのとても不愉快な目覚めだった」
それを聞いて二人は思う。もしかして本当に主に連なる者では無いのかと。
「そ、そうかぁ……もし何か気になる事があれば、何時でもオイやカアチャンに言うがよ?」
「ああ、その時は頼むよ。何かなぁ~すっごく大事な事何だけど、思い出せないんだよ。あれは夢とかじゃない、何と言うか……分からん……」
とても悔しそうにしている流を見る夫婦は、見ているだけで何故か胸が辛くなってくる。
それは昔の記憶にある、「主の仕草にどこか似ていた」からかも知れない……。