152:教授、王都に雨ごいをする
「ナガレ。さっきも言ったが、これは避けられない事態だったんだ。それがたまたま今日だったと言うだけの事なんだからな」
「俺も領主様に呼ばれたのは、多分今回の事も含めてなんだろう。色々と王都でも噂はあった事だしな」
「アハン♪ その通りよん。王都やその他の冒険者達の中でも鋭い子達は、すでにトエトリーへ移動を始めているわん」
「ナガレっち~。わたし達もだよ~? あんな~糞溜まりの王都なんて~天から〇ソの雨が降って来て溺れればいいのよ~」
「教授! 言い方を考えて下さいと、何時も申していますでしょう? まったく……。でも教授の言う通りですよナガレさん。あそこは既得権益に魂まで縛られた、愚か者の住む都です。一度行ってみると分かりますよ、本当に酷い場所ですからね。だからいつかは、必ずこうなりましたよ」
そしてバーツが続ける。
「だからこそトエトリーがこの国の国民の希望であり、憧れなのだよ。言っては何だが、文明レベルが違うのでは? と思う事すらある場所もある。それだけ民の事を投げ捨て、自分達の私利私欲を満たす事しか考えられない貴族も多い。だからトエトリーを目指して人は集まり、逆に周りは衰退する。そんな状況をいつか武力で解決しようと、虎視眈々と狙っていたのを、今回の件で一気に推し進めるつもりだろう」
全員がこうなる事は必然だったと言う。
切っ掛けを作ってしまった流としては心苦しくもあるが、状況が動き出した以上、今はその言葉を素直に聞くのだった。
「分かりました。では俺も出来る事をしたいと思います」
「ああ頼む。それで今更だがこの二人の紹介をしよう。我がトエトリーの誇る魔法研究所の所長でもあり、防衛技術研究所の所長でもある『パイ・アール教授』で、その助手の『ジェームズ准教授』だ。彼は酔狂でな、教授として十分すぎる程の実力があるのだが、パイ・アール教授の助手をしとる」
そんなバーツの紹介で、残念そうな表情で話し始めるジェームズ。
「いえね、私だって教授として自分の研究をしたいんですがね。教授はこの通りでしょう? 一人にすると何をしでかすか心配なのですよ。そんな訳でナガレさん、よろしくお願いしますね」
「おたくも大変だな、よろしくな」
「ちょっと~。あたしがお荷物みたいな~言い方やめてくんな~い? そうです、あたしがパイ・アールです! って、ナガレっち~。あたしの胸を見て残念な顔するのやめてくんな~い?」
「そりゃあ教授の名前が、詐欺みたいなモノですからね? 世の男子は当然の反応ですとも」
「何よ~。アンタだってアレが名前負けしてるクセに~」
「どーゆー意味ですか!? 教授よりは遥かに立派ですよ!」
「はは~ん。自分の事は~分からないものな……ん、だから……」
「「言ってて空しくなって来た……」」
ガクリと項垂れる二人に周囲も、生暖かい目で見守る。
バーツは額に冷や汗をかきながら、流に二人の有用性を説く。
「こ、こんな感じの二人だが、とにかく優秀なのは俺が保証しよう。本当に優秀なんだよ、うん」
「アハハ……。まあ何かあったら世話になりますよ」
「では俺はそろそろ戻って、仕入れの準備をしますんで、暫く来れないと思いますが……」
「了解した。お前がいないと心配だが、無事に戻って来いよ?」
「ええ、ありがとうございます」
「あらん? ボーイはお出かけするのかしらん?」
「ああ。今回の件で早急に手を打つ必要があるから、その準備だよ」
「そうか……ここは俺とジェニファーに任せて、安心して行って来い」
「ありがとう、戻ったら二人に一杯奢るよ」
「それは嬉しいわねん♪」
「期待してるぞ?」
今だ落ち込んでいる教授達に、流は挨拶をする。
「パイ・アール教授、それとジェームズさん。いい加減立ち直ってくれよ?」
「「はっ!! そうだった!?」」
「二人にも今度一杯奢らせてくれ、じゃあよろしくな」
「まっかせて~。二日もあれば大体は分かるから~」
「ええ、教授の言う通りです。ナガレさんが戻るまでは、それなりに分かるはずですよ。それと例の宝箱の解析はその後になりますが、それも期待していてください」
「あ~そう言えばあったな、すっかり忘れてたよ」
「危険な物が無いか調べてから渡しますね」
「頼むよ、ではまたな。じゃあ皆行って来るよ」
そう挨拶をすませ、流は鍋を持ち入口へと向かい、メリサもそれを手伝って一緒に販売車へと運ぶ。
販売車へ荷物を積み込む流の姿をじっと見つめるメリサは、いいようのない不安に襲われる。
そして最後の鍋を積み終わると、メリサは寂しくポツリと呟くように流へと話す。
「……ナガレ様」
「ん、どうしたんだ?」
「貴方はきっと凄い方なんでしょうね。いえ、凄い方です。だから心配なんです、どこか遠くへと行ってしまいそうで……」
その言葉に思わず無言になってしまう流。しかし素直に気持ちを伝える事にする。