表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/539

014:デキル女はストレート

「オーイ! オーイ!」


 遠くから馬車の商人が手を振って近づいて来る。一緒に騎士が十五人同行していた。

 流も商人の無事を喜ぶと同時に、騎士達への説明も面倒だなと考える。


(とりあえず美琴の『絶対祟り領域』に触れた馬鹿は病死とするか、外傷は自分でつけた引っかき傷だけだしな)


「おっさんも無事着けて良かったな! 応援を呼んできてくれたのか、助かったよ」

「おっさんじゃねー! まだ二十五歳だ。しっかしソレは一体……馬と何だ、それは?」

「おっさんも見たあいつら盗賊の鎧一式だよ。なんだかくれたんだよ、平和的にな」

「おいおい、マジかよ……」


 すると騎士達の代表が話に割り込む。


「すまない、ちょっといいかい? 私はアレド。この隊の隊長をしている」

「それはご丁寧にどうも、俺はしがない商人見習いの流と申します。以後お見知りおきを」

「ふむ、ナガレとやら。では早速だが聞かせてくれ、この馬達や背の甲冑? のような物は?」


 アレドに賊との顛末を一部優しくオブラートに包み「真実」を話す。


「なるほど、するとこの先に病死の男と手首が落ちてると?」

「ええ、そのはずです。野犬にでも食べられない限りはね」

「では副長、隊から半分を率いて確認に向かえ。残りはこのまま帰投する」


 そうアレドが副長に命ずると、副長は即座に兵を半分に分け賊との戦闘現場に向かった。


「しかしナガレは随分と腕がたつんだな? その腰の剣……か? それで戦ったのだろう?」

「そうですね、この剣は『刀』と言う種類の武器になります。正確には『日本刀』と申しまして、我が国最高の武器の一つですね。この国にはそんな私の故郷せかいの品々の良さを知っていただけたら、との思い来てみました」


 ほ~とアレドは感心するように美琴を凝視する。若干美琴が嫌がっているのか、桜の色が薄くなっているのが分かった。


「するとナガレはこの国には行商に来たと?」

「まあそんな所です。とりあえずこの先の町で商売が出来るか見てみたいと思いますね」

「ならばまずは商人ギルドへ登録するといい。この国での税制面で優遇されるし、商人同志の繋がりも豊富だと聞く」


 流は新しい情報を心のメモにしっかりと記入して次の質問へと移る。

 うまく行けば更に人脈形成が進むかもしれない。


「アレドさん、それでこの馬とかどうしたらいいんですか?」

「そうだな、基本的に君が討伐したのなら全て君の物だ。今回はこの男、ファンの証言があるからナガレが盗賊と言う事は無いと確信しているから問題あるまい」


「そうですか。でしたらお近づきのしるしに、四頭を相場の半額で騎士団へお譲りしますがどうでしょうか?」

「おお! それは本当か? そうして貰えると助かる。是非そうしてくれ」

「ではそう言う事で。残りの一頭はえっと、ファン? だったか。助けてくれたお礼に譲るよ」

「おいおい、助けてもらったのは俺の方だぜ? 逆にお礼がしたいほどだよ」


 流としては多分売る品は条件解放すれば品数はあるはずだし、殊更金に執着するより、人脈を広げたいと思ったのでこの提案をしたのだが、思ったよりも効果はありそうだった。

 あらためてお互い自己紹介しあい、話も弾んで来たところで目的地が見える。


「ナガレ、もうすぐトエトリーの町に着くぞ」


 そうファンが言うと、これまで視界を覆っていた木々がまばらになり森を抜けた。すると丘の上から遠くに見えた街並みと、結構高い防御壁がハッキリと見られる所まで来たのだった。


「おお~初の異世界の町か。楽しみだな!」

「イセカイ? なんだそりゃ?」

「あぁ~俺の方言みたいなものだ、気にしないでくれ」


「外からだからいまいち分らんが、それでもかなり大きな町だと分かるな」

「そうだぜ。この町はな隣と言うか、囲まれている伯爵領との交易が盛んでな。主にダンジョンから出る魔鉱石を加工・販売をしているから賑わっているんだわ。ま、その他にも色々商売の中心的な町さ」


(出たよ! ダンジョン! ボスとか居るのか!? 行ってみたいな)


「へぇ、そのダンジョンってどんな感じな所なんだ?」

「そうだな。デカイ、とにかくな。地下十五層までは分かっているみたいなんだけどよ、その下はまだ誰も行った事がねーんだ」

「と言うと、狂暴なモンスターでも居るのか?」

「そのとおりだぜ。何でも人型でな、その連携した攻撃は双子みたいに息の合った、馬と牛みたいな化け物が邪魔をしてるんだとさ」

「それはまた……(ミノタウロスか?)」



 やがて防衛壁の門の前に到着すると、アレドは離れ門番へと何かを伝えに行った。

 しばらくすると戻って来て、町への入場許可の手続きが済んだことを流に伝えるのだった。


「ナガレ、これを持っていてくれ。これがあれば半年は通行税がフリーになるパスだ」

「それはアレドさんありがとうございます、この国の事が全く分からないのでとても助かります」

「なに、こちらとしても騎乗馬三頭も格安で譲ってくれると言うのだから、この程度はな?」

「ではお互い様と言う事で」

「ハハハ実に商人らしい。馬はそこの門番へ預けて置いてくれ、支払いは後この道を真っ直ぐ進んだ先にある『領都守護騎士団』の詰め所まで来てくれ。そこで支払いをするのでな」


 そう言うとアレドは一枚の紙に取引内容を書き、サインと判子のような物を押した。


「じゃあこれを持って行ってくれ、受取証だ。そこにナガレのサインも書いて出してくれ」

「分かりました。アレドさん、色々ありがとうございました」

「こちらも助かったよ。ではまたな」


 そう言うとアレドは部下を引き連れて詰め所の方へ戻っていく。

 馬とクズ鎧を門番の屯所へ移動して、さてどうしよかと思っていたらファンが流れに提案してくる。


「ナガレ、この後予定はあるか? 無ければ町を案内するぜ? その後生還祝いでもしようじゃないか?」

「お~それはいいな! じゃあファン、悪いが付き合ってくれ」

「お安い御用さ! じゃあ行こうぜ」


 門から正面の道は真っ直ぐ続いており、最奥には広場があるようだった。

 街並みは石造りの家が殆どで、稀に木材だけの建築物がある。

 通りの両脇には露天が立ち並び、店の奥から次々と新鮮な食材が補給され、とても活気のある場所だった。


 人々も多様で、人間種が一番多いがエルフやドワーフ等の亜人も多く、中でも動物が人になったような獣人が特に多かった。

 広場まで来ると大道芸やら露天やらで人が溢れ、中央には噴水があり癒される。


 ファンに町の規模を聞くと、人口は多分十万以上は居るだろうとの事だった。

 経済規模で言えば、この国の王都より遥かに大きいと言う普通の国ではありえない状態だと言う。


 その中央通りを抜け、三叉路を左に曲がった所に商業ギルドがあるとファンに教えてもらい、早速行ってみる事にした。

 商業ギルドは三階建てでかなり大きく、横には倉庫のような建物が数棟あり、その奥にも倉庫がある様にも見える。


「ちわ~ギルマスは居るかい?」

「あぁ、ファンさんいらっしゃい。ギルマスは今三階に居ますよ、呼んできましょうか?」


 そんな受付嬢が無感情に答えた事とは真逆に、ギルドの中は静かだが熱い取引が行われているようだった。

 ギルド内は受付窓口が八つほどあり、半分ほど埋まっている感じで、商談のためかホールには丸テーブルやカウンターが複数あり、そこで話し込んでいる人もいる。


「いや、俺たちが行くよ。そうだ、こっちの若いのはナガレって言うんだ。一人で盗賊五人を倒しちまう凄腕の商人さ。よろしく頼むよ」

「そうでしたか。ナガレさんようこそ、トエトリーの商業ギルドへ。ギルマスとの話が終わったらこちらへ来て登録なさいますか?」


 実に機械的に対応し、しかも自分を何故か「品定めするような視線を向ける」受付嬢に少々ムカっとする。


「ああ、すまないがよろしく頼むよ、えっと……」


 流の言わんことを汲み取った受付嬢は思い出したかのように言う。


「ふぅ、これは失礼しました。私はメリサと申します、よろしくお願いしますね」

「こちらこそよろしくな」


「それと、ギルドマスターはお忙しいので時間をあまり取らせないでくださいね。特に何処の誰か良く分かっていない『そこのナガレさん』分かりましたね?」


 と殊更強調してナガレに注意する。


「へいへい、分かってるさ。な? ナガレ」

「……ああ」


 メリサは良く言えばデキル綺麗なお姉さんで、悪く言えば感じが良くない冷たい顔の美人だった。

 髪は淡い青色で、肩まで伸ばしたストレートを耳にかけている。

 体形は上下の凹凸が凄い。黙っていれば求婚者が殺到間違いなし! そんな受付嬢だった。

 そんなメリサを良く見ると眼鏡をしているのだが、何故かレンズが無い。伊達メガネだろうか?


 メリサとの挨拶がすむと二人はギルドマスターの部屋まで案内される。重厚な樫の木のような木材で作られた立派なドアが目の前にあった。


「ギルドマスター、メリサです。今お時間空いていますか?」

「おう、客かい? 通してくんな~」


 部屋の中から答える男はなんとも気楽な口調で答え、受付の娘とは違う好印象な感じだなと流は思う。

 扉を開くと広い室内には大きな一枚板のテーブルに、皮製の豪華なソファーセットがあり、そこに一人の初老の男が居た。


「お!? 誰かと思ったらファンじゃねーか。元気にやってたかよ?」

「おうよ、バーツのオヤジも元気そうでなによりだぜ」


 どうやら二人は友人のような関係で、双方くだけた感じで話していた。


「おう。それでそっちのボウズは?」

「こいつはナガレって言うんだ。海の向こうから来た商人で、しかも腕っぷしが凄いぞ? ここらを荒らしている盗賊団の五人をあっという間に倒した」


 ファンは見ても居ないがそう断言する。


「……殺盗団か?」

「それだ、正にそいつらさ。あの下品なドクロの刺青は間違いねぇ。俺も襲われてな……その時丁度通りかかったナガレに助けられたって訳だ。今そいつらから奪取した戦利品は騎士団に売り払ったりした所さ」

「うーむぅ……それならこの町の商業ギルドとしても心強いわ。ナガレと言ったか、よく来てくれた。俺はここのギルドマスターをしているバーツと言う。この町で商売するなら便宜を図るから気軽に言ってくれ」


 流も挨拶をすませると進められたソファーに座る。

 話にでた殺盗団と言う奴らには、確かに腕や首にそんな刺青があったと思い出しその事を尋ねる。


「ところでその殺盗団と言うのは何です? さほど強くも無かったのですぐ終わりましたが」

「ホッホあの非道な屑共を雑魚呼ばわりたぁ、益々もって気に入った。あいつらは正に外道ってやつでな、火付け、誘拐、強盗、押込み、殺人は通常営業で、おやつ感覚で強姦をする屑の中の屑共だ! 話してるだけでイライラしてくるわ」


 そう言うとバーツは冷めたお茶を一口飲む。


「と、忘れとった。メリサ、悪いが茶を三つ用意してくれ」


 バーツがそう言うと、メリサは頭を軽く下げ部屋から出ていく。


「それでナガレはどんな品を扱うんだ? そのカバンも変わった形だが……それにその腰の……いや、それよりそのカバン中に品が入っているんだろ?」

「ええ、これはリュックと言う物ですね。では今持っている品をお見せします」


 流は美琴をソファーの横に立てかけると、リュックから持ってきたものを取り出した。



リックをリュックに変更したと思ったら、なってなかったでござるΣ(゜д゜lll)

変更しました……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 日本人的にはリュックちゃう?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ