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013:【続・森を抜け町へ行こう】第一道人

 異超門を抜けた先にはここ最近見慣れた光景が広がっていた。


「特に変わった事は無いな……さて、まずはセリアに教えてもらった通り行ってみるか」


 流は現在の時間を確認をした後に高台を降り、まずはゴブリンの集落へ向かう。途中危険な生物にも会う事なく、無事に集落へと付いたのだった。


「まぁこうして見ると、確かに村ってよりは集落だよな……」


 辺りにはすでにゴブリンの死体は無く、小屋は打ち壊された上で燃やされていた。


「例の応援がやったのか? まぁこれで奴らの仲間が来たとしても住み着く事は出来ないだろうな」


 その後森を進むとセリアが言っていた開けた場所へ到着し、そこから十分ほど進むと大きな街道に出た。


「おおお! ちょっとだけ文明の香がするぞ! ワクワクするわ、マジで!!」


 意気揚々と道を歩く、しかしいくら進んでも上から遠くに見えた町は近づいてる感じがしない。むしろ感覚的には遠ざかっている感じすらした。


「やべぇ……現代人にはなんて過酷な環境なんだ……誰かタクシー呼んでくれ。無ければバイクを貸してくれ……路線バスでもいいぞ、俺が上得意様になってやる……」


 何時到着するか不明で、しかも慣れない悪路。さらに暑さのせいか意識も朦朧としてきたが、砂漠ではないので木陰で一休みする。


「現代人の弱点だなこれは、それとも俺がひ弱なのか? それとアレ、アレが欲しい! そう自転車が切実に欲しい……愚痴っても仕方ないから歩く、か……」


 そうこうしていると後ろから聞きなれない大きな騒音が迫って来る。見れば口から泡を吹きながら疾走する馬車が迫って来た。

 見ると必死に「何か」から逃げているようだった。


「オオイ!! そこの旅の人! 後ろから賊が来ているからこれに乗れ!!」


 そう言うと馬車の男は流に手を伸ばしてきた。


「お? おお悪い!! 助る!」


 徒歩の旅も終わるのだと安堵した流だったが、馬車を止めず男は流の手を取ると思いっきり引き上げる。

 どうやら緊急に何かから逃げている事があるようだ。


「ふぅ助かった。アンタ一人で逃げた方が早かったのに俺まで悪いな」

「何、旅は道連れってやつよ」


 そう男はニヤリと笑う。見た目は三十代後半で、苦労しているのか顔は疲れた感じではあるが、黒い瞳の目力は滾っており、熟練の商人と言った風貌の男だった。

 よほど焦っているのか灰色の長髪を乱雑に縛り上げ、それなりに整った顔に汗を拭きだしながら背後を気にしている。


「それで何が来るんだ? まさかゴブリンの集団とかか?」

「いや来てるのは、チィ――人間だ」


 そう言った所で背後から馬に乗った集団が見え、男は苦虫を噛み潰したような顔になる。


「またいきなりこれかよ、一体いつになったらトエトリーの町に着けるのかねぇ……『あらすごい』仕事しろ」


 尽く異世界で争いに巻き込まれる流は、いい加減『あらすごい』に疑いの目を向け始めていた。


「チッ、後ろに居た連中は全滅か? 今は雑魚っぽいのが五人だけなのが、逃げるのに狙い目かと思ったんだが……」

「後ろの奴らって? 他にも仲間が居たのか?」

「いや、俺だけだ。他ってのはトエトリーへ向かってた護衛付きの商人だろうよ。俺は襲われている所が見えて迂回して逃げて来たんだが、どうやら見つかっていたらしい。悪いな兄ちゃん、俺の馬車が襲われてるうちに逃げてくれ」


 必死に馬車を走らせる男であったが、単騎で駆けてくる馬には当然敵わず徐々に追いつかれる。


「心配すんな、人とやり合うのは初めてだが……なんだか出来そうな気がする」

「おい、無理するな。大人に任せてお前は行け!」 

「心配ご無用、俺だって――」


 そう言うと流は限界速度の馬車から飛び降りる。


「最近大人の仲間入りさ」


「馬鹿野郎!! くぅッ! スマネエ兄ちゃん、町へ着いたらすぐ衛兵を呼んで来るからな!!」


 そう言い残すと馬車は去っていく。


「はぁ、困った事になりましたね、美琴さん。俺の人生殺伐としすぎだろ。さて……頼むぞ!!」


 そう言うと美琴は強く震え返した。


 間もなく騎馬が五騎すぐ傍まで迫って来た。

 風体は如何にも盗賊然としたもので、鞣した動物の毛皮を鎧の上から纏い、その皮から覗く鎧は、ちぐはぐの部品を無理やり着込んだ感じであった。


「オイ! そこのガキ、逃げた商人に捨てられたのか?」


 リーダー格の盗賊がそう言うと周りの者もゲラゲラと品の欠片もなく笑い始める。


「まぁ~そんな所かね。で、そこの勇者ご一行様は可哀そうなガキに何かお恵みでも下さるのですかい?」


 流は両手を差し出しクレクレアピールをする。


「……舐めたガキだ。どうせ死ぬんだから今死んどけ! って、なんだその腰にある剣は? 見た事が無い形だな……どうだ、素直に寄越すならひと思いに殺してやるぞ? 慈悲深く・・・・なぁ」


 男はそう言うと馬から降りて流の傍まで来る。それを見た他の連中も気持ちの悪いニヤケ顔をしながら馬から降りて来た。


「まぁ……構わないが、良いのか? きっと大変な事になるぞ?」

「あぁん? 馬鹿かテメーは? 大変な事になるのはテメーだよ。オイ、ガキから剣を取って来い」


 男は手下にそう言うとその場で腕組みをする。手下は「ヘイ」と一言言うと、流に向かって手を出してきた。


「ほらさっさと寄越せ!」

「はいよ、ドーゾお納めください」

「チッ、ムカつく態度だぜ、だがそれも今だけよ」


 手下が美琴に手をかけようとした瞬間それは起きた。


 手下の手がピクリと震えたかと思うと、ガクガクと震えだす。さらに失禁をしたかと思うと過呼吸気味に浅い息を繰り返し始める。


「お、オイ! どうしたハング?」

「ヒッヒッヒッ……ヒャアアアアアア!!!!!!」


 ハングと呼ばれた男はそう叫ぶと、自分の髪の毛を毟り始め、血みどろになりながら顔をかきむしり、最後はこう叫んだ。


「ヤメヤメヤメあああやめェェェェェ嫌だああああああああああ!! ゴッチニ来るなあああああああああああああああ!!」


 そう言ったのが最後となり、ハングは盛大に吐血して後ろへとひっくり返った。


「触れる事すら許さん……か。そりゃぁこんな汚物相手は嫌だよなぁ、俺も嫌だったがどうなるか興味あったんだよな、ごめんな美琴。それにしても凄惨だな……」


 どこぞの拳法使いが「押してダメな所」を押した後のような有様で、ハングは苦悶の表情で死んでいた。


「ほれ、次は誰が持って行ってくれるんだ?」

「ヒィィ」「何だコイツ……」「オイ、アニキどーするんだよ!」


 子分:A・B・Dは混乱している。


「こっこのクソがああ! ハングに何をした!!」

「ベツニ……」

「ック、舐めやがって!! 何もんだテメェ!?」

「俺? ただの商人だけど」

「そんな商人が居てたまるか!!」


 どうやら怒ったらしい、異世界でもこの煽りは通じると判明した瞬間だった。


「よし、お前らに三つの選択肢をやろう。一つ、『身ぐるみ置いて帰る』。二つ、『腕一本置いて帰る』。三つ、『命も全部置いてあの世へ帰る』。さぁ選べ、三分待ってやる。慈悲深く・・・・なぁ」


 流はそう言うと美琴を腰に佩き直し、後ろへ三歩意味も無く下がる。


「こ、このガキャ! お前ら全員でぶっ殺せ!!」

「あぁ~やだやだ、文明的なお話が出来ないんですかね」

「殺れ!!」


 リーダー各が指示を出すと、子分共が襲い掛かって来る。


 子分達は全員ロングソードを装備しており、流を半包囲で襲い掛かる。

 流は居合もどきで抜刀し、子分Aの右肘を斬りぬき、返す刀で子分Dの左手首を斬り飛ばす。

 一瞬の事に唖然としていた、残った中央の子分Bの喉元に美琴を突き付け、アニキとBに言い放つ。


「で?」


「わ、わ、分かった!! いえ、分かりました!! 身ぐるみ全部置いていきますから命だけはご勘弁ください!」


 そう言うと盗賊達は持っている物全部と、鎧一式を置いて歩いて去っていく。


「うわぁ……こんなアニマルアーマーいらねーぞ」

 

 見ると使えそうな物は無く、銀貨三枚と銅貨が二十七枚だった。


「チ、しけた盗賊だな」


 最早どちらが盗賊か分からない言いようである。


「さて、あとはあの馬達か……ジジイに乗馬も習ったから乗れるとは思うが」


 馬は五頭大人しく並んでおり、何かの道具も積んでいるようだった。

 鞍はあるものの、鐙が無く操作性に不安があったが、徒歩よりは遥かにマシだろうと騎乗する事にする。

 馬にはロープが積んであったので、ゴミ同然のアニマルアーマーを一頭の背に括り、さらに残りの四頭を何とか順にロープで括り付けた。


「これ以上ここに居ると仲間を呼ばれるかもしれないから、早急に町へ向かうとするか」


 慣れない乗馬で苦労しながらも何とか進み始める。幸い繋がれた馬達も大人しく付いて来てくれているようだった。


 鐙が無いので何度か落ちそうになりながらもしばらく進んでいると、前方より騎兵が迫って来るのが見えた。 

 一瞬身構えるがその集団の中に、先ほど別れた商人の男を双眼鏡で確認した流は安心したのだった。


 




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