137:恩には恩で報いよう
「そうだ、お前達の言う通りだ。俺は弱い、お前達の足元にも及ばないだろう」
「古廻様……」
〆は目端に涙を浮かべ、そのまま聞き入る。
「だが状況は待ってはくれない、だがお前達の気持ちは嬉しく思う。そこで妥協案だ」
「壱:妥協案でっか? それはまた」
「まぁ聞いてくれ。参、地下十階層の時間は操作出来ないのか?」
その言葉で一同はハッとする、その手があったと。
「フム! 出来ます! 異界骨董屋やさん程ではありませんが、ある程度は遅らせる事が可能です」
「目の付け所がとても鋭い! 私の古廻様がこんなにご立派になられて……」
「壱:お前んやない! しかし本当にその着眼点には驚きましたでぇ」
「もしクソジジイが間に合えばそれでいいが、俺もお前達の意見に耳を傾ける事とする。前ちゃんと後っちゃんに修行を付けてもらい、ある程度実力が付いたらダンジョンアタックだ!!」
全員が頷くと、即座に準備にかかる。
〆は異怪骨董やさんへ戻り材料を取りに、参は地下十階層へ行き空間調整の準備を。
執事達は大規模な調整で、一時的に守りが無くなる館の警備をさらに強化を。
そして壱はやる事が無いので、流と商業ギルドへ行くのだった。
「そう言えば壱よ、異怪骨董やさんでは戦闘訓練は出来ないのか?」
「壱:そうでんなぁ。出来なくも無いんやけど、あそこは向いていませんねん」
「と言うと?」
「壱:例えるなら火薬庫の中で、重火器の練習はゾっとしますやろ? そんな感じですねん」
「それは嫌な例えだな……。まあ良く分かったよ」
壱の的確な例えに思わず顔が引きつるが、確かにそうなのだろうと思う。
「壱:それにしてもまさかダンジョンとは、あんな事を言いだすとは思いまへんでしたがな」
「そうか? まぁそうかもな。俺もまだダンジョンは早いとは思っていたからな」
「壱:じゃあ何故あんな事を?」
「どうしてだろうな……。強いて言えば限界を突破したい……とか?」
「壱:流石、重度の厨二病を患っているお方の言葉は、重みが違いますなぁ」
「だろう?」
二人は大笑いする、そして腰の美琴はガクリと肩を落としたように揺れた。
すると目の前に知っている顔の、オヤジの屋台があるのを思い出す。
「嵐影、三つ目の屋台の前で止めてくれ」
「……マ」
屋台の前に来ると、嵐影はゆっくりと止まる。
屋台のオヤジは客が来たのかと思ったのか、顔を見上げて乗っている流を見る。
「いらっしゃ~、お!? アンタは先日の兄ちゃん! 元気そうだな!」
「ご店主も元気そうで良かったよ、先日は美味い串焼きとコショウをありがとな!」
「な~に、長く露天をやってるとな、良い客ってのは顔見ただけで分かるってもんさ」
「そう言うもんか~。あ、そうそう。ご店主に良い物がある、受け取ってくれ」
「んん? 何だ~?」
流はアイテムバッグからコショウを三袋取り出す。
「今はこれしか持ってなくて悪いけど、受け取ってくれ」
「んん? コレは……。ってまさか!? こ、これはコショウ……」
「ははは、驚いたか? 先日の礼だ、取っておいてくれ」
「ば、馬鹿野郎! こんな高級な物貰えるかってんだ、しかもかなりの上物だろ? 香が違う」
「まぁ上物には違いない。だがな、ご店主のお陰で俺はスパイス屋を始める事にしたんだよ。そのヒントのお礼に受け取ってくれ」
「いいのかよ……」
「もちろんだ。それにな、ラハーシア広場でスパイス専門店を始めたんだ。そのコショウは一袋銀貨一枚で売ってる。ご店主なら店で使う分なら半額で売ろう、ただし転売は勘弁してくれよな?」
「ま、マジかよ……。ああ、モチロンだ! 転売なんて絶対にしないと誓う!」
「そうか、そりゃ良かった。ならこれを持って行ってくれ」
流は腰のアイテムバッグから五センチ四方の薄い板を取り出すと、サインを書いてから、その板を適当に割る。
それは割符と呼ばれる物で、割れた板をくっ付ければ、書いた絵と独特な割れ方が合わさり一枚の板になると言う、昔の認証鍵のような手法だった。
「ほら、これの片方を持ってラハーシア広場の大噴水前にある、ギルド管理用地まで来てくれ。俺が居なくてもこれがあれば分かる様に、もう片方をウチの店員に持たせておく」
「ありがてぇ! 兄ちゃんは俺の救世主だ!」
「俺もご店主のお陰で良い商売が出来そうだよ、じゃあまたな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!! お礼と言っちゃ不釣り合いだが、今ある串焼き全部持って行ってくんな!!」
「お、いいのかい?」
「あたぼうよ! ここで礼の一つも返せないようじゃ、屋台のオヤジを名乗る資格はねえ!!」
「悪いな、じゃあ貰って行くよ」
「あいよ! ちょっと待っててくれよな!」
流は屋台のオヤジから貰った数個に分けた大量の串焼きを、薄い木の皮に包んだまま腰のアイテムバッグに収納し、そのまま商業ギルドへと急ぐ。
「そうだ! 壱よ、悪いんだけど頼まれてくれないか?」
「壱:はいな、何でっしゃろか?」
「この串焼きを温かいうちに、冒険ギルドのエルシアに持って行ってくれないか? 後、もしいたらジェニファーちゃんにも頼むよ」
「壱:了解でっせ、古廻はん。ほな行って来まっせ~」
流が持っていた袋に入れ変えた串焼きの包みを受け取ると、壱は足を生やしてその爪で器用に袋を持って飛び去って行った。
もし面白かったらブックマークと、広告の下にある評価をポチポチ押して頂いたら、作者はこうなります→✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*。
特に☆☆☆☆☆を、このように★★★★★にして頂けたら、もう ランタロウ٩(´тωт`)وカンゲキです。
ランタロウの書く気力をチャージ出来るのは、あなた様だけです!