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133:やさしきけもの

「こちらに居らっしゃいましたか、お……こほん、御館様」

「セヴァス……。チッ、追跡の魔具か。久しぶりの休日も終わり、か」

「何だよ、今日は休みだったのか? 悪かったな付き合わせちまって」

「何を言う! 俺は今日ほど楽しい事は無かったぞ? こんなに楽しいかったのは生まれて初めてだ」

「そうか? 俺も心から楽しんだ。それもこれもお前のおかげだよ。ありがとう、え~っと……」


 そこで二人は未だに名乗っていない事を思い出す。


「そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は流、古廻流と言うんだ。よろしくな!」

「え!? まさか噂の巨滅兵を討伐したって言う……」

「ちょっと前の奴なら俺だと思うぞ? あぁ、今日は腕章付けてないから分からないよな。何だよ、知ってたのか~」


 その言葉に金髪の漢は額に冷や汗を流す。そしてそれを見つめるセヴァスは、

もっと青い顔をしていた。


「そ、そうか。ふふ……そうだったんだな! はは、はっはっはっは!」

「おいおい、いきなりどうした? 悪い物でも食べたか?」


 いきなり笑い始めた金髪の漢に、流は食質・・をするが、不毛な答えが返って来る。


「それを言ったらお前もだろう?」

「確かにな!」

「「ハハハハ」」


 暫く笑った二人は落ち着くと、金髪の漢は流へくるりと背中を向ける。

 そして、そのままの姿で流へと名乗りをあげる。


「俺の名は『トエトリー・フォン・カーズ』だ」

「えええ!? まさかお前ってここの領主なのか?」

「……そうだ。俺は……ここの領主をしている。だが、しかしだ!」


 カーズは振り向くと、ナガレの胸に向け拳を出す。


「俺達は友達……だろ?」

「何を言っている、当たり前だろう?」


 流もまたカーズの拳へ己の拳を突き合わせる。


「なあ……、ナガレ。また一緒に遊んでくれるか?」

「当然だろう? 何時でも誘ってくれ。流石に俺からは連絡するのは気が引けるしな」

「いやその内……。ふっ、そうだな。俺から連絡しよう」

「もし良かったらさ、俺の屋敷にも遊びに来てくれよ。大歓迎するぞ?」

「そ、そうか!? 行ってもいいのか?」

「おう、勿論だぞ? 何時でも来いよ、待ってるからな?」


 その言葉を聞いてカーズは頬を上気させ、興奮して返事をする。


「ああ、ああ! 絶対に行くとも!」

「……申し訳ありませんお館様、そろそろお時間です」


 その言葉にカーズは、セヴァスを射殺すように睨みつける。


「だ、そうだ。なに、すぐにまた会えるさ」

「そうだったな……。流、また会おう!」


 そう言うとカーズは迎えに来ていた馬車へと乗り込む。

 そして馬車の窓から流をじっと見ると、ニコリと笑い手を振って去って行った。


「カーズか。まさかあのいけ好かない男が、ここの領主様とはなぁ……。また、会えるよな……?」


 流は去って行く馬車を見つめながら、寂しそうに独り言ちる。

 ほんの数時間の出来事だったが、その濃密な出来事を思い出し、それが終わったのだと思うと妙に寂しく感じるのだった。



◇◇◇



 同じ頃、馬車は領主の館へ向けて足早に向かう。

 まるで一刻も早く、外の世界からカーズを隔離するように……。


「まさかあの方が古廻流様だとは、思いもよりませんでしたな」

「……ああ、そうだな。だがよく見れば流の腰には刀が差してあったのを、流と別れる時になって初めて気が付くとはな。とんだ守護者も居た物だ」


 セヴァスはその言葉にピクリと眉を顰めるが、ふと先程の主の行動に思い至り質問をする。


「お館様、よかったのですか? あの場は普通握手では?」

「お前が来なければそうしていたかもな。だが、あいつは屈強な侍だ。その戦士の手に俺如きの根性の無い、柔らかな腑抜けた手など失礼と言うものであろう?」

「そう、でしたな。差し出がましい事を申しました」

「それにだ。またすぐに会えるさ、嫌でもな」

「…………」


 一気に空気が重くなった車内は、二人を押し込めるように重く圧し掛かる。

 その後どちらも言葉無く、領主の館まで向かうのだった。



◇◇◇



 流は一人寂しくラハーシア広場を歩く。

 時刻は既に十八時半を過ぎており、自分の店はすでに撤収したと分かっていても、何となくそこへと向かう。

 周囲の屋台は今だ輝きを失わず、逆に魔具の光によって幻想的な風景に仕上がり、昼とは違う夜の活気に沸き立っていた。


「ふぅ~。当然撤収した後だわな……」

 

 通常の屋台スペースの十倍程あるその場所には、テーブルと椅子以外何もなく、周囲からの明かりでそこだけポッカリと穴が空いているように見える。


「嵐影も……居ないわな。そりゃあ販売車引いて帰ってるもんなぁ」


 そう思いながらも、流は嵐影が浮かんでいた場所へと向かう。

 噴水からは水が今も落ち続け、それをライトアップする魔具で照らされている。

 その色は主に青系統が主体だったが、赤や紫、時には黄色や緑色になり、その様子は実に幻想的であった。


「ふぅ……。少し噴水の縁に座ってから帰るとするかな」


 流はそんな幻想的な噴水を、ボーっと見上げながらため息を吐く。

 そして縁に座ろうとした瞬間、それは起こった。


「うわあああ!? すわっ魔物か!!」


 いきなり水面が隆起したと思うと、そこから大きな影が飛び出す。

 そして流へ向けて吠える。


「……マ!!」

「ら、嵐影かよ~。驚かすなよな~って、お前待っててくれたのか?」

「……マァ」

「そうか~。ありがとうな、わざわざ戻って来てくれたのかぁ……。本当にありがとう」


 そう言うと流は嵐影の頭を一撫ですると、嵐影は濡れた鼻先を流へと押し付ける。


「おっふ。甘えん坊だなぁ~。おかげでお前の鼻のスタンプが出来たぞ?」

「……マ~」

「え、チョットマテ!?」


 嵐影は流の静止も無視して例の儀式を始める。

 それは体に着いた水を吹っ飛ばすブルブルだった。


「ぎゃあああ!? 俺の全身ずぶぬれだ!!」

「……マッマ~」

「この野郎!! 許さんぞ!?」


 そう言うと流は噴水へ飛び込み、嵐影へと水をかける。

 その様子を腰の美琴は呆れて見ているが、流が元気になって良かったと心から思うのだった。

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