131:黒金の領域者
「今日も売れたなぁ。店仕舞いも済んだしっと、嵐影帰るぞ~!」
ぷかりと浮島になっていた嵐影の背中には、亀や鳥達、そして犬まで乗っていた。
嵐影は起き上がると、背中の鳥達は飛び立ち、亀は水に潜る。
そして犬を乗せたまま泉を出ると、そこでしゃがんで犬を下ろしてやっていた。
その後凄い勢いで水をはじく嵐影は、どことなくスッキリとした顔をしてる。
「ワンコは泳いであそこまで行ったのか? 何が動物達を引き寄せるのか謎だ……」
すっかり水切りが済んで乾いた嵐影は、流の元へ来て鼻を押し付ける。
「おっふ。待たせて悪かったな。しっかしもう乾いたのか?」
「……マ」
「ホントだ、乾いている。不思議な毛並みだな~」
メイド達もすっかり帰り支度が済んだようで、すでに馬車に乗り込んでいた。
帰りに道に八百屋があったので、嵐影の友達の馬に好きな野菜を買ってあげる。
そのまま幽霊屋敷へと帰館し一日が終わるのだった。
◇◇◇
それから数日が過ぎても、相変わらず客足は途絶えなかった。と、言うより逆に増えていた。
それでも最初のような混乱は無くなり、客達も落ち着いて来たと言う事で、メイド達が流へと提案する。
「ご主人様。こちらはもう大丈夫でございますから、この市場を散策なされてはいかがでしょうか?」
「う~ん。まぁ確かに俺が居なくても、既に問題無いしな……。じゃあ行って来るかな」
「はい、行ってらっしゃいませ」
「じゃあ行って来る。嵐影は……。ああ浮いてるなぁ。嵐影は置いて行くからよろしくな。もし俺が帰らなくても、心配しないで店を閉めて屋敷にへ戻ってくれ」
「承知しました」
流はこの市場をゆっくりと見る事は初めての経験だ。
そこには見た事も無い物にあふれ、香にあふれ、色にあふれていた。
活気ある市場を歩くだけで何か良い事が起こりそうな、それでいて未知の品々との邂逅に、心が子供の様に踊る様を感じながら市場を散策する。
「見ているだけでワクワクするな……。ああそうだ! 縁日だ、縁日に来た気分だこれは!」
絶対に高価な品が当たらないクジ。普通なら買わない変な物。すくった後で後悔する金魚。
それらと似た感じの物に満ちあふれている、一種のカオス感が実にいい。
また実演もおもしろい。魔具の屋台では、給湯器の実演が行われており、火も無いのにバケツ一杯分ほどの水が数十秒で沸きあがり、空中に浮かんだ扇子のような物が自動で動き、風を生み出す。
他にもどうやって動いているのか不明の馬のおもちゃや、見た事も無い綺麗な花の店など、その屋台の種類の豊富さと珍しさは、見ていて最高におもしろい。
そんなこの場所が、流にはとても愛おしく感じた。
途中でカキ氷のような店があったので、そこで一つ買って食べると予想の斜め上の味だった。
「ちょ!? しょっからいのかよ! 甘くするだろ普通!」
思わず異世界の洗礼をまた受ける事になった流は、口直しに別の屋台へと向かう。
屋台群が丁度切れ、その十字路を右に曲がり、すぐ目の前にある屋台に目が釘付けとなる。
そう、あったのだ。あってしまったのだ、一番見てはいけない屋台。
――そう、骨董屋台が。
「ご店主!! 見せてもらってもよろしいか!?」
「ひぃ?? は、はいどうぞ好きなだ――」
「これは何という品だ!?」
「ひぃ!? そ、それはトール帝時代に作られた皿ですが、面白い形をしていたので仕入れて見ま――」
「そんな事はいい! それよりもこの高台裏の『ぺたぁ』っとした感じはどうだ? 一見平らに見えるが、そんな事は無い! 見ろご店主、高台より裏へと続くこの曲線美が実に慎ましい、分かるか!?」
「ひぃぃ、そこまでは見て居ませんでし――」
「そんな事で骨董屋のご店主が務まるか! 一から勉強をし直すんだ、俺も手伝う!」
「い、いやご遠慮いたしま――」
「何故そこで諦める……そこで諦めたら試合は終了だぞ!」
「ちょ、一体何の試合何で――」
「ご店主! それより皿なのに、微妙な腰がまた美しい……」
流は店主の目をジっと見つめて、真剣に話し始める。
「気に入った、俺の家族にならないか?」
「な、何を言っているですかアンタは!? 俺にそんな趣味は無――」
「馬鹿野郎! あんたじゃない、この娘だ!」
「そ、そうですか……はぁ、今日はこんな客ばかりだな……」
「何か言ったか?」
「い、いえ何も!!」
その時ふと隣の壺も気になり、流は手を伸ばす。
すると同時に逆からも手が伸びて壺を掴む。
「……失礼だがこの壺は俺が最初に見つけたんだが?」
「……何だキサマは? この壺に呼ばれたのは俺だぞ」
「ふざけるな! 呼ばれたのは俺だ、断じてお前等ではないぞ」
「キサマこそふざけるな! 見ろ、馬鹿に絡まれて泣いてるぞ」
ここまで、お互い壺から一切目を離さずに話す。
そしてこの強情な馬鹿は、一体どんな顔をしているのかと気になり、お互いの顔を見る。
――そこに居たのは。
「お、お前はあの領域者!!」
「き、貴様はあの領域者!!」
お互いの姿を認識した瞬間、背後には雷のような幻影が出現した! ような気がする。
そこに居たのは金髪緑目が印象的な、貴族然としたロングヘアの美男子……つまりは流の天敵『ヤツ』だった。
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