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128:氷結の実

 怒涛のコショウの購入者を捌き、その後のカレーライスの購入者も満足させた流は満足そうに額の汗を拭う。


「ふ~。みんなお疲れさん、ありがとう! 商業ギルドからの応援も本当に助かりましたよ、バーツさん」

「なに、少しは借りが返せたようで何よりだ。しかし今日の様子では予想より早く売れそうだな?」

「ええまったくです。明日は販売量をもっと増やそうかと考えて居ますよ」

「うむ。それなんだがな、箱売りは商業ギルドでしてもいいぞ? ここに運んで並べるのも大変だろう? 大量購入者に限りギルドで直接取り扱ってやる」

「え!? 本当ですか、それは助かりますがいいのですか?」

「勿論だ。手数料も要らん。だが倉庫前に倉庫使用料を徴収する職員が居るだろう? 他の商人の手前があるから、倉庫使用料だけは貰う事になるがな」

「それはもう是非! でも申し訳ないから販売手数料は払いますよ」

「いや、そっちはいらないから気にするな」


 流石にそれは申し訳ないと、流はバーツに支払うと言うのだが、頑として聞く気が無い。


「はぁ、分かりました。ではお言葉に甘えさせてもらいますよ」

「それでいい、若者は素直でなくてはな! はっはっはっは」

「良かったですねナガレ様!」

「まったくだぜ、オヤジに感謝しろよナガレ?」

「ああ、それは無論だとも。バーツさんには感謝しかねーよ」


 ニヤリと笑うバーツを見て流は思う。こんな大人になりたいものだと。


「そう言えばこの国は関税とか無いのですか?」

「ああ、基本的には無い。ただギルドへ申告した分しか売れない決まりになっとる。申告以上に売ると、密輸等の犯罪行為とみなされ処分される。もっともお前の場合に限り、俺は何処から持って来ているのか等興味は無いがな」


 そう言うとバーツは豪快に笑う。そんなギルドマスターはとても眩しかった。


 その後手伝ってくれたメリサ達ギルド職員達をカレーで慰労し、バーツとファンも食べると言うので全員で青空の下でカレーを楽しんだ。



◇◇◇



 全ての品を売りつくした流は、午後二時頃には店仕舞いをして幽霊屋敷へと戻る。

 メイド達も良く働いてくれたので、疲れているのかと思ったが全然平気のようだった。


「今日はありがとう、疲れたろう?」

「いえ、まだまだいけます!」

「そうですよご主人様。このまま寝ないで一週間は頑張れます!」

「お、おぉ……。無理はしないでね?」

「「はい!」」


 この娘達も「中の人が見た目通りじゃない」事を改めて実感する。

 そんな事を考えながらも、街中を進むと面白い屋台を見つけた。


「嵐影ちょっと止まってくれ」

「……マ」

「お前達も待っててくれ」

「「はい」」


 流は目的の屋台へと足を進める。

 店の前へと来ると、その屋台に置かれている品が良く分かった。


「ご店主、これは何だい?」

「らっしゃい! これは氷結の実と言ってな、実がいつまでも凍ったままなんだよ。で、見てろ」


 店主がそう言うと、直径三十センチ程のアイスブルーの実を鉈で割る。

 すると今まで凍っていたのが嘘のように、ピンク色に変色し甘い香りを放つ。


「おおお!? ナニコレ凄い!」

「はっはっは。やっぱり知らなかったのか? この辺りでは有名な果実なんだぜ? トエトリー名物、ダンジョン産の果物だ! どうだ、買っていくかい?」

「無論だ! 売れるだけくれ!」

「お、おう? っていいのかよ!?」

「ああ、その代わり今割ったやつはサービスしてくれよな?」

「そりゃあもう! あ~今日はもう店仕舞いだな! はっはっはっは」


 店主はあるだけの氷結の実を流の販売車へと積み込む。


「ありがとうよ! ほれ、これおまけだよ」

「じゃあ貰ってくよ。また来る」

「毎度あり~!」


 おまけの実を御者台に座りながら、メイド達へと渡し食べてみる。


「お!? 思った通り冷たくて美味しいな。強いて言えば、桃とバナナを足したような味だな」

「本当ですねぇ。あちらでは食べた事が無い味で美味しいです♪」

「うんうん、見た目にも面白いですね。まさか割ると色が変わるなんて、思いませんでしたよ」


 そんな感じで今日もまた面白い物を発見し、満足に幽霊屋敷へと帰るのだった。

 屋敷に着くとメイド達が入口で待っていた。


「「「お帰りなさいませご主人様」」」


「ただいま~。販売車の中に珍しい果物があるから食べてくれ。あ、それと嵐影が食べたいだけあげてくれ。割ると溶けて食べられるようになるから」

「承知いたしました」

「では頼む。嵐影はメイド達から氷結の実を貰って、ゆっくりしててくれよ。お前は今日も大活躍だったからな」

「……マァ」


 流は嵐影をモフると、嵐影も流の胸へと鼻を押し付けて甘える。


「おっふ。嵐影は甘えん坊だなぁ」

「……マ」

「ははは。じゃあ俺は三階へと行くから、気が向いたら来いよ」


 嵐影は流へと手を振ると、そのままお尻を地面に付けて座る。

 両手でごそごそと、自分の荷物用のバッグからニンジンを取り出し、それをかじって氷結の実が来るのを楽しみにしていた。


 屋敷の中へ入ると執事達が待っており、メイド達から受け取った本日の売り上げ等を受け取る。


「お館様、お疲れ様でございました」

「セバスか。びっくりするほど人が来てさ、本当に疲れたよ」

「ははは、そうでしょうなぁ。あれ程の品ですから飛ぶように売れたでしょう」

「ああ、本当に文字通りだったよ。で、珍しく妖怪屋敷組が居ないが?」

「御三方共ビーチにいらっしゃるのでお呼びしたので、そろそろおいでになると思いますが……」

「ああいいよ、執務室で待ってると伝えてくれ」

「承知いたしました」


 流はミレに頼み三階へと向かう。ミレは今日も陰鬱な表情であるが、実に楽しそうに流へと話しかけ、短い交流を二人共に惜しみながらも三階へと到着する。

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