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127:驚愕の野次馬

「なんだって!? こ、香辛料の屋台だと?」

「嘘だろ。え……本当なのか?」

「しかも料理まで出す? はぁ?」

「さらに半額だとおおおおおお!?」


 観客は生唾を飲み込み、互いをけん制するように見渡す。

 そして――


『『『()に売ってくれえええええええええ』』』


「はいはい、いらっしゃ~い! 店の前は狭いから順番で並んでくれよ! 横入したら売らないからな!!」


 流と嵐影は押し寄せる人波を並ばせて順番を守らせる。

 途中で割り込んできた奴は、嵐影が噴水へ投げ込んでいた。


「おおおおおお!! 嘘だろ!! コショウが一袋大銅五枚だと!?」

「ちょ、ちょと味見してもいいか?」


 そんな要求にメイドはチラリと流を見る。そして頷くとニコリと微笑み少量のコショウを客の一人の手へと振りかける。


「こ……この強烈な香りは!? この辺りにあるコショウと物が違う! どれ早速……ッ!! こいつは本物のコショウだ!!!!!! しかも香も辛さも味わったことが無い程強烈だ!! くれ、買えるだけ売ってくれ!!」


 その客の言葉を聞いた周辺はどよめく、それが伝播するように周囲に人が集まると、さらに客が集まるのだった。

 一袋約十グラム、それが大銅貨五枚(日本円で五千円くらい)で販売をするが驚くほど売れた。


 (おいおい、マジかよ。通常価格十グラム銀貨一枚(日本円で一万円くらい)だぞ?)


 ぼったくり価格だと思ったが、よく考えて見ればこのコショウより質の低いコショウが同じ位の量で金貨一枚だと思い出すと、そこまで酷くはないのかと思う。


 その噂を聞きつけた一般客や、商人は自分の店をほっぽり出してまで流の店へと並ぶ。

 今日は混乱するだろうとアイテム数をコショウのみとした事で、流達も混乱はさほど無く、予定の数を販売し終わる。


 怒涛の販売ラッシュを終えると、丁度昼頃になった事でカレーの販売へと移る事にする。


「みんなすまない! 今日の用意したコショウは売り切れだ! 明日もまた販売するから、その時に買ってくれ!! その代わりと言っちゃなんだが、香辛料の料理でカレーライスを販売するよ! 腹が減った人は食べてみてくれ!! 一食大銅貨二枚だ! これも無くなり次第終了ですからお早めに!」


 その宣伝に歓声を上げるお客達。


「聞いたか? ちょっと高いが……しかし!」

「ああ! こんな質の良いコショウを売る男が作った料理だろう?

「くぅ~期待するなって言う方が無理すぎるだろう!」

「よし、並べ並べー! 早い者勝ちだぞ!!」


 販売車の後方へ列を作る客達は、目が輝き、期待に胸を躍らせる子供のようだった。


「一つくれ!」

「はいありがとうございます。こちらのルーを、この白いライスへとかけて食べてください」

「おおう!? み、見た目がアレだが……。だ、だが良い香りがするぞ!!」


 男はギルドが用意したであろうテーブル席へとカレーライスを持って移動する。

 それを周囲の観客とかした野次馬は興味深く見ている。


「では早速……ッああああああ!? な、な、何だこれは!! 複雑なスパイスが波のように口の中に広がる! しかも辛い! だが心地が良い辛さだ!! 肉もほろほろと口の中で溶けるように崩れる、これはオークか? 美味い……。ただただ美味すぎる! 究極のスパイス料理だぞこれは!?」


 そんな男の食レポに観客達も我先にと並び始める。

 次々にカレーライスを手に取り、それを食べる購入客は涙を流す者も居れば、黙々と食べる物も居る。

 さらにはもう一杯食べたかったようで、横入しようとして嵐影に噴水へぶん投げられたりもした客まで出て、噴水前広場はかるいパニックになっていた。


「あ~。やっぱりこうなりましたか……」

「な? 俺の言った通りだったろ?」


 その様子を木陰から見守る二人、バーツとメリサは混乱する屋台前で困った顔の流を見て思う。


「あれだな、ナガレの困った顔と言うのも貴重だな」

「もう! ギルドマスター、早くナガレ様を助けてあげましょうよ!」

「おうスマンスマン。ついつい珍しい物を見れた感動で、な?」


 そう言うとバーツは快活に笑う。そして背後に顔を向けると、部下達に指示を出す。


「お前達、領都級にして巨滅の英雄が困っているぞ! 先日の借りを少しは返せる時が来た、よし行け!」

「「「はい!」」」

「んじゃ、俺も行くとしますかね」

「では私も行って来ますね」

「頼んだぞファン、メリサ」


 ギルドの職員五人と、ファンとメリサは販売者前で四苦八苦している流へと向かう。

 それを見た流は大喜びでヘルプを頼むと、メリサへと一食渡す。


「はい、ギルドマスター。ナガレ様からですよ」

「おお~これはすまないな。礼を言っておいてくれ」

「分かりました、ではまた後で!」


 バーツはメリサが戻る姿を見ながら、周囲を見渡し確信する。

 見える範囲で例外なく、全員が驚きと笑顔に包まれていた。

 やがてこの笑顔があふれた光景が、今後トエトリーで日常になるのだと。


「凄いな、侍ってのは。いつの時代でも常識を覆す……」


 そう独り言ちると、カレーライスの奥深い味わいを楽しみながら、晴れ渡る空を見て満足するのだった。

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