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123:水着回の始まり、漢達の終わりの始まり

「このような物を着るのは初めてですが、どうでしょうか?」

「うん、いいんじゃないか? モデル見たいだぞ。なあキルト?」

「ええそうですね。あのパメラとは思えない程に洗練されている」

「パメラ、孫にも何とやらってやつだぜ。なぁドルージ?」

「ああ、ラスカの言う通りだな。ぷっ、あのパメラさんがねぇ」

「ドルージ、後で話し合おう、トコトン」


 思わず地雷を踏み抜くドルージを見た、他の夜朔のメンバーは押し黙り、ドルージの冥福を祈るのだった。


 そして最後にあの娘、傾国の悪女が満を期して登場する。


「うふふ。盛り上がっていますね。どうでしょうか古廻様?」


 そこには粉雪のような白さを持つ、赤子より上等のその素肌を、惜しげも無く披露した魅惑のキツネさんがいた。

 その水着は黒を基調とした物で、デザインは攻めているが決して下品と言うより、むしろ上品な感じのアダルティで、どんな男女でも虜にする魅力が駄々洩れだった。


「お~。相変わらず美しいな。その腰の飾り紐がまたいいな」

「お褒めいただけて嬉しゅうございます♪」


 そんな中ボソボソと背後で話す漢達がいる。


「フム。あれではただの痴女では? よくて露出狂と言った感じですな」

「うちのカーチャンも大きゅうなったらあんなんだがよ。でもお嬢はウチのよりスゲーがね」

「壱:あれは国をも狂わすアブナイ女やさかい、見たらあかん! 見たら目の消毒をせなな」


「……ナ・ニ・カ?」

「「「……ベツニ」」」


 そんなハートフルなやり取り後、流達は海辺へ行って泳いだり、ビーチチェアで寛いだりと自由に過ごすのだった。




「本当にどうなっているんだろうな、この空間は。遠くに船が走っているし、カモメも飛んでいる。あ、くじらが塩を吹いた……」

「うふふ。ここは本物の海であり、偽物でもあるんですよ。異界骨董屋さんの露天風呂がございましょう? あれと似た術で固定してあるのです」

「はぁ~。もう何でもありありっすなぁ~。そういえば因幡はどうした? こっちに来ればいいのに」

「残念ながら、因幡は薬草の採取に出かけています。何でも新しい物を開発するとか言っていましたね」

「そっか~。それは残念だな」


 流は因幡がここにいたら喜ぶだろうなと、とても残念に思いながらビーチチェアから空を見る。

 遠くの雲に因幡が見え、そこで元気に「お客じーん」と手を振っているように見えた。




 やがてセバス達とメイドが食材を用意し、何時の間に出来ていたのか、Uの字の巨大な焼台を囲み歓迎会は始まる。

 ちなみにメイド達まで、フリルが付いた小さなエプロンをした水着になっており、唯一参とセバスのみ執事服のままだった。


「よし! じゃあ新たな仲間と、おかしな空間に海まである意味が分からない世界に乾杯!!」

「「「カンパーイ!!」」」

「さぁ皆さま。焼台も良い感じに温まっておりますので、どんどんお食べください」


 セバスがそう挨拶すると、メイド達はUの中に入り次々と肉や魚、そして野菜を焼いて行く。

 実に食欲をそそる弾ける肉汁音に胃袋を刺激され、落ちた肉汁が備長炭に落下する事で広がる魅惑の香に酔いしれる。

 その音と香の攻撃により、口の中一杯に広がる「食欲の塊」があふれ落ちそうになる。

 それを見越したかのように、メイド達は絶妙な焼き加減で、流達へ焼きあがった食材を提供する。


「これは美味いな! セバス、これはオークと牛肉を合わせたような味わいだが?」

「はい、これはこちらの世界に野生で生息する肉食牛で、味は絶品みたいですね。こちらの世界は調味料こそ不足していますが、素材自体の味がとても優れているので面白いですね。それを一頭買い付けましたので存分にお食べください」


 その話を聞き、以前流星屋台で食べた絶品料理を思い出す。


「ああ、それは俺も思ったよ。単純な味付けなのに素材自体が異常に美味いんだよな! ファンと前に食べた肉料理も凄かったし、その肉と一緒に並んだ茸なんて旨味の塊だったぞ? しかしあれだな……。肉食牛って響きがスゲー怖いんだが」

「本当だが。オイは鬼なのに不気味に感じるのは何故がね?」

「野生の白菜みたいな怖さがあるねぇ」

「でもこの牛はとても美味しいですよ、ねぇ古廻様?」

「ああ美味い! 赤身なのにこの柔らかさとジューシーさ、そして広がる旨味が癖になるな!」


 肉食の牛と言うインパクトと、野生の白菜と言う恐怖に盛り上がる面々。

 そんな屋敷のメインメンバーの食事を対面で見ながら、夜朔のメンバーも舌鼓を打つ。

 夜朔の今年十九歳になる紅一点の娘、パメラが思わずボソリと話す。


「美味しいですねキルトさん」

「ああ美味い……。ジルは食べているか?」

「ええ食べてますよ~。食べなれた肉ですが、調理次第でここまで変わるもんなんスね。隣のドルージなんて肉を山盛りですよ、ほら」

「あっふ、ウメエです!」

「ああ!? 俺の分も取るなよドルージ!」

「遅いラスカが悪ぃんだぜ? この世は弱肉強食だからな。ハハハ」


 五人は極上の焼肉を食べながら思う。あの時、誠心誠意心を尽くして良かったと。

 そしてあの地獄に送られた元同僚達を思うと、ここはヴァルハラなんじゃないかと思う。

 そんな事を考えていると、〆が流の顔を自分の胸に埋めるシーンを目撃する。


(この国の誰より美しく、可憐でスタイルもいいのに、あんなに恐ろしいお方なんて……)

(お、御館様は恐ろしくないのか……)

(普通なら欲情する所なんだろうが、あの方にはそんな気がちっとも起きねぇ)

(この異常な空間や、オニ? と言う教官も恐ろしいお方ばかりだと言うのに、御館様のなんと堂々とした事か)

(あぁ、女としてあの体には憧れるわぁ。いいなぁシメ様)


 五人共色々思うのだったが、大体は同じような事を考えていた。一人を除き。


「あらあら? キルト達は私を見つめてどうしたのかしら? いくら魅力的でもダ・メ・よ? うふふ」


「「「誓ってそのような事を思っておりません!!」」」


「そうなの? 少し……寂しいわね」


 残念そうにしながらも、その目は挑発するような視線をキルト達へ向けるお狐様。

 その視線を受け、訓練されたアーミーのように一糸乱れず、直立不動で答えるキルト達を見て、流が苦言を呈する。

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