121:だらだらとビーチで過ごそう
「あ! ナガレさん。いつ戻られたんですか?」
「こらロッティ、御館様でしょ? お帰りなさいませ御館様」
「あ、ついつい。ごめんね、えへへ」
「いいさ、お前達は使用人では無いからな。それはそうと海で何をしていたんだ?」
「「そ、それは……」」
そう聞くと二人の顔色はみるみる悪くなる。
「どしたんだ?」
「うふふ。二人はお魚と遊んでいたんですよ」
「魚ぁ?」
ふと沖を見ると、巨大なヒレがついた魚が悠々と泳いでいる。
「おふッ。〆、お前は一体何をさせているんだ……」
「あれは参の式神ですよ。ほら、エントランスホールの白虎や二階の鎧みたいな感じです」
「ああ、あれか~」
先日バーツ達を招いた時に大活躍した、本物そっくりの動きをする剥製や、巨大な鎧を思い出す。
あれはウケタと思わずニヤケ顔になる流だったが、姉妹の事を思い出し、〆へと詳細を尋ねる。
「それで一体何をさせてたんだ?」
「身動きのしにくい水中での戦いを教えていました、特にこの二人は今後あちこちへ潜入する事になりますので、あらゆる事態に備えての訓練です」
「海兵隊でもサメ相手に訓練しないぞ、絶対、間違いなく」
「うふふ、そんな温い世界じゃありませんからね。この世界は魔法や魔物、そして未知の敵が沢山存在しますからね」
言われてみれば元世界で遭遇したら、即詰みのような状況ばかりだと流は思う。
増殖する触手。自信の三倍以上もある大きさの敵……そして魔法の存在。
「確かに……。あんなバケモノ達に、ロケットランチャーですら通用するか怪しいものだな。俺の人生殺伐としすぎ」
きれいな海を眺めたその瞳は、すでにハイライトが消えている流である。
その死んだ魚のような目を覗き込むように、青い子供のような体の鬼が覗き込む。
「何を黄昏ちょるガキんちょ。主もその妖刀に負けぬ実力を付けんがいかん」
「本当だねぇ。しかしその妖刀……あの忌々しい鬼切安綱を思い出すよ」
「チッ。嫌な名前を思い出させんがよ。そんな大層な名前なんていらねえよ、鬼切丸で十分だが」
「あらあら。そう言えば貴方達には凶刀でしたね」
「そうさ。それに勝るとも劣らぬ恐ろしい力を感じる刀だねぇ……。それは一体何だい?」
流は美琴を腰から抜くと、鞘ごと手に持ちずいっと前に出しニタリと笑う。
「こいつかい? これは俺の相棒兼女房って感じの『悲恋美琴』だよ。どうだ、震える程美しいだろう?」
「確かに文字通り、死ぬほど美しいがよ。こいつは人の手にあまる刀じゃが」
「さっき斬り合った時、確かに心が躍ったもんねぇ。よくこんな刀を持てたもんだ。普通なら死んでるよ?」
「まあ色々あって、な。なぁ美琴?」
『…………♯』
「おおおお、答えたがよ」
「道理で……ますます普通じゃないねぇ」
どうやら美琴は、いきなり流へ攻撃した事にまだ不満のようらしく、怒りが鞘からにじみ出ていた。
「ははは、そう怒るな美琴。これから色々教えてくれる先生なんだからな。そうだ、この二人はどうやってこの世界へ呼べたんだ?」
「あぁそれは、この二人は鬼神の格を持っている事が一つ。もっともそれが無くても異超門の封印が解かれたので、先日古廻様に許可証を頂いた事で来れるようになりました」
「あ~あの紙か。あんなのでいいんだなぁ……」
それは流が幽霊屋敷でまったりと茶を飲んでいた時に、〆がやって来て異世界へと渡れる許可証を、何枚か書いてくれと言われてサインしたものだった。
「そう言えば、〆と参には許可は出したけど、壱へは出した記憶が無いぞ?」
「誠に残念ながら、こんな兄上でも古廻様に関わりがあるゆえ仕方なく……。そうですね、抱き合わせ販売みたいな物と思っていただければ」
「壱:ちょっと待ちいな! 僕は独占禁止法第19条に抵触する存在なんかい!? まったく、僕を何だと思っとるねん」
「とにかくそんな訳でして、愚かな兄上も付いて来てしまい申し訳ありません」
「壱:ホンマすんまへん」
独禁法違反なのかよとツッコミたい流だったが、そこは大人なのでスルーする。
唯一抵触するとしたら、エセ関西弁の独占使用とかか? と、くだらない事を考える流であったが、ミレリアとロッティを見て話がそれた事に気が付く。
「っと、話が大事故クラスに脱線したが、それで二人はサメ相手に何を?」
「弱点の突き方等ですかね、身動きの出来ない場所ならそれが一番生還率が高くなりますからね」
「なるほど、確かに理にかなっている。どうだ、二人とも何とかやれそうか?」
「うん! シメ様が親切に教えてくれてるから、何処を突けばダメージを与えられるとか分かる様になったんだよ」
「それに対人戦闘も教えていただきました。妹も随分と上達したんですよ?」
「そ、そうか。それは逞しくなったな」
護身術程度だと報告を受けていたが、このまま育てばツーマンアーミーが出来るんじゃないかと思った流は冷や汗を流す。
「それにこの二人の体ですが、恐ろしくタフで動きが良いのですよ? よほど良い素材で出来ているのでしょうね」
「えへへ、そうなんだよね。疲れないし、凄く体が動くんだよ~。オルドラ大使館に居た時は、部屋の中でじっとしていたから、まさかここまで動けるなんて思いもしなかったよ」
「本当にそうなんですよ。今思えばボルツ姉さんが、あれだけ動けた事も納得ですね」
「確かにボルツは凄かったな。俺も死ぬかと思った程だからなぁ」
オルドラ大使館での殺盗団との戦闘。そしてボルツとの闘いを思い出す。
余裕の案件かと思ったが、まさかの悪魔退治にまで発展するとは思わなかったのだから。
「そうだ! 〆、一体ここをどうやって作ったんだ!? いきなり戦闘したりで一番大事な事を聞くのを忘れていたぞ!!」
「うふふ。そう言うのが得意な者達が居るんですよ。ほら、先日作った倉庫を建設した時のように、ああいうのが沢山いるんですよ?」
「うん、真面目に聞いた俺が馬鹿だったよ……」
ますます瞳のハイライトが消え、その乾いた瞳で海をのんびりと眺める流であった。
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