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120:寸胴鍋を持つ女

「まあなんが、クソ餓鬼ぃ」

「土下座をするか、いやそれより」

「まったくワンコの躾が悪いにも程がある」


 ――とりあえず。


「「「死んどけや!!」」」


「前道霊斬!」「後道霊打!」「ジジイ流参式! 四連斬!!」

「壱:や、やめんかああああああああああ!? ぁ」


 壱が止めようと飛び出した刹那、強力な力でそれが止められる。

 そして三人の斬撃と手刀と打撃が放たれる。


 青鬼の前鬼が右手で妖力を込めた手刀を左から放ち、赤鬼の後鬼は妖力を込めた打撃を右から放つ。

 その間合いとタイミングは必殺の時を駆けるが、流は美琴の妖力を最大限に込めた、参式四連斬・計八連を前鬼と後鬼へと撃ち放つ!


 双方四連の斬撃を手刀と打撃で三つまで打ち払うも、最後の四撃目で堪えたまま、足で石舞台を削りながら五メートル押された所で止まる。


「餓鬼ぃぃ……」

「やってくれるじゃないのさ……」

「……だろう?」


 お互いに口角を限界まで上げながらも、獣のようにギラつかせた犬歯をむき出しにし、目を爛々と見開く。

 さらに膨れ上がる妖力、それが弾ける間際にまで膨らむ――と。


「ガッハッハッハッハ! 合格じゃあ!!」

「あっはっはっはっは。文句はないねぇ」

「はいぃ?」


 突然の事に呆然となる流。そこに現れる、ふんわり一尾のお狐様が現れる。

 その右手には壱が摘ままれており、とても嬉しそうな顔で流れを見る。


「古廻様、大変お強くなられましたね♪」

「し、〆ぇ? これは一体何事だ?」

「うふふ。この二人は青鬼の前鬼(ぜんき)と、赤鬼の後鬼(ごき)です。夫婦の鬼で、青いのが旦那で、赤いのが妻となります」

「はぁ……?」

「いきなり悪かったなガキんちょ。〆のお嬢から頼まれたもんがで、ついついな」

「アタシも悪かったよ。それにしてもよく止めたねぇ。人間にしとくのは惜しいよ」


 そう言うと前鬼と後鬼は豪快に笑う。


「試すようなことをして申し訳ありませんでした、先日の蛇娘の事をお聞きしてから心配になりまして、この二人を呼んだのです」

「おう、オイは前鬼だ。まぁ今聞いたと思うがや」

「それでアタシは後鬼。コイツの奥さんさ」

 

 後鬼は肘で前鬼の脇腹を力を込めてどつく。

 

「ぐほッ!? かあちゃんは容赦ねぇがなぁ。それでガキんちょ、オイ達がお前を鍛えちゃる」

「今は忙しいって事だから、坊やの手が空いたら何時でもおいで。ここは気持ちの良い場所だから、しばらく厄介になるよ」

「おいおい、いきなり確定事項かよ? まあ、確かに強いのは分かる」

「ええ、この二人はとても強いですよ?」

「そうなのか? 見た目は可愛いのに」

「うふふ、見た目に騙されてはいけませんよ? こう見えても本気を出せば、この国など一ヶ月かからず滅ぼせる力を持っているのですよ」

「そうだぞガキんちょ。おいちゃん達は強いんだ。特にカアチャンは怖い(ぼそ)」

「何か言ったかい?」

「ぃぇ……」

「まあそんな訳さ。何時でも待ってるから気軽に来なよ」

「お、おう? ありがとう」


 何が何だか分からないうちに、流の専属トレーナーが決まった瞬間だった。


「壱:ったく、前ちゃんも後っちゃんも趣味が悪いで~。僕、ホンマに焦ったやんけ」

「そりゃあ、お宅のお嬢様に言うんだね。アタシらは言われた通りにしたまでさ」

「申し訳ありませんでした古廻様。さぞ驚かれたでしょう。あ、不本意ですが兄上も」

「壱:僕は不本意なんかい!? ったくしょうがない愚妹や」

「それで二人を何と呼べばいい?」

「別に何でもいいがや」

「そう言うのが一番困るんだが?」

「そうだね~。壱ちゃんと同じでいいよ。アタシはで旦那はぜんでね」

「ん、了解だ。よろしくな、前ちゃん、後っちゃん!」

「おう。死ぬ程鍛えてやっから覚悟しちょれ」

「こっちこそ、よろしくね。まったく野蛮な旦那だよ」


 後鬼がそう言いながら高速肘うちを食らわすと、前鬼は悶絶する。


「グボッフ!? どっちが野蛮だがょ(ボソ)」

「何だってぇ?」

「ぃぇ、ナニモ言うちょらんが」


 どうやら前鬼は後鬼に頭が上がらないらしく、青い顔がさらに青くなる。

 その後ろには夜朔のメンバーが、何とか回復して立ち上がろうとしていた。


「それはそうと……。おい、お前ら大丈夫か?」

「は、はい御館様。とんだ醜態を晒してしまい、誠に申し訳も無く」

「いやいや、俺はこう言うのに慣れてるから良いが、お前らは経験したばかりだろう? そりゃ無理無いって。気にするな」

「「「はッ!」」」


 キルト達は立ち上がり規律よく返事をする。

 本当に元盗賊だったのだろうかと、この姿を見ると疑問に思う流だった。


「それで〆。海の真ん中で立っていたようだが、下に何が居たんだ?」

「ああアレは……。丁度戻って来たみたいですね」

「ん?」


 〆が見つめる先の海へ流が振り返ると、浜辺よりミレリアとロッティが、地味なスイムスーツ姿で戻って来る。

 姉のミレリアの体はとても作り物とは思えない程、瑞々しい肌が眩しく、またその豊満な胸がスイムスーツでも分かる程に惜しげも無く上下に揺れ、凹凸が強調されている。

 彼女こそ南国のビーチに相応しい娘だった。


 その後に続く妹のロッティも、姉に負けず劣らず透き通るような瑞々しい肌が汗を弾き、そのすらりと伸びた四肢の主たる体は……寸胴だった……。

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