表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/539

118:新たな戦いの予感

「なる程な、ナガレ。お前はやっぱり商人だよ」

「どういう事だ、オヤジ?」

「ほら、あれを見ろ。ただで食べさせる奴は普通いない、しかも珍しい食材料理だ。そしてここに居るのはウチの商人(きゃく)が多いだろ? これで香辛料の話題が一気に広まるぞ?」

「なる程……。そこまで計算してナガレ様は」

「やりやがるな、流石だぜ。だが、その先があるんだろう?」

「ああ、それだけじゃない。俺が金貨と言ったから野次馬も、その価値に一瞬引いたろう? だからこそあの手法だろう。普通は驚く価格だが、それをぶっ壊すインパクトの無料提供。そして味わったら最後、あれに魅了されるのは必然」

「「確かに」」

 

 頷く二人にバーツは続ける。


「それを今はまだ価格こそ提示してないが、安く売ると言い放った訳だから、最低でも商人は転売目的で買うだろう」

「なるほど。そしてそれを仕入れた商人が、他所へ持って行けばその味が広まると言う訳ですね?」

「ああ、それの出所もすぐに分かるだろう。そして一気にトエトリーに買い付けに集まる」

「そこからは俺の出番って訳か?」

「そうだ、まずはあの販売車でもいいかもしれんが、出来れば拠点を作った方がいいだろうな」


 ファンは手帳を確認しながらバーツに答える。


「それは既に手配済みだぜ。一か月以内には大きい町と王都にナガレの支店を作れる」

「それは重畳。そしてナガレから仕入れた商人は、お前が店を確保して販売体制が整えば、高値で売っていた反動で、ダブついた在庫を処分するしかなくなる。価格は始めこそナガレの方が高くなるかもしれないが、それでいっきに値崩れして庶民にまで届くようになる」


 頷くファンとメリサ。そしてファンが続ける。


「そうなりゃ香辛料の味も一気に広がり、それを欲する住民が殺到するって訳かよ。最初は競合するが、向こうの在庫が無くなればこっちの独壇場だ。俺達は労力をせずに、あちこちの庶民に香辛料の宣伝となるか。まあ~それをさせられる商人は少し気の毒だが、立ち回り次第で最初に大儲けするはずだから、それがあれば文句も少ないだろう。本当にスゲーな……ナガレの考えている事は」

「ああ、これまでの常識を覆す行動力と思考力。敵にしなくて本当に良かったと心から思うぞ」


 改めて流の深慮遠謀に戦慄する三人だった。


「うむ、後は隣の糞伯爵領だが……。あそこはどうした?」


 それを聞いたファンは苦い顔をする。


「オルドラだろう? あそこはパスだぜ。あんな所で商売したらケツの毛も残らねえ。それに、殺盗団の本拠地だろう? あんなヤバい場所で商売は出来ねえよ」

「うむ、正解だ。その方がいいだろうな、そしてあそこは危険すぎる。元々重税と圧政に苦しんでいる民が、トエトリーに流て来ていた場所のトップはあそこだからな。だからこそ逆恨みされている訳だが……」


 バーツは今後、オルドラがトエトリーに何かしらを仕掛けて来るのは容易に想像が出来た。


 やがて在庫が切れたのか、ナガレは野次馬へ一言謝ってから店じまいをし、バーツ達の元へとやって来る。


「いや、お待たせしてしまってすみませんでした」

「なに気にするな。それよりその手に持っているのは?」

「ああ、これはさっきのカレー弁当ですよ。良かったら後で食べてください。あ、でも温めてから食べて下さいね、冷たいとマズイので」


 そう言うと流は、上下二つの紙で出来た弁当箱を三人へと渡す。


「おお、これはすまんな。夕食が楽しみだ!」

「ありがとうございますナガレ様♪ またあの味が食べられるなんて幸せです」

「くぅ~持つべきものは友達だってな!」

「よし、では俺の部屋へ戻ろうか」


 三人は頷くとそのままマスタールームへと移動する。

 途中でいい香りがしたからか、職員達が羨ましそうに見つめているのを見て、流は少し申し訳ない気持ちになる。


「時にナガレよ、この弁当だが……素材は何だ? 紙のように見えるが」

「そう、それは紙で出来た弁当箱ですよ。使い捨てですので食べたら捨てて下さいね」

「え!? そんな、紙ってそれなりに高級なんですよ?」

「あぁ、俺の故郷ではそうでも無いんだよ。まぁおいおい作り方も説明出来ると思うから」

「ナガレ……お前って本当に何でも知ってるのな」

「何言ってるんだよ、知ってる事だけ知ってるってやつだ」

「フッ。さっきファン達とも話したのだが――」


 流がカレーを配っていた時の話をバーツはする。

 そしてその狙いが「大規模な宣伝効果で、費用は一切かからない」恐ろしい手法だと言う事を伝える。


「え、ええ。そう言う側面もアリマスネ」


 いきなりの話に挙動不審気味に答える流。

 それもそのはず、そんな狙い等一切無くただ今度、屋台を始めるから来てくれよな! 程度にしか考えてなかったのだから。

 さらに余計な事を言ってしまい、バーツに突っ込まれる事になる。


「何? まだあるのか!?」

「い、いえ。ただそうですね。これでトエトリーに敵対する勢力が釣れたらいいかなぁと?」


 適当な事を言ってしまった等と今更言えない! と内心思いながらも、流は思う「幸運値:あらすごい」が仕事しすぎだろうと。


「敵、か……。確かに釣れそうだ。今回オルドラへの香辛料の輸出は行わない事を先程決めた。香辛料がオルドラへと行くとしたら、転売のみだろうからな。そこすら厳しく規制するつもりだから、確実にオルドラへは届きにくくなる」


 オルドラと聞いた流は、殺盗団の事を思い出し嫌な気分になる。


「オルドラですか。確かにあそこへは売りたくは無いですね」

「ああ、だから何かしらトエトリーに報復はあるだろう。大使館はすでにあんなだしな」

「本当にオルドラって迷惑ですね、私もよくお客さんから相談されますもの」

「ま~関わらないのが一番だぜ。もっとも来たら返り討ちにしてやるんだろ、ナガレ?」

「おいおい、俺は真っ当な商人だぜ? 勘弁してくれよ」


 そんな話をしながらも流はオルドラとの間に、また戦いが起こる気がしてならなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ