116:ショーの始まり
「ほぉ。ここが商業ギルドですか?」
「そうだ。大きいだろう?」
「ええ、流石国一番のギルドだけありますね」
「だなぁ。じゃあしばらく待っていてくれ。準備が終って、暇ならその辺りの屋台で寛いでいても構わないからな。嵐影も好きにしててくれ」
「承知しました」「……マ」
二人(?)を残し流は商業ギルドへと入る。先日来た時のハチの巣をつついたような忙しさはすでに無く、何時もの落ち着いた空間がそこにあった。
「ちわ~。メリサちゃんはいるかい?」
「あ、ナガレ様いらっしゃいませ。ファンさんとギルドマスターは三階でお待ちですよ」
メリサが流を見つけてカウンターより出て来て、小走りに駆け寄って来る。
「先日は本当にありがとうございました、もう夢のような一時でした♪」
「そいつは良かったな。俺も招待した甲斐があったってもんさ。っとそれは……」
メリサの髪には先日ナガレがプレゼントした、鼈甲のカンザシがあった。
「付けてくれてるのか? とてもよく似合ってる」
「そ、そうですか? 嬉しいです……」
「さて行こうかかね、二人も待っているだろうしな」
「そうでしたね。ではこちらへ」
二人は階段を上がって行く。そんな様子を客達が見つめて噂をする。
「やっぱり領都級の野郎があの髪飾りをッ! くぅ、羨ましい!」
「最近あの髪飾り撫でてる事多いもんな~。でも俺らには辛辣なんだよな」
「そこだ! それがイイ! あのギャップが妙に萌える!」
「さすが俺の冷血天使! そのギャップで踏まれたいッ」
「なんか変なのがまた増えてるぞ、メリサのファンはヤバイのが多いな」
おかしなファンが「着々と増えている」事を知らないメリサの心は、今日も平穏だった。
「ギルドマスター。ナガレ様をお連れしました」
「あいよ~入ってくれ。よく来たナガレ、先日は世話になった! そして度肝を抜かれたぞ。ハッハッハッハ」
「ナガレ! 先日はゴチになったな。あのタンブラーは最高だぜ、マジで温くならないのな!」
「俺のペンも見てくれ、少し重いが毎日使っているぞ? 見ているだけで心が躍る品だな!」
「喜んでくれて嬉しいですよ。うん、招待して良かった」
メリサがお茶を取りに行く間、屋敷での話で盛り上がる。
やがてお茶を持って戻って来ると話を始めるのだった。
「さてナガレ。準備が出来たとの事だったが、どのようにするんだ?」
「まずは店舗を持たず、屋台形式でトエトリーのあちこちで商売をしたいと思います」
「フム。だが屋台を移動するだけで大変だぞ? 基本的に屋台は毎日決まった期間その場に建てて置くものだ、それをこまめに移動するとなると大変な労力になるぞ?」
「ええ、それを聞いて移動販売車を開発しました」
三人はその未知の言葉の意味を探る。
「「「移動販売車?」」」
「ええそうです、馬車を改造して『販売車』と言う物にしました」
「ほほう、初めて聞く言葉だが、それは一体どう言う物なんだ?」
「そうですね、説明より実際見てもらった方がいいでしょう。今日はそれも兼ねて実演をするつもりでしたから」
「またとんでもない物を持って来やがったな、今度は幽霊はいねーだろうな?」
「居ないぞ? 多分」
「ひぃぃ。ナガレ様本当でしょうねぇ」
怖がるメリサとファンに苦笑いしつつ、料理長の中の人は一体何者なんだろうと思う流である。
「大丈夫だメリサ。来てみろよ。驚くぞ~?」
「まあ行ってみようじゃないか。ナガレのする事だ、間違いはあるまい」
四人はそのまま一階へ降りると、流の移動販売車には人が集まっていた。
「何だこれ? いい匂いがするなぁ~。屋台なのかこれは?」
「おかしな馬車だな。荷物を入れる場所はあのドアからか?」
「まて、この香は一体何だ? 胃袋が掴まれているような魅力的な香りだ」
そんな様子をギルドの入り口から見ている四人。
そしてその異常な形の馬車に三人は食いつく。
「ナガレ、あれは一体何だ?」
「もしかしてあれがナガレ様が言っていた物?」
「おいおい、また変わった屋台だなぁ」
「ふふふ、甘いぜファン。あれはまだ第一形態だッ!!」
ついつい病気が再発する流であるが、運良く誰も突っ込まなかった事で少し寂しく思う。
「……まぁ行こうぜ。さあ皆さんこちらへ」
寂しく皆を案内すると、人が押し寄せて身動きが取れない状態だった。
するとバーツが野次馬を一喝してどかせる。
「お前達! これは商業ギルドの試作品だから、勝手に触ったりするんじゃあない! 少し離れてくれ!」
「お、おいギルドマスターだぞ。ちょっと離れとこうぜ」
「ああ、お前らも少し離れとけ!」
すっと蜘蛛の子を散らすように人が離れていくと、流は販売車へと乗り込みショーを始める。