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114:哀愁の幽霊屋敷~別れ

「うん、驚いてもらえて良かった」

「驚いたなんてレベルじゃねーぞ! とんだ物を食わせやがって」

「ああファンの言う通りだ……。それにしてもこれ程とは……」

「酷いですナガレさん……」


 そんな三人の深刻な顔を見て流も冷や汗をかく。

 まさか「異世界の常識」では、許されない事をしてしまったのかと。


「え……。まさか何か不味かったとか?」

「ああ不味すぎる。これからどうやって食事をすればいいんだってな!」

「本当ですよ~。こんなに美味しいのを食べたら、明日からの食事をどうしたらいいか」

「まったくだぜ! 明日からの食事を思うとガッカリとしちまうからな」


 そう言うと三人は快活に笑うのだった。


「なんだよ、驚かせるなよな~。ぷッははははは。そうか、明日からの食事か」

「もう、笑いごとじゃないんですからね、ナガレ様ったら」

「悪い悪い。でもそれもすぐに解決するだろう? 俺が香辛料を売ればすぐに解決さ」

「ふむ、違いない。ただ料理人の質が問題だがね?」

「料理も最高でしたが、デザートのアイスクリームと言うのが最高でした」

「本当に最高の料理とデザートだったぜ、ありがとうよナガレ」


 大満足で余韻を楽しむ三人にお茶が運ばれてくると、それを飲みながら今後の事を話す。


「それでどうでした、香辛料の感想は?」

「ふむ、まず使い方一つで素材の味を何倍も引き上げると確信した」

「ですね。いつも食べている食材のクセ、特に臭みがある物が嘘のように消えていました」

「ああ、そうだな。それに次々に口に入れたくなる中毒性とも言える美味さがあった」

「おいおいファン。別に毒や麻薬の類じゃないぞ?」

「分かってるって、そのくらい美味すぎるってこったよ」


 互いに顔を見合わせ笑い合う。


「これで確信がさらに深まったと言えよう。間違いなく売れる。そして世界が変わる」

「ええ、これはもう食の革命ですね。それがトエトリーから始まるなんて感動です」

「そして俺はこれを流通させる事が仕事となるのか……震えて来たぜ」


 その後酒とつまみが新しく運ばれてくる。それを楽しみつつ、香辛料の使い方を料理長からレクチャーされるのを聞きながら、香辛料の可能性を熱く語り合う四人であった。


「いやぁナガレ。今日はすっかりとご馳走になったな。最近の疲れが一気に吹っ飛んだぞ!」

「私もすごく元気が出ました♪ ナガレ様のお陰で世の中の広さをあらためて実感しましたよ」

「俺も同じだ、最高の料理と最高のシェフ。そして香辛料の可能性。正に至宝とも言える時間だったぜ」

「そこまで言って貰えて良かったよ。さて、最後に皆さんがお帰りになる前に、お土産がありますよ」

「「「なんと!?」」」

「セバス、例の物を」

「承知致しました」


 セバスは横にあるサイドワゴンに乗る三つの箱を持つと、それらを後ろに控えていた執事二人に渡す。

 ジ・レがメリサへ。アルルギルがファンへ。そしてバーツにはセバスが一つの箱を持って行く。


「おお、まさか土産まであるとは……開けて見ても?」

「ええどうぞ」

「っ!? これは何という美しいペンなのだ……細やかな細工に、見た事も無い装飾。それにこの純金の本体を覆う、青い海のような突き抜けた美しさの塗装。それにインク壺もガラス製品か? 薔薇の彫刻が入ったデザインと、中身がとてもクリアに見えるので驚きだ。……両方ともに恐ろしい程美しい……」


 それを見た流はメリサの様子を見る。


「わぁ……何でしょうかこれは……。とても綺麗な薄茶色の物に、銀ですか? それで細工を施した花がとても綺麗……。まるでお伽噺に出て来るお姫様の持ち物のようです……」

「メリサ、それはカンザシと言って髪飾りだ。そしてその金属は銀ではなく、プラチナと言う物で、俺の国では金より価値があるんだ」

「えええ!? そんな希少な金属だなんて……持っているのが怖いくらいです……」


 カンザシに見惚れるメリサを見て満足した流は、プレゼントをあらゆる角度から見ているファンへと感想を聞く。


「どうだファン、そのタンブラーは?」

「これは金属製のタンブラーなのか? 確かに彫刻までしてあって凄い出来だ。外は鏡のように美しい金属に、内部は金色になっている。だが……他の二つと比べるとほんの少し寂しいな」

「ふふふ。そう言うと思ったよ。実はそれな、入れた飲み物の温度が中々下がらないんだぞ? お湯を入れて六時間たっても、まだ元の半分以上の温度を保っているスグレモノだ。無論冷たいエールを入れてもファンの呑み方なら、呑み終わるまでずっと冷たいままだな。しかも水滴が周りに付かない」

「ま、マジかよ!? そんな魔具にも無い、機能付きのタンブラーなんて始めて見たぞ!」

「だろう? しかも魔具じゃないから、ずっと使える。しかも落としてもなかなか壊れないおまけ付きだ」

「そいつはスゲーぜ!! どちらにせよ超絶な品だな!」


 三人共に土産は大絶賛だった。

 その後、流に何度もお礼を言ってから、至高の土産を手にホクホク顔で、三人は馬車に乗り帰って行く。


 流やメイド達が見えなくなるまで、ファンとメリサは窓から手を振っていたが、やがて幽霊屋敷も見えなくなると、寂しそうに車内へと戻る。


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