107:混乱の商業ギルドへ相談しに行こう
「よし、今だ! ノイリ男爵を確保しろ!」
屋敷の使用人達はどうしたらいいか分からず呆然と立ち尽くす中、憲兵の号令でノイリ男爵諸共捕縛される。
そして全てが終わる頃に憲兵が一人、流の方へと歩いて来るのが見える。
「貴様が話題の巨滅の英雄か、協力感謝する! まさか小悪魔が居るとは思わなかったから、この人数で来たのが失敗だったようだ」
「そんなに人員が不足しているのか?」
「ああ、もう憲兵隊はカツカツだよ。それに今回の騒動はかなり根の深い話でな……と。今更一番の当事者に言う事では無いか。ハハハ……」
そんな死んだ魚の様な目で、乾いたように笑う憲兵に流も同情するも、応援しか出来なかった。
「ま、まぁ頑張ってくれよ。また見かけたら助太刀するからさ」
「感謝する。まったく貴様のせいで不眠不休だよ」
そう憲兵はニヤリと笑いながら流の肩を叩くと、屋敷の中へと消えていく。
「おい、そこの冒険者達。俺はそろそろ行くが、お前達は怪我しない様にな」
「あいよ、助かった。ありがとうよ」
「おう了解したぜ。巨滅の英雄様も気を付けてな」
「おうよ、それじゃあな」
どうにか大事にならずに済んでホッとした流は、嵐影に騎乗しあらためて街中を見る。
「一見普通だが、やはりあちこちキナ臭いな。早く終息してくれればいいんだが」
「……マ?」
「そうだな、まだかかるだろな。嵐影もおかしなのに絡まれない様にな。お前が休んでる所にリストに載った奴らが来て、お前に乗って逃げようとするかもだしな」
「……マ~」
「え、そんな奴らパンチ一発で倒せるって? た、確かにお前も名付けから強くなったのは分るけど、そんなに強くなったの?」
「……マ、マ」
「元々黄狼クラスなら瞬殺だって!? マジかよ……ラーマンってスゲーのな」
嵐影の隠された? 能力に驚きながらも、そろそろ商業ギルドが見えて来る。
「着いたな、じゃあ行って来るからその辺りで待っててくれ。あ、そうだ。お腹減ったら何か食べててくれよ。はい、これ御駄賃」
「……マ♪」
流は嵐影の首から下がっている、大きなガマ口財布へ大銅貨と銀貨を数枚づつ入れ、金貨も一枚入れておく。
財布の蓋を閉じた流は、嵐影を一撫でするとギルドへと入ってく。
するとここも相変わらずの忙しさだったが、混乱当初よりは若干緩和されているようではあった。
「うわぁ。でも前よりはいいのかこれ? こんちは~、メリサ居るかい?」
「あ! ナガレ様、今呼んで来るので待っててくださいね。先日はありがとうございました」
受付のメリサより若干若そうな娘が頭を下げ、先日の事をお礼を言うとメリサを呼びに奥へ消える。
すると背後から肩をがっちりと抱えられ、大声で絡まれる。
「よう! 巨滅の英雄殿、先日も凄かったんだってな!」
「ぬぉ、驚くだろファン! ってこの前はちょっとだけ顔見ただけだったな」
「おうよ、お前のお陰でウチに巣食って居た、奴らの手先のゴミ掃除も出来たから礼を言っとくわ。まぁそのせいで大忙しよ」
「あぁ、それで昨日はちょっとだけ顔を見せただけだったのか」
「まあな。で、今日はどうしたよ?」
「実はは――」
流はファンへと、新しい商売についての構想を話す。
それを聞いたファンも、随分と乗り気なようだ。
「ほほぅ! 新しい商売をなぁ。もし協力出来る事があれば何時でも言ってくれ。お前なら赤字覚悟で協力してやるぜ?」
「ありがとうよ。そうだ、今回のお礼も兼ねて、お前の所が落ち着いたらウチへ遊びに来いよ」
「それはいいな。遠慮なく行かせてもらうぜ?」
「ああ、待ってる」
「ナガレ様! お待たせしました!」
そんな話でファンと盛り上がっていると、きりの良い所でメリサが小走りにやって来て流へと挨拶する。
「おお!? あのメリサが別人のようだ……」
「む、失礼ですねファンさん。私は何時もこうですよ!」
「「へぇ……」」
「な、なんですか二人して! 私は変わったのです、多分!」
「「多分かよ!」」
そんなメリサをいじりつつ、本題へと入る流。
「こんな時になんだが、新しい商売を始めたいと思ってな。バーツさんと少し話せるか?」
「もちろんです。ナガレ様が来たら何があっても通すように言われていますので」
「おいおいナガレ。もう超高級待遇だな、普通そんな事言ってもらえないぞ? 俺ですら待たされる事もあるからな」
「当然です、ナガレ様なんですからね!」
「まぁそうだな、ナガレと比べる方がおかしいか。はははは」
なぜか二人で盛り上がっているが、当の流は困惑する。
「いや、忙しかったらまた来るから、無理はさせるなよ?」
「大丈夫ですよ、もし返してしまったら私が怒られるんですからね?」
「そう言うものか。そうだ、ファンも少し時間取れるか? 良かったら一緒に来て欲しいんだが?」
「おう、お前の頼みだ。何処へでも行くさ」
「ではお二人とも奥へどうぞ」
三人はメリサの案内で三階へと行くのだった。