106:古廻流、今だ未熟なり!!
「むぅ、ナガレ……貴方、悪魔を倒したと聞いたけど本当か?」
「ああ倒した。この家には悪魔の専門家が居るから、そいつから情報を聞きながら倒した。と、言っても最後はジ・レに助けてもらったんだがな」
「何じゃと!? よくあの体の仕組みを知っていたのう」
「その口調だとお前も知ってるのか?」
「無論じゃ! これでもヴァンパイアの真祖じゃからな。時に、貴方はコアを見分けるコツは知ってるのかの?」
「一応な。観察眼って言って、そう言うのを見分ける目を持っている」
「なら問題無いの。一つ忠告しておくが、悪魔の中にはコアを移動しながら戦う奴も居る。観察眼だったか? それに頼りすぎないように精進するがよい。それにだ、その手のスキルに頼り切りになると、いざという時に対処が出来なくなる。使えない状況を考えて行動する事じゃな」
「そうなのか? いい情報をありがとうよ。そのお礼って訳じゃないが、アリスの解放資金も着々と集まって来てるから期待してろよ?」
その言葉でアリスの雰囲気が一変し、とても明るくなり、思わず地が出てしまう。
「ほ、本当に? わ~嬉しいなぁ♪ うふふ、出たら何をしよっかな~」
「ぉぅ、楽しみなようで何よりだよ……」
「ハッ!? コホン。うむ、期待しておるぞ? だがあまり無理はせぬようにな」
「あいよ。じゃあこれから商業ギルドへ行って来るから、また来るよ」
「そ、そうか。もう行ってしまうのか……。気を付けて行くのだぞ」
「ありがとうよ、んじゃ行って来るな」
アリスの事をメイドに頼むと、そのまま階段を上り嵐影の元へと行く。
相変わらずの使用人達の見送りに引きつつ、屋敷を出てしばらく町を進むと、状況は変わらずと言った感じだった。
「う~ん。まだ混乱しているな。でも一般人は普通に生活している感じで良かった」
相変わらず憲兵隊と冒険者が町を走り回り、内通者を捕縛しようと奔走していた。
そしてある屋敷の前を通りかかった時、それは突如始まる。
「何だ……? 嵐影、少し止まってくれ」
「……マ」
「そんな物はいい、捨てて行け! そっちの箱と資料は馬車に詰めるだけ積み込め! ええい、早くしないか!!」
そんなやり取りが、屋敷の入り口の前にある馬車三台の前で行われている。
「妙な気配だな……。気配察知&観察眼っと――ッ!? あの気配は悪魔なのか?」
吠えている男の横にある「箱の中から悪魔の気配を感じて」探ってみると、そこに子供ほどの大きさの、悪魔像らしきものを三体見つける。
「箱の中だが形が分かる様になったぞ。もしかして観察眼に変化があったか? それよりあの箱だが」
そう思って眺めていたら、屋敷の前が騒がしくなり憲兵と冒険者達が屋敷へ突入した。
「そこまでだノリイ男爵! 貴様と殺盗団との間に交わした悪事は既に露呈している、見ろ! これが証拠だッ!!」
「くぅ、もう少しで脱出と言う時に……ッ。やもえん、出て来いインプ共!!」
憲兵がそうノリイ男爵に叫ぶと、傍にあった箱から子供ほどの悪魔が出て来る。
その悪魔は腕が異様に太く、頭部がゴブリンのようであり、背中に小さな羽の生えた灰色の肌をしたものだった。
「なに!? インプだと、くッ。冒険者達よ、力を貸してくれ!」
「おうよ、その為の俺らだ。だがインプか、俺らでやれるのか」
「何弱気になっているのさ、ほらヤルよ!」
憲兵二名と冒険者二名でノイリ男爵を捕縛しようと来たが、どうやら厳しい相手のようだった。
冒険者の男女はインプ三体に対して、一人一体。そして憲兵は二人で一体を相手にする。
まず憲兵が一体に対して斬りかかるが、インプの右手の剛腕により憲兵一人が吹き飛び、その隙にもう一人が斬りかかるも、その左手により弾かれる。
冒険者組は女の方がインプをやや押込み気味だが、男の方は逆に押され気味だった。
「冒険者達は二つ星か三つ星か? それに憲兵は……。はぁ、助けてやるか」
なおも苦戦している憲兵達に加勢すべく、流は嵐影を降りる。
その最中にも残った憲兵は何とか耐えているが、最早時間の問題だろうと思った時、残った憲兵も吹き飛ばされ、地面に転がる。
「よおおおッし! まずはその憲兵を殺せ、そして残った冒険者達を始末するんだ!!」
「くぅ……ここまでかッ」
「ヒヒヒヒ、人間メ、シネ――ェ?」
「お前がな」
美琴を高速抜刀すると、そのまま憲兵を襲っているインプの首を刎ねる。
そのまま動かなくインプに流は疑問に思う。
「ん? 同じ悪魔でも下級の奴はコアが無いのか?」
「ななな、何だキサマはあああああ!?」
「俺? ただの通りすがりの商人だが」
「そんな商人が居てたまるかあ~~~~ッ!? 下級とは言え悪魔だぞ、それをそんな簡単に倒せる訳が無い!」
「あ、あんたはナガレ!」
「何? 巨滅の英雄が来てくれたのか! すまない、力を貸してくれッ」
「あいよっと」
冒険者と対峙しているインプ二匹が横一列になっているをチャンスと見るや、流は練習中の刺突業を試す。
「これは丁度いいかな? んじゃ行きますよ~。ジジイ流刺突術……針孔三寸!!」
――針孔三寸。本来は刺突する事で、相手に三センチほどの穴を三つ穿つ業だが、美琴の助力で力が迸る――。
「ギィガッ」
流の針孔三寸は手前のインプの左側頭を粉々に撃ち抜き、そのまま隣のインプへと向かう、が。
「あらぁ、やっぱり訓練不足で隣まで届かないか~。なら仕方なし」
残念そうに流は隣のインプ目掛けて、一足飛びで首を刎ねる。
そのあまりの速さに、冒険者も倒れたまま見ていた憲兵も、そしてノイリ男爵も唖然とする。
「っと、こんな感じでいいか?」
「あ、ああ。助かったよ……」
「……ハ!? ありがとうよ、巨滅の英雄!」
「馬鹿な! そんな事があるはずがない……嘘だッ!!」
「その台詞は病んだ娘だと良く似合うんだが、お前じゃ役不足だ」
流は呆れたようにそう言うと、倒れた憲兵に向かってノリイ男爵を指さす。