103:メロン味、入荷しました!
「デザートは、こちらのニンジンのシャーベットです。この世界の物でとても人気の品種で、甘味料としても使用されるようです」
セバスはトレイに乗せたニンジンを見せる。
色は真っ赤で、まるで大きい唐辛子のような見た目だが、ニンジン特有の葉が見えている。
「最後はシャーベットか、美味そうだな。オークとの戦闘が浄化されそうだ」
「ええ。オークの後にお野菜のシャーベットは、お口がスッキリとしますね」
「フム。こう言うシンプルな物も良いですな」
「壱:にんじん? はて、最近どこかで……まぁいっか。んじゃ頂きマース」
日本でたまに見る真っ赤なニンジンよりも赤く、それが粉雪のようになったシャーベットは実に美しかった。
その赤いきらめく宝石のようなシャーベットを、四人はほぼ同時に口へと至福の結晶を放り込む。
「「「「ブッホ!? 生臭っさ!!」」」」
あまりの不味さに全員が噴き出し、咽かえっていた。
そんな状況に流石のセバスも驚愕し、何が起こったのか確かめようとした時、入口の扉が勢いよく開かれる。
「セ、セバス様! 最後のシャーベットは御出しにならないで……あぁ……」
「これは一体どう言う事ですか? なぜこんな事に?」
「実は……」
――流が起床する数時間前の事。
「壱:この世界は色々な屋台があってオモロイなぁ。お? あれ買うたろう~」
「いらっしゃ~い。うちは魚屋じゃないよ?」
「壱:あほう! 見たら分かるわい。前に僕のツレがここでニンジン買ったのを思い出してん。エライ美味かったって言っとったから、適当に見繕ってや~」
「そうなんですか!? こんな所でニンジンを買ってくれるなんて、酔狂な人も居るんですね、吃驚です!」
「壱:お前はここに何をしに来たんや? ん?」
「あ、そうでした。まいどあり~。お客様は神様です!」
「壱:随分と安っすい神様やなぁ……で、あま~い所包んでや。いっちゃんいい所頼むわ」
「はーい。今日はメロン味もあるから、おまけに包んでおきますね」
「壱:お!? 気が付くやないかい。ありがとさん」
「はい、じゃあこれどーぞ。えっと、どうやって持って帰るんですか?」
壱が折紙だと今更ながらに気が付く、ウサギのニンジン屋さんはマイペースだった。
「壱:なに、こうしてっと……。首にかければ問題あらへん」
「わ! 凄い特技ですね。またのお越しをお待ちしていまーす! ありがとうございました~」
「壱:また来るよって、ほなさいなら~」
器用にバランスを取りながら、飛んでいく折紙を見てニンジン屋さんは感心する。
「絶妙なバランスですね~。さてと、減った品を補充しようかな。あれ? さっきの人、包み間違えて持って行っちゃった。おまけの分のあれ『魚味』なのに……まあいっか!」
そんなウサギのニンジン屋さんであった事など知らない壱は、厨房へとニンジンを差し入れる。
「これは壱様。どうされましたか?」
「壱:いやな、古廻はんから聞いていた美味いニンジン屋があったさかい、料理の材料にならへんか? と思ってな」
「まぁ! それは素晴らしい。ありがとうございます。早速料理長へ渡して来ますね」
メイドはニンジンをとても大事そうに抱え、厨房へと足早に去って行く。
「壱:頼むで~。あ、ニンジンの味が全く別物だって言わへんかったな。まぁいっか、どれも全部甘いらしいからな」
――そして現在
「そんな訳で壱様から頂いたニンジンですが、数本その……魚の味がするおかしなのが混ざっていまして」
口直しにお茶を飲んでいた流が思わず吹き出す。
「ぶほッ!? 壱、お前ウサギのニンジン屋さんへ行ったのか?」
「壱:へぇ、行きましたけど……まさかニンジンの中に魚味が!?」
「そのようでした。他のニンジンは全てイチゴ味だったものですから、まさかそんな物が入っているとは思わず。申し訳ございませんでした!!」
メイドは泣きそうな顔で、誠心誠意流へと謝る。
「あぁ、そんな顔するなよ。俺は全然気にしていないからさ。それより壱よ、お前ちゃんと説明したんだろうな? あのニンジンの味が違うって事を?」
「壱:い、いやぁ~。なんと言うか……忘れたみたいな感じ?」
「汚物と共に燃え尽きなさい、《蛍火》」
「壱:ちょ、ま――」
その瞬間、壱の体を満たすオークの油を吸収した体は、いつもより盛大に燃え盛る。
だが不思議と皿は無事で、シャーベットと壱だけが綺麗に燃え尽きた。
「哀れ兄上……流石に今回は妹の味方ですが」
「オイオイ〆。また燃えちゃったぞ?」
「知りません、もぅ満足していた気分が台無しです」
「はぁ~まあいいさ。セバス、まともな味のシャーベットを持って来てくれ」
「承知しました」
少しするとシャーベットが到着する。
そのシャーベットを持ってきた料理長も謝罪をしたいと言うが、流は気にするなと言う。
恐縮する料理長へ何時も美味しい食事をありがとうと、逆に感謝の気持ちを伝える流であった。
「おお、今度は美味しそうだな。見た目は変わらないけど」
「ですねぇ。でもイチゴ味なんですよね?」
「フム。因幡が泣いて喜ぶニンジン、実に興味深いですね」
「壱:華麗に復活!! 僕のもおくれや~」
また四人で一斉に食べる。すると……
「「「「本当にイチゴ味だ! ニンジンだけど」」」」
そんな開放的な室内で過ごす、とある昼下がり。四人はとても満足して食後のお茶を楽しむのだった。