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099:賭博の女神

「お~い、エルシア。戻ったぞ~」

「あ! ナガレさん。お帰りなさい、お話は無事に済んだのですか?」

「おかげさまでな。ミャレリナ、あの完了証はここで出せばいいのか?」

「はいですニャ。このまま提出しえもらえれば大丈夫ですニャ」


 流は腰のアイテムバッグから証書を三通出してエルシアへ渡すと、エルシアは慣れた手つきでそれを受け取る。


「じゃあこれ、よろしく」

「はい、少々お待ちくださいね」


 エルシアは証書を三つ同時に手にすると、それを証書より大きな箱のような物の上に置く。

 すると何も書かれていない部分が発光し、文字が浮かび上がる。

 その文字を見たエルシアは、一通目は目を見開き、二通目は思わず「ええ!?」と漏らし、三通目は「うそおおお!?」と叫んでしまう。


「こら、エルシア! 貴女程の職員が、素人みたいな事をするんじゃないのニャ」

「ッ!? す、すみません! あまりの金額に思わず驚いてしまって……」


 そんな二人のやりとりを、遠巻きに見守るギルドに居る冒険者達。そのただならぬ様子を見て、また何か流がやらかしたのかと緊張が走る。


「おい、聞いたか? 巨滅の英雄がまた何かやらかしたらしいぞ?」

「ああ、アイツは一体どれ程の混乱と混沌を俺たちにプレゼントするんだ」

「もうオウチ帰りたい……グスン」

「バカやろう共だねぇ、そんな弱音を吐く暇があったら依頼をこなしな! だからいつまで経っても三流なんだよ」

「だな、ここが稼ぎ退きだ! クソ餓鬼の鼻を明かしてやろうぜ!!」

「「「オウよ!!」」」


 何か妙な気合いが入った冒険者達を後目に、流はエルシアへ問う。


「何か外野が盛り上がっているようだが、一体何を驚いているんだ?」

「す、すみません。この三通の合計金額に、思わず素人のような対応をしてしまいました」


 その言葉に流も少々嫌な予感を覚え、冷や汗を流す。


「そ、そんなに高額なのか?」

「はい……室長、ここで話しても?」

「小声でなら問題ないニャ」

「待て、その証書には何も金額が書いていないぞ?」

「あ~。これはですね、一応防犯のためですニャ。通常は受けた場所で換金しますが、事情があって他の場所で換金する人も居るのニャ。そんな人が旅先で不幸な事故に会う事もあり、その亡骸から証書とギルドカードを盗み出す輩が居ると言うことで、金額は記載しない事にしたのニャ」

「なる程な、普通はクエストを受ける時に金額は分かるからな」

「ニャ」


 エルシアは合計金額をメモ用紙に書くと、そっと流へ手渡す。

 そこには流が想像もしていなかった金額が、ずらりと並ぶ。


「これなんですが……」

「はあ!? 嘘だろ! 王貨三枚だって!?」

「ナガレ様、エルシアの苦労が……」

「あはは……。そうなりますよね……」


 ミャレリナは右手を目元へ当て、エルシアは苦笑いをする。


「おい!! 聞いたか? 巨滅の英雄が今度は巨万の富を得たらしいぞ!!」

「マジかよ……アイツ一体何をしでかしたんだ!?」

「キャーーー!! ナガレ様!! 素敵すぎます! 明日の朝までご一緒させて~」

「おい! ブックメーカー!! ナガレの旦那が今回の仕事でどれだけ稼げるかってやってたよな? これ確実に予想外に上だろう!!」

「ハア~ハッハッハ! 馬鹿だねぇ、アンタ達はいつまでたってもナガレを信じきれないから負けるのさ、今回も上限一杯かけたアタシの大勝利さね。ナガレ、何時でも一杯奢らせてもらうよ。お望みとあらば朝までネットリとね」

「「「クゥ! 博徒神めぇぇぇ」」」


 場外の混乱に更に燃料を投下した流は、あまりの出来事に呆けている。

 そんな状況を一転させる〝パンパンパン〟と乾いた怪音がギルドホールに響く。


「ほらほらん、アナタ達! こんな所でボーイに嫌らしい視線を放つ暇があるなら、ミーが受け止めて、あ・げ・る★」

 

 ジェニファー必殺の奥義の一つ「あ・げ・る★」――。それは常人の正気度を、一気に削り取る必殺の業である。


「うぼわぁ!?」「ぎゃふ!?」「きゃああ」「……へひゃ」「モロッペ!?」


 ギルドの混乱は一気に収束したが、正気を失った冒険者達は立ち上がる……そう、アンデッドのように。


「ひ、ひひひ。仕事だ! クエストをよこせ!」

「ポ・ポ・ポ・ポーションをダースで持ってこい!! 戦じゃあああ!!」

「ここが最終決戦だ! オマエ等、俺に付いて来い!!」

「ナガレ様のために!!」

「アニキーーーーー!!」


 もう収集が付かないギルドホールに目を背ける職員達。

 そしてその原因を作ったジェニファーは、満足げに流にウインクをする。

 それを食らった流はぶっ倒れそうになるも、気合いで押し留まるのであった。


「なんと言うグロテロリスト……」

「確かにグロすぎる攻撃ですニャ……」

「対魔結界のカウンターの中で助かりました……」


 混乱からさらなる混沌へ叩き込んだ変態が、腰を絶妙にくねらせ流への元へ来ると、流の腰へと手を添えて妖艶に微笑む。


「アハン♪ ボーイ、ヘルプに来たわよん」

「ジェニファーちゃん。危うく俺達まで正気を失う所だったぞ?」

「もぅ! 冗談ばっかりん!」

「いや、冗談じゃないんだが……」

「そっちが終わったらミーのお店へ来てねん。待ってるわ~ん♪」


 そう言い残すとジェニファーは、狂気ドーピングされた冒険者達をかき分け、邪神像の下へと去っていった。


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