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不自由で自由で自由で不自由

作者: 村人B

◆→女の子視点

☆→男の子視点

◆◆→どちらでもなく、どちらでもある


 月曜日から金曜日は塾。土日は外国人の家庭教師を雇って英語の勉強。休みは無し。娯楽の時間も一切無し。携帯は、連絡用に子供ケータイ一つのみ。家にはパソコンもゲーム機も本も何もない。


 私は、昔から「無駄なことはするな」「それは必要ない」「役に立たないからダメだ」と、全てを制限されてきた。アレが欲しいとねだってみても、アレをしてみたいと頼んでみても「無駄」の一点張り。何故かと聞いてみれば暴力を振るわれ、黙らせられる。


 でも、生きていくことはできた。最低限必要なご飯は与えられた。部屋には机と椅子、教材用の本棚の三つだけ。


 何一つさせてもらえないけど、人より財には恵まれている。


 不自由で、自由な生活。


 それが私。


ーーこんな私の人生に、一体なんの価値があるのだろうかーー



月曜日から金曜日の夜遅くまで、バイトしてゲーセンで散財して廃工場でバカやって。土日だって朝からバイトして夜は街をほっつき歩いてる。


 昔はクズオヤジのせいで苦しい生活を送ってた。母さんは小さかった俺のために身を粉にして働いてくれた。でも、俺が高校に入った時に死んだ。


 母さんのおかげで生きていくことはできた。頑張って頑張って、最低限の飯。


 母さんが死んでから、俺は一人で生きている。何をするにも俺の自由。ただ、誰にもねだれない。頼めない。


 自由で、不自由な生活。


 それが、俺。


 ーーこんな俺の人生に、一体なんの価値があるのだろうかーー



「行ってきます」


 お世話係にそう伝え、屋敷を出る。黒塗りの車に乗り、車内で昨日学んだことの復習をする……させられる。


 あぁ、また嫌な一日が始まる。


 学校に着くと、黒いスーツを着たガタイのいい男五人ほどが私を囲むようにして、私に対して平行移動する。


 校舎に入り、授業が始まるまで勉強。休み時間も、勉強。他の子と違って部活になんて入っていないから、学校が終わり次第すぐに塾。四時から十一時まで勉強する。


 それが終わるとまたすぐに家に帰る。車の中でご飯を食べて、家に着いたらすぐにお風呂。十分で出たら自分の部屋で勉強。


 わかると思うけど、誰とも顔を合わせないし話もしない。家族ですら、そう。


 十二時になったら布団に入り、朝六時に起床。


 私はこの生活を二歳の時から、十五年続けてきた。もう、今年で十六年め。もうすぐ十八歳。


 私自身、もうこんな生活したくない。いつかはここから抜け出してやるっていつも思ってる。


 そして、準備を進めてきた。憎いけど、十五年培ってもらったこの頭で色々考え、準備した。


ーーもう、逃げる準備は整っている。


 こんな鳥籠からは、おさらばだ。



 朝は三時半に起きて、新聞配達。六時になると帰宅して腐りかけのパンを半分かじる。十五秒かけて食い終わったら内職。七時五十分になると歯を磨いて洗濯して制服着て家を出る。


「行ってきます」


 誰もいない小汚ない一階建ての二軒家にそう告げる。目的のない、ただただ目の前の借金を返すだけの人生を考えて憂鬱になりながら、登校する。


 あぁ、また憂鬱な一日が始まる。


 学校へは走っていく。そして、空いた時間で内職をこなす。授業中でもだ。学校が終わると、他の奴らと違って部活なんざやってねえから走って帰る。すると、家の前には黒服の男が三人いる。そいつらは俺に気づくと、財布を取り上げて中身を全部持っていく。


 それは俺にはどうもできないから、せっかく稼いだ残りの金を持って街に行き、ゲーセンで散財する。


 こんな自分が嫌になってくる。でも、もうすぐこんな生活は終わらせてやる。


 全部はあのクソオヤジが残した借金が悪い。なら、それから逃げちまえばいい。


ーーもう、逃げる準備は整っている。


こんなしがらみからは、おさらばだ。



 翌朝、登校中にあちこち登ったり降りたりしながらどこかへ向かう制服を着た男の子を見かけた。


 あぁ……カッコいいなぁ、憧れてしまう。


 不自由な私とは、真逆だ。



 翌朝、登校中に優雅に車に乗り込む女子を見かけた。


 あぁ……綺麗だなぁ、憧れてしまう。


 雑で汚い俺とは、真逆だ。



 深夜。今日、ここから逃げる。


 まず、動きやすい服装に着替えて、布を何枚も結びつける。それから、ご飯とお金と着替えをリュックに入れて背負い、柱に布を結びつける。それを持って、窓を開けて……


 飛び降りる。


「さよなら、私の鳥籠」



 深夜。今日、遠くへ逃げる。


 まず、全身真っ黒に着替えて誰にも見られないようにする。ポケットにナイフと財布、着替えをリュックに入れて、その三つだけ持つ。ケータイは、解約してドブに捨てた。窓を開けて、塀を登って……


 走り抜ける。


「じゃあな、俺のしがらみ」



 高架下に座り込み、リュックからご飯を取り出す。


「いただきます」


 一口、口に入れる。冷たい。今までの生活のようだった。



 高架下に座り込み、財布をとりだす。


「これからどうしよ」


 一言、口にする。薄っぺらい。この財布は今までの俺のようだった。



 ご飯を食べ終えて、視線をあげると、川を挟んだ向こう側に誰かが寝転がっていた。


「……大丈夫ですかー」


 一瞬ためらったけど、声をかけてみる。すると、その人はむくりと起き上がった。


 そのあとの一瞬、堤防を走るトラックの光で、その人の顔が見えた。



 向こう側から声がかかった。俺はむくりと起き上がる。


 そのあとの一瞬、堤防を走るトラックの光で、その人の顔が見えた。


◆◆


「「あ、朝の……」」



 俺は少し奥にあった橋を渡り、向こう岸へ向かう。


「こんばんは」


 向こう側に座っている女の子に声をかける。


「はい……こんばんは」


 全く、こんな夜に女の子が何を。


「どうしてこんなとこにいんの?」


「……家出しました」


「だったら、家の人探してんだろ。早く帰れよ」




「あなたは?」


「あぁ、俺?家から逃げてきた」


「なら、同じではないですか。家の人探してますよ。早く帰ったらどうですか」


「俺、家族いねえし、家に帰ったら借金取りがくるし。帰れねえよ」


 この人も、私と似たようなものなのか。


「私もです。家に帰っても家族とは会いませんし、どうせ勉強させられるだけです」



 そうか、こいつも俺と一緒なんだな。


「なら、帰んなくていいや。お前、名前は?」


百合原ゆりはら 美恵みえです。あなたは?」


揖屋野いやの そう。百合原、これからどうすんの?」


「そうですね。とりあえず遠くに行きたいので明日……今日は電車に乗ります」


「そうか。なら、俺も一緒に行っていいか?」


「……はい。構いません」


 一人でどうしようと思ってたところだから、ありがたい。



 一人でどうしようと思ってたところだから、ありがたい。


「では、私はもう寝ますので。おやすみなさい」


「おう。おやすみ」



 翌朝。今日はぐっすり寝れた。今は六時ごろだろうか。


「おい起きろ百合原、朝だ」


「ん……はい、おはようございます」


 俺は二人分のリュックを持ち、立ち上がる。


 それに続いて、百合原も立った。


「んじゃ、いくぞ」


◆◆


 少し経つと、駅に着いた。一番遠いところまで行ける切符を買ってホームへ向かうと、ちょうど電車が来たので、二人で乗り込む。


 中には、誰一人としていなかった。


 座ったのは、対面の二人用の席。


「なあ、百合原」


「なんでしょう」


「お前はどんな生活をしてて、嫌になったんだ?」


「不自由で自由な生活です。あなたは?」


「自由で不自由な生活だ」


 窓の外には、街の景色が広がり、太陽が昇っている。


ーーあぁ、こんなに清々しい日の出があっただろうか。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


純文学、二作目でございます。

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