語る猫
我輩は猫である。
冒頭からどこぞの小説家の真似をする僕は学があると自慢がしたいのである。
僕は飼い猫やらペットやらと言われる存在らしい。
家出を試みたが、大層な騒動になって驚いた。
彼女らは僕がいないといけないらしい。
さて、出だしはこんなものだろう。
ここからは、いまのある状態というものを知ってほしい。朧月夜にも似た空間のなかで佇んでいる。
猫の目でこのくらいなのだから、人間でいうとこの漆黒というのだろうな。
おっと、僕の聡明さを理解して欲しいわけではない。
まぁできる猫というものは簡潔に話をすることができるのだぞ。一回だけだぞ。
「僕は、押し入れに閉じ込められている」
前説が長くなったところだが、押し入れに入った経緯はさほど長くはない。
ぴょんと入って、いそいそと潜り込み、すやすやと寝息を立ていただけでなのある。
安眠を勝ち得えて、ニンマリ顔の僕は、ガサガサと外に出るはずであった。
カリカリ。ドンドン。バリバリ。
ここまですれば、博識である僕は理解をする。
「あれ!閉じ込められた!」
きっとスマートなだけでなく冷静であるとだいぶ格好がいい。
僕は落ち着きながら考えた。
ちょうど僕は時間の扱いに困っていたところだ。
人間でいうところの暇を持て余すというところだな。
おおかた、彼女らはご飯の時間に僕がいないことに気付くはず。そして、馬鹿騒ぎを始めるだろう!きっと、そうに違いない!僕がいないといけないようだからな!
しかし、お昼寝の前にご飯を食べていた。
そんなことに気づいたのは、時間が過ぎ去ってからのことであった。
5時間。5時間あればなにができると思う。
お昼寝は十分にできるな。散歩は3回ほど行ける。
追いかけっこをすると次の日は筋肉痛になってしまうぞ。
そういえば、言うのを忘れていた。猫である僕は、暇という名前の友達とは遊んだことがないのだ。
自由気まま過ごしているので、したいことをして遊んでいるだけなのだからな。
僕は今までの5時間、初対面の暇と談笑していたのである。
あ、お昼寝をすればいいのではと思っただろ。
残念なことに、お昼寝をするという選択肢は選べなかった。僕は飽きたとは親友なのだ。
つまり、結局なにが言いたいのかというと、退屈であったということだ。
ぎゅるるるる。
僕のお腹はいい音がするな。
ああ、お腹が空いた。今、僕がしたいこと。
それは人間で言うところの、
「ご飯が食べたい!」
という衝動。ただそれだけなのだ。
思考することで空腹を忘れようと努力していた時であった。
優しい音が耳に入る。
聞きなれた愛しい声が聞こえる。
がらららら。
突然、日の出のようにらんらんとした光が差し込んでくる。
僕はしぱしぱと目を瞬く。
これは人間でいうところの明順応させるための行為であるな。
いつもの僕ならゆっくり考えていたところだが、今はそんな時間がなかった。
「ご飯である!ごはん!」
僕はしゅたっと走ってご飯にかぶりつく。
がぶがぶ。がじがじ。ごっくん。
勢いをつけたおかげで一気食いすることに成功したようだ。
そういえば、口いっぱいに頬張って食べると美味しいらしいぞ。誰かが言ってた。
僕が水をペロッとする頃には、いつもの冷静さを思い出していた。
人間でいうところの、胸を撫でおろすということに近いはずだ。
僕は背中を撫でられながら考えていた。
しかし、自分で閉じ込めておいて、探し回るとはいくぶんおっちょこちょいが過ぎると思うのだ。
僕がいないと本当にいけないようだな。
まあ、5時はどうなるかと思ったが、ご飯をくれたから閉じ込めたことは許してやろう。
しゃーなしなってやつなのだよ。
そうだ、ついでに、もう少しご飯くれるなら、「にゃん」と鳴いてやるぞ?
我輩は利口な猫であるからな。
飼い主をばかにしていると思いきや、実は大好きな猫を書きました。