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1-4『魔法使いと言ったら、信じてもらえますか?』

「なんで!?」


「えっ、逆になんで?」


 驚きを隠しきれない様子で問いかけるオトハに、至極当然といった風のミハマが聞き返す。

 そのやり取りは、まるで互いにどうしてその結論に至ったのか、全く理解が及んでいないかのようだった。いや、実際理解出来ていなかったのだろうが。


「なんでって、そりゃだって――」


「いい? オトハ、落ち着いて考えてみて」


 再びヒートアップしそうなオトハを諭すように、ミハマは懇切丁寧に説明を始める。発言を遮られ、オトハは不満に頬を膨らませながらも口を閉じた。


「まず、この人は正当な手続きでこの部屋の家主になった。ここまではいい?」


「……うん」


 チラリと、ミハマは座織の方を向き、第一に確然たる事実をオトハに述べる。不承不承といった態度ではあるが、オトハもしぶしぶそれを認め、ミハマの言葉に耳を傾ける。


「そして間は省くとして、ハルカがこの人の腕に抱きついて眠っていた訳だけど」


「変態」


 ボソリと呟く、なんてことはせず、オトハは座織への敵意を隠さずハッキリと口にする。

 しかし座織はそれを意に介した風でもなく、むしろその目には、見ている者が思わず殴りたくなるような余裕の笑みを浮かべていた。


「野郎ぶっ殺してやる!」


「オトハ落ち着いて!」


「ムガァ!?」


 ただでさえ興奮気味なオトハがそれを見れば、憤慨は必至だった。

 怒髪天を突く勢いで座織に迫り、ミハマがそれを止めようと片手を突き出すも失敗し、もう片方の手にその衝撃が伝染すれば、座織は唸り声を上げる。

 結局、この混沌とした状況は、座織のスマホに両親から祝い兼心配のメールが来るまで続いた。



「それじゃあ、仕切り直しますけど」


 若干疲れた声で、ミハマは今回の騒動の総括に入る。薄っすらと髪を逆立て明らかに不機嫌なオトハと、口周りに掌の痕を作った座織は、二人揃ってミハマの前で正座しながら、黙って言葉の続きを待った。


「ハルカは座織さんにきちんと謝って、座織さんも誤解させたことについてオトハに謝ること」


「はーい」


「なーんか釈然としねぇけど、それで丸く収まるんなら、まぁ」


 ハルカは未だ布団の上で転がりつつ、座織は消化不良感を漂わせつつも、それぞれ謝罪すべき相手に頭を下げる。


「ごめんなさい」


「正直すまんかった」


 ハルカは態度の割に真剣に、座織は棒読みにならないよう、それぞれどういうスタンスか見える形で概ね事態の収拾をつけた。

 座敷は「こっちは殺されかけてるんだけどな」という突っ込みを、心の中に閉まう。

 その代わりというべきか、座織はずっと疑問に思っていたことを三人の少女達に尋ねた。


「てかさ、お前ら一体なんなんだ?」


 当然、ここまで事態を拗らせたのだ。座織にも、彼女達が何処の誰なのかを知る権利はあるだろう。

 そうでなくても、当たり前のように不法侵入を犯した少女達には、聞かねばならないことが多くあった。


「「「……」」」


 しかし少女達からの返事は、沈黙という形で返ってきた。そしてその誰もが、困惑した面持ちで座織を見る。

 先ほどまで無邪気に布団の上を転がっていたハルカですら、身を起こして様子を窺っているくらいだ。


「おい、黙ってないで答えろ」


 だが、座織はそんな彼女達の態度を気にも留めず問い質す。語調はキツイが、今回の件において彼は完全に被害者だ。それは相手が子供であっても違いない。ましてやその相手が説明責任を放棄するのであれば、然るべき所へ連れて行き、言うべきことは言わせて貰うと言外に表していた。


「そもそもからしてここは俺の家だ。だんまり通すならお前らもさっさと家に帰れ」


「……帰る家なんて、もう無いわよ」


 今度は座織が、不機嫌を隠そうともせず少女達を突っぱねる。その時ポツリと呟かれたオトハの言葉は、座織に届くことなく虚しく消え去った。

 いや、実際は聞こえていたのだろう。しかし座織は、既に少女達との会話を拒絶するように背を向け、玄関の戸を開けようと立ち上がっていた。

 加えて「知るかよ」と、その一言でオトハの心を砕いたのだ。


「――っ!」


「オトハ……。――あ、あの」


 そんなオトハを見て、意を決したようにミハマが座織の服を掴む。冷めた目で、座織はジッとミハマを見下ろし言葉の続きを待つ。ミハマにはその態度が「これが最後だ」と、そう語っているように思えた。


「すぅ……はぁ」


 ミハマは呼吸を整え、自身の胸元を強く握り、数秒だけ目を瞑る。そして、その口を開いた。



 座織は知らない。これから少女が語ることによって、この先様々な問題がその身に降りかかることを。

 この世に生を受けて18年、今まで享受してきた平穏を自ら手放すということを――。



「私たちは、魔法使い――と言ったら、信じてもらえますか?」



※ ※ ※ ※ ※



「――は?」


「……」


 真剣な眼差しのミハマから出た思わぬ発言に、座織は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

 正直なところ座織は少女達に、家出しているとか、身寄りが無いとか、虐待されているとか、そういう込み入った事情があるのではと勘ぐっていた。

 もしそうなら、せめて通報するなり、赤の他人でも出来る最低限のことはしてあげられただろう。だが、


「ふざけてんのか?」


 あまりにも頓珍漢なその答えに、座織は声色に怒気を孕ませ、元々悪い目つきは更に険しさを増した。

 真剣な場でふざけた冗談を抜かすなと、怒鳴り上げそうになる感情を抑えながら、どうにかそう口に出す。


「いいか、現実と空想の区別はちゃんとつけろ」


 あくまでも冷静に、座織は自分にそう言い聞かせ諭すように言う。

 夢を見て、空想し、なりきる、それ自体を座織は否定しない。それは子供なら誰もが通る道であり、それを抱えたまま大人になる人も居るくらいなのだから。

 だが時と場合を考えろと、大事な場でそれをするなと、座織は叱る。


「……」


 果たして、ミハマは座織の言葉に何を思ったのか。少女は顔を伏せ、悩むように自身の髪に触れた。


――ちょっと言い過ぎたか?


 ミハマの態度に、言うべきことは言ったという表情の座織に小さな罪悪感が生まれる。

 もしかして言い過ぎたのではないかと、少女達はああ言うことで、自分達の心を守っていたのではないかと。

 だが同時に、もしまた同じようなことを彼女が宣うのであれば、その時は問答無用で通報しようと彼は決めていた。


「確かに、そう言われても当然です。ですので――」


 しかしミハマは思案の末に、座織が考えるより思いの外軽く応じると、その瞳を閉じる。そして両腕を床と平行になるよう突き出し、掌を天井に向けた。


「証明します」


「え、なにを」


 途端、何もない筈の空間から水柱が吹き上がり、ミハマの掌目掛け激しい飛沫を上げた。


「んなっ!?」


 その衝撃に座織は尻餅を着き、ただただ驚愕と呆然を混ぜ合わせたような表情でそれを眺める。

 そういえばと、座織はオトハが炎を放ったことを思い出す。あんな強烈な出来事、そう滅多に起こるものではないと思っていたが、成る程合点いったと妙に納得していた。


「つまり、あの炎も魔法って訳か」


「そーゆーことよ!」


 座織が恐怖を悟られぬよう、咄嗟に呟いた言葉に、すかさずオトハが反応を示す。そして、まるで絵に描いたように得意気な表情で座織を見下ろした。


「これで理解できたかしら? 私たちが、魔法使いだと!」


 まさに完全勝利! といった様子でオトハは勝ち誇る。

 それほど座織を出し抜けたことが嬉しかったのだろう。オトハは小鼻を膨らませ小躍りするように座織へと歩み寄ると、その鼻先に人差し指を向けた。


「感情に任せて魔法撃つのだってダメだからね?」


「う゛っ」


 そんなオトハに、ミハマは釘を刺すのを忘れない。


「あぁ、なるほど。つまりそういうことか」


 だが座織は呆然とそんなやりとりを眺めながら、まるで噴き出すのを抑えるように肩を揺らし、「全ての謎が解けた」と顔をニヤつかせていた。

 その様子にミハマは一歩引き、オトハはあからさまに不快感を示し、ハルカは「おにーさん、ちょっと気持ち悪い」と座織の心を抉る。

 しかし座織はそんな彼女達を気にせず、この部屋に来てから起きた出来事を振り返り、ある結論を出した。

 それは、


「これは夢だ。昼寝中に見てる夢だ」


「「「……?」」」


 更に「Q.E.D.」と付け加え、座織はその場に寝転り目を瞑る。

 一方、少女達は(なにを言ってるんだコイツは)という視線で、まるで珍獣の奇行を見るかのように座織を眺めていた。


「おっと、言葉にしなくてもわかるぞー。まあ、お前らには俺のやってることが理解出来ないんだろうが――」


「夢の中で寝ると夢から覚める、という方法でしょうか?」


「……」


 ヒシヒシと冷たい視線を浴びつつ、無駄と分かっていながらも説明しようとする座織の言葉を、ミハマが遮る。

 まったくの図星を指摘され黙りこむ座織に、ミハマはこう言い放った。


「夢と現実の区別は、つけませんか?」と。

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