プロローグ 『結末』
――どうしてこうなっちまったんだろうな。
そんなことを考えながら、青年は固めた拳を全力で振り抜く。たったそれだけで、彼に迫っていた不定形の影は塵のように消え去った。
そのまま真っ直ぐソレの出所を睨みつけると、そこでは奇妙な出で立ちをした男が膝を震わせていた。
「ふざけるな! こんなことあるか! あってたまるか!」
奇妙な出で立ちをした男はそう叫ぶと両腕を前に突き出す。
その動作に応じるかのように、新たに二人の死霊が男の背後に現れ、真っ直ぐ青年に襲い掛かった。
――あぁ、胸糞悪い。
青年は拳を握り直し、襲い来る死霊に備える。
きっとあの子供達にだって、やりたこと、憧れていたこと、楽しみにしていたことがあったのだろう。それがほんの僅かな間の悪さと、狂人の悪意によって理不尽に散らされ踏みにじられた。その背景が、その無念が、彼が固め直した拳を窘める。あの子達を、本当に終らせてしまうのかと。
――けど、これしかやり方が無かった。
青年は少しだけ首を動かし、横目に背後を確認する。そこには意識のない子供が三人、静かに目を瞑り横たわっていた。
「ごめんな、本当にごめん」
たった一言それだけを呟くと、青年は真っ直ぐ前を見据える。ここで怖気づくことは即ち、後ろに居る三人を殺すことと同義なのだからと、そう己の心に喝を入れて。
改めて前を向く青年の瞳に最早迷いも動揺も無く、ただの一心に、眼前に迫る死霊を捉えていた。
「救ってやるとか、恨まないでくれとか、んなこと言うつもりはねえ。けど――」
刹那、握った両拳を開き、襲い掛かる死霊の頭に優しく触れる。それだけで二人の子供は塵のように、儚い光をその身から零し消滅した。
「せめて仇は取らせてくれ」
静かに、しかし激情を込めた彼の呟きは、子供たちに届いただろうか。
けれどそれを確かめる術はない。あんな姿になった時点で、そのような気持ちを抱いても無意味なことだ。
――それが、なんだってんだ。
けれど、青年は再び拳を握りなおす。
――今度は、開かない。
あの男にくれてやる情けなどないと、青年は一直線に男の元へ走る。
彼がすることはただ一つ、全力であの魔術師をぶん殴るだけ。
「クソがっ! 行け! 行け! 行け!」
男が声を上げるごとに、その背後からは次々に新たな半透明の子供が現れ青年に襲い掛かる。しかし青年は一切避けることなく、真正面からそれに突っ込み続ける。
結果、そこには彼が走り抜けたことを証明する光の軌跡が残り、妨害すら叶わなかった子供達の安堵が音も無く木霊するだけだった。
そして、
「よう魔術師」
「へぇあ!?」
遂に青年は、自身の拳が届く間合いに男を捉える。
怒気を孕んだ青年の言葉に情け無い声を上げた男は、その間合いから逃れようと身を引いた。
しかし彼は逃がすまいと空いた手で男の胸倉に掴み掛ると、
「歯ァ食いしばれ」
その拳を、全力で男の顔面に叩き込んだ。