1-4 灰色の男と兎神の一族①
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「さて、司様、源様はどの程度までお話をされておりますか?」
目の前にいる3人のうち、執事長の兎神がそう尋ねてきた。
「祖父の手紙に書いてあったのは、俺が祖父の仕事を継ぐこと、今後『来訪』してくる者たちを保護してほしいこと、お前たちが『来訪』した者たちだということ、そして『来訪』した者たちは定期的にある物質を摂取しないと死んでしまうこと、お前たち『来訪』してきた者たちが帰還を望むなら手助けをすること。そして、俺にすべての決断を任せる、だ」
俺は、祖父の手紙を兎神に手渡した。
「読んでもよろしいですか?」
兎神の問いに、俺は無言で頷いて許可を出した。許可を出して、1分ほどで兎神が手紙を読み終わる。そして、なるほど、と呟いて「あなたたち2人も源様からの手紙を読んでおきなさい」と、手紙を隣の女性に渡した。2人とも手紙を読み終わると、兎神が説明を始めた。
「ご質問があれば、その都度、お答えいたしますのでお願いいたします。それではまず、兎神の一族について説明いたします。我らは源様のおっしゃるところの『来訪』してきた者たち、『来訪者』そのものでございます」
「そのもの、とはどういうことだ?」
「具体的に申し上げると、我らは人間ではございません。正確には遺伝子的には人間と酷似した別の何かでございますが、説明が難しいですね。まぁ、いわゆる地球外生命体みたいなものと思って頂ければ結構です」
「まてまてまて、人間じゃないだと…。見た目は人間そのものだぞ」
「見た目はほぼ人間といって差し支えないでしょう。しかし、遺伝子的には人間とチンパンジー以上に別のものです。我々の世界では星兎族と呼ばれていました。かの世界より地球へ我ら3名を送り出す際にかなりの無理をしましたので、おそらく現在生存しているのは我らだけでしょう。そうですね、司様に女性の年齢を問わせるわけにはいきませんので、私の年齢でいきましょうか。司様から見て私はいくつくらいにお見えになりますか?」
兎神からのそのセリフに、俺は苦笑してしまった。まぁ確かに、今のご時世、面と向かって女性に年を聞くのはヘタするとセクハラで訴えられるからな。気を付けないといけないぞ。
「うーん、そうだな、見た目的には50歳くらいか?祖父の代から執事をしているんだろう?」
「残念、不正解です。私はこう見えて、今年で473歳です。ちなみに、私ほどではございませんが、後ろの2人もそれなりの年齢です」
兎神の言葉に、2人の女性が頬を若干赤らめて顔を伏せる。
「…はあ!?よんひゃく?どういうことだ?」
「真偽のほどは定かではございませんが、我々の故郷では祖先は遥か彼方の星から地球に来たと言われておりました。故に寿命も人間とは異なります。ただ、定期的にある物質を少量ですが摂取することが生存の条件となります。我々、兎神の一族の3人はある『目的』があり、意図的に世界を渡り、この日本へやってまいりました。我々が世界を渡ってきた目的の一つは干支神の血族、つまりは現当主の司様をお守りすることです。そして、先ほど主への誓いをした通り、我々はすべての『目的』を達成するまで司様の傍を離れることはございません」
「400歳うんぬんに関しては、まぁそういうものだと納得しておく。お前たちの生死に関わるある物質とはなんだ?それに俺の血族を守る?なぜだ?守られる理由がわからん。それに目的の一つと言ったが、ほかには何があるんだ?」
「ある物質とは、かの世界よりもたらされたいろいろなものが保有しているものになります。我々はこれを魔素と呼んでおります。現在、この屋敷では、かの世界から採取してきた魔素を含む樹木を栽培しており、それから取れる果実を定期的に摂取することで我々は存命しております。干支神の血族をお守りする理由についてですが、今はまだ、詳しい内容は言えませんが、司様の血族のみが持つ力がございます。源様が管理をされていた、かの世界へ渡ることができるのも、その力の一つです。故に、我々は干支神の血族を断絶させないために、お傍で御身をお守り致します。また、他の目的については、いずれまたの機会にお話しいたします」
なんかいろいろと不明で腑に落ちないが、兎神が意図的に言葉を濁すくらいだ。今話せないということはそういうことなんだろう。まぁ、そのうち話してくれるのを待つか。
「その魔素?を含む果実というのはどれくらいある?お前たちの生死に関わるなら、俺にとっては最優先事項だろう。しかし、そんな変わった果実を屋敷で栽培していたか?屋敷のどこにも見たことないんだが」
「それについては橙花よりご説明いたします。橙花、司様にご説明を」
赤いリボンをした女性が、はい、と返事をしてから一礼して一歩前に出てきた。