1-2 灰色の男と祖父からの手紙
4/26 文章の行間を微修正。5/4 名前にルビ。
以下、俺宛の祖父からの手紙より、俺の独り言と所感を含む。
『干支神司へ
司がこの手紙を読んでいる頃には、わしはもうこの世におらんじゃろう。
って、当り前じゃな、遺言なんじゃから。ハハハ(笑)。
「……あんの、くそじじい」
思わず、手紙を握りつぶしそうになった。ステイステイステイ、落ち着け。
このくだりを一度はやってみたかったんじゃよな。これを読んだ時の司の反応が見られないのが唯一の心残りじゃ。ハハハ。
冗談はさておき、なぜこれを残したのかというと、わしの身体がもう永くないことが分かったからじゃ。まぁ、婆さんを長い間待たせるわけにはいかないからな。これくらいが潮時だったのかもしれん。
おぬしに頼みたいことは2つじゃ。1つ目は、わしの仕事を引き継いでほしいこと。2つ目は、わしの屋敷を管理してくれている者たちをそのまま雇ってやってほしいことじゃ。正直に話すと、彼らは少し訳ありでな、行くところがないんじゃ。故に、これからも彼らを頼ってやってほしい。彼らの処置については何か困ったことや金銭の相談事があれば、わしの執事をしていた、兎神に聞くとよい。
さて、まずは仕事について話さねばな。わしは生前、どのような仕事をしておるかを、おぬしに隠しておった。隠していたにもかかわらず、仕事を引き継げなぞ、虫のいい話だとは思うがこればかりは引き継ぐまでは話すことができなんだ。すまぬ。
わしの一族は代々、この地球上にはない、ある世界の管理をしておる。この世界には我が血族のみしか干渉することができないことが確認されておる。これは我が血族が、かの世界から地球に来訪した者の末裔であるためだと口伝されておる。故に、我ら以外の何ものも、かの世界に干渉できないのだと。そして、条件さえ揃えば、かの世界へ行くこともできる。
かの世界の管理については、わしの一族が代々秘密裏に行うことを、日本政府も承知しておる。なので、表立って協力したりはできないが、裏ではいろいろ便宜を図ってくれるぞ。その見返りとして、かの世界から有用な資源や、技術等が得られた場合は、その内容を精査した上で、相当する対価で提供する契約になっておる。まぁ、共営関係というやつじゃな。金とか情報操作とかは伝手が大事じゃぞ?これも必要に応じて兎神に相談するとよい。
ただし、組織のすべてを信用しないことじゃ。中には悪意を持って近づくものもいるだろう。それを見極めたうえで、最善の選択をすることじゃ。
そして、まれにかの世界からやってくる者たちがおる。それらの保護を頼みたい。頭の良いおぬしならもう察しているとは思うが、あの屋敷に仕えている者たちはそういう『来訪』してきた者たちだ。彼らはある日突然、この地に来ることになった。いきなり、見知らぬ地に来なければならなくなった、その心情は推し量ることすらできぬ。そういう者たちを保護してやってほしいのじゃ。
そして、『来訪』してくる者たちは例外なく、かの世界の物質を定期的に摂取しないと衰弱して、死んでしまうことがわかっておる。現在は、わしの屋敷に備蓄があるが、それもそのうち尽きてしまうじゃろう。故に、おぬしには定期的にかの世界へ赴き、物資を調達してもらうことになる。
(おいおいおいおい、なにをさらっと、大事じゃねぇか。他人の生き死にがかかってるとか冗談じゃすまないぞ…)
まあ、ここまで説明したが、かの世界を生かすも殺すも、当代当主である、おぬしの判断に任せる。兎神たちは、おぬしの決断を尊重するだろう。そして、できるならば、おぬしにはかの世界を調べ、もし彼らが帰還を望む場合はその手伝いをしてやってほしいと思う。
おぬしには、つらい役目を押し付けて申し訳ない気持ちもあるが、わしの孫ならばできると信じておる。あとを頼んだ。
あ、かわいい孫への最後のプレゼントに、お前に許嫁を決めておいた。わしの知り合いの娘でな。今はお前の両親の家の管理を頼んでおる。この手紙を読んだら、会いに行くと伝えてある。よろしく頼む。
願わくば、愛しき孫がこれから歩みゆく道が、幸福であることを心から祈る。
干支神源』
「…はあっ!? 最後になにしちゃってくれてんの!? 」
祖父からの最後の手紙だというのに内容が内容だけに感動とは程遠い心境になってしまったのは仕方のないことだろう。いろいろ衝撃的な内容が多すぎて、頭が拒絶反応を起こし、しばし思考停止してしまうのだった。