1-18 灰色の男はファンタジーな生き物と出会う(終)
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時は少し進み、俺がリリを拾ってから、はや3日経った。
リリもここでの生活にだいぶ慣れ、とくに緊張することもなくなった。見たこともなかった食事をおいしそうにパクパクと食べ、お風呂も気に入ったようで俺と一緒にほぼ毎日入る。トイレの問題も言葉が通じるためとてもスムーズに解決した。今では昼ごはんのあと、縁側の陽だまりですぴすぴと昼寝をするくらい豪胆だ。これなら外に出しても普通の子犬程度にはごまかせるだろう。人前でしゃべらなければな……。
「司さん、司さん、今日の夜のご飯はなんですか?…わん?」
そう、つぶらな瞳を俺に向けて、ご飯をねだってくるのを除いたら、ただの子犬といっても過言ではないだろう。くっ、最後に首をかしげやがった。なんて、なんてあざと可愛いしぐさを。これが魔性の女というやつか。恐ろしいやつだ。
そして、今リリの首には緑色の小さなきんちゃく袋がかけられていて、中身はクルミの実みたいな大きさの種が一つだけ入っている。この変な(変なというとリリが怒るが)種は、リリが何日か前に口に咥えてどこからかもってきたやつだ。リリ曰く、これがタイジュ様とやらの若木らしいとのこと。若木じゃなくて、ただの種やん……と、ツッコミを入れたい。
ただの種だけにどこかに植えるか悩んでいたら、リリが今はまだ植えるタイミングではないので植えなくていいと言ってきた。俺がなぜなに状態で考えていたら、リリがまだこの世界の大地の力?を取り込んでいないため、植えても芽が出ないと説明し始めた。なるほど、よくわからん…。まぁよくわからんが、リリが言うんだからそうなんだろう。しばらくはリリが首から提げて持ち歩くことになったので、手頃な大きさのきんちゃく袋を見つけて種を中にいれ、リリの首にひっかけたわけだ。
「うーん、今日の夜ご飯はっと……。そうだな、鳥のササミを茹でてほぐしたやつと、ジャガイモが少し余っているからジャガイモ茹でて潰したやつと、トマトがあるな、あと昨日の余りのリンゴかな?」
俺は冷蔵庫の中身を見ながら、リリの晩御飯を何にするかを、リリに答える。
「リンゴ!今日もリンゴが食べれるのですか!?」
リンゴという単語を聞いて、リリのテンションが有頂天。リンゴリンゴ連呼しながら、ぴょこたんぴょこたんと俺の周りを飛び跳ね始めた。
そんなに好きなのか?リンゴが。でもわからないでもないか、日本も戦争していた頃は甘いモノなんてなかったから、その反動のせいか、その頃の人は甘いモノ好きが多いらしい?かく言う、うちのじいさんもプリンが好きだったからな、あの筋肉質なでかいガタイで、ニヤニヤしながらプリンをスプーンでちまちま食うんだぞ?見た目は完全に怪奇現象だ。
リリの今までの食生活を聞いたところ、リリが住んでたウルの森?には果実らしい果実がなかったそうだから、甘いモノは珍しいんだろう。というか日本の果実の品質はやばいからな、とくに糖度が。日々、農家さんの品種改良の苦労には本当に頭が上がらない。でも、だからと言って食べさせすぎはよくないだろうから、晩御飯1回あたりは4分の1程度な。
さて、そろそろ洗濯物も乾いたころだろうから取り込んでくるか。しかし、冷蔵庫の中の食材もなくなってきたから、今日も管理人と会えなかったら買い出しに行かないとな。俺一人だけなら適当でも問題ないのだが、リリの食べるものが難しい。特に子供時代に栄養が偏ると大きく?成長できないからな。子供は食べる、遊ぶ、寝るが仕事だ。今は実家で窮屈な生活を強いているから、少なくとも腹いっぱいは食べさせてやりたい。まぁ、俺が料理していたりして相手ができないときは、一人で家の中を探検したりしてけっこう運動しているようだが。
そんなことを考えているとピンポーンと家のチャイムが鳴った。お、やっと管理人とやらに会えるのかな。
……あ、その前にリリに人前ではしゃべらないように言っとかないと。




