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5-63 干支神家の新たな日常

いつもお読み頂きありがとうございます(*´ω`*)

長かった5章も、あと残り2話となりました。気長にお付き合い頂けると嬉しいです。


 小竜の力で地下のプラントエリアに森が出来たり、ヴォルフたちが畑を作ったり、新しくハムダマたちの寝床を作ったり、舞たち来客の対応をしたり、ミツバチで養蜂を始めてみたりしていたら、あっという間に数日経った。


 日を重ねるたびに、段々と朝の気温が下がってきているのがわかる。もうすぐ冬になるだろう。リリたちが干支神家で迎える初めての冬になる。


「それで、何日か住んでみて、住み心地はどうだ? 何か問題はあるか?」


「寝床の奥に引っ込んだまま出てこないので、かなり気に入っていますね。こんな良いところをありがとうございます。あ、食べ物頂いたので、運んできますね」


 廊下で父ハムダマに会ったので住み心地を聞いた司。今のところ問題はないようだ。司の部屋の入口に置かれていた器からナッツや野菜をモクモクと口袋に含んで戻っていく父ハムダマ。1回では運びきれないので何回か往復するようで、子供たちも手伝いに来た。


 聞けば、ハムダマの生態として、妊娠した母は、生まれる子供が授乳期を終えるまでの数か月を巣からまったく出ずに過ごすらしい。外敵から弱い子供たちを守るために。その間は父が外へひたすら出かけて食べ物を探し巣に運ぶ。本来、ある程度成長するまで子供も巣からは出ないのだが、干支神家は安全なのがわかっているので子ハムダマたちも司の部屋へ食べ物を取りに来ている。


「本格的に冬になる前に、暖房をどうするか考えないとな~。火傷したり、火事にならないようにしないと危ないしな」


「だんぼう? って、何ですか?」


 リリから聞く限り、ウルの森も冬はかなり厳しい寒さになるくらいだ。ハムダマたちも寒くなると巣からあまり動かず身を寄せ合って暖を取るようだが、今の寝床はケージを布で覆っただけなので樹の洞や地中と違って防寒能力に乏しい。何か対策しなければ凍えてしまう可能性がある。しかし、地球には暖房という便利器具があるので何とかなるだろう。




 プラントエリアではヴォルフが畑区画の世話をしていた。


 農業する狼、略して農狼である。ヴォルフたちはここ数日で既に開墾と種まきを終えており、早くも新芽が顔を出しているものもある。それらを見守りながら、良い笑顔をしているウルの民改め農狼たち。ちなみに農業をしているのは雄狼たちで、ルーヴを筆頭に雌狼たちは大樹のお世話係をしている。


「おとうさーん!」


 ヴォルフを見つけると嬉しそうに駆け寄っていくリリ。最近は、ヴォルフやルーヴに気を使って、一緒に寝ることがほとんどなくなったが、まだまだ親に甘えたい盛りなのである。首元をお互いに擦り合わせて親愛表現をしている光景はとても和む。


「司、おはよう。この一帯は芽が出始めたから、少し成長を促進させるために小竜に頼んでもいいだろうか?」


「ああ、構わないよ。橙花には相談してるんだよな?」


「うむ、勿論だ。それに、毎日かんさつにっき? とやらもつけている。魔素水を注いだ日と量、経過観察は特に大切だ。今後の栽培計画に大きく関わってくるからな」


 大凡、狼とは思えない発言だった。その後、小竜を呼んで魔素水の散布が始まったのだが、直接かけるのではなく、器で容積を測りながら芽1本1本に注ぐというマメさを垣間見た。確かに量を管理している。橙花と相談して決めたようだが、ヴォルフたちは一体どこを目指しているのだろうか。



「司よ、先日蒼花が運んで来た新人は、元気にやっているようじゃぞ。日中に森のほうでちらほら見かけるようになった」


 司とリリが、ヴォルフたちの農業風景をしばらく見ていたらクーシュの母鳥がやってきた。相変わらず、神出鬼没な謎の鳥である。


「新人?」


「ほら、あの小さくてたくさん飛んでいるやつじゃな。我らに敵意もないようだから問題はなさそうじゃぞ」


「あー、ミツバチのことか。ありがとう、橙花に報告しておくよ」


 蒼花がどこに巣箱を設置したかはわからないが、どうやらここの環境に適応しようと活動をし始めたらしい。森のほうで働き蜂を見かけたなら、花を探し当てたということだろう。この調子で居付いてくれて、巣別れまで行うようになれば良いのだが。


「それはそうと、クーシュのやつはどこじゃ?」


「クーシュは司さんのお部屋でまだ寝ていると思いますよ?」


「とっくに日も登ったのに何をしとるんじゃ……あやつは」


 基本的にクーシュは朝食前まで起きない。そして、朝食後は司にくっついて行動するか、屋敷の中を散歩しているかどちらかである。昼食後はお昼寝をして、起きたら行動。夕食を取ってリリとお風呂に入り、日付が変わる前に就寝というサイクルである。


「司よ。あとで、あの馬鹿娘をここに呼んでおいてくれ。少し話があるのじゃ」


 そう言って母鳥はのそのそとどこかへ歩いて行った。司から見れば、母鳥の行動も謎そのものなので何が良くて何が悪いのかはよくわからない。しかし、母鳥にはクーシュに思う事があるのだろう。去り際は、呆れたような表情だった。また親子喧嘩になるのかもしれない。


「はぁ、これだと夜にまた愚痴聞かないといけないかな」


 そして溜まったフラストレーションは消化される運命なのである。主に、司で。

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