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0-2 紫の乙女は一人になる

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 もうどれくらい走っただろう。


 ただ一心に、無心に大樹様を目指して駆けている。昼夜を問わず走ったため、夜に木の根に足を取られて躓いてしまい、全身に涙が出そうなほどの痛みが襲ってきたけれど、お父さんとお母さんの思いを無駄にしないように一生懸命走り続けた。


 夜がきて、昼がきて、また夜がきた頃、ようやく森が拓けた場所が見えてきた。ようやく大樹様のもとについたのだ。走り続けて、へとへとになった足を必死に動かして広場にでる。


「…よかった。やっと着いた」


 思わずこぼれたため息のあと、前をみた私は言葉を失った。


 そこにあったのは、周りに草木の1本もなく、むき出しの大地に佇む大きな大きな1本の枯れ木だった。大樹様はすでに枯れていたのだ。


「そんな…大樹様が枯れてる…。大樹様! 大樹様! お願いします。私の両親を助けてください! 森に大きな魔獣がでたのです」


 私は大樹様に駆け寄った。しかし、辺りには風の音が聞こえるだけで、私の呼びかけに大樹様は答えて下さらない。


「そんな……こんなことって…お父さん、お母さん…」


 私は大樹様の助けが得られない絶望感と、ここまで走ってきた疲労から、大樹様の根元で気を失ってしまった。



 気を失ってから、どれくらいの時間がたったのだろう。


『………子よ、……私の…子…、聞こえていますか? 』


(声が聞こえる、誰?)


『私は大樹※※※※※※※※です。私の巫女よ、私の声が聞こえていますか? 』


(大樹様! よかった。大樹様、森に魔獣がでて、私の両親が戦っているんです。私のお父さんとお母さんを助けてください。お願いします。お願いします)


『私の巫女よ、安心なさい。※※※を退けるのにケガは負いましたが、あなたの両親は無事です。他の眷属を向かわせましたので大丈夫でしょう。今の私にはこれが精いっぱいです』


(お父さん、お母さん、よかった。大樹様、ありがとうございます)


『私の巫女よ。私は今、大半の力を失っています。近いうちに私は枯れ、この森を維持することができなくなってしまうでしょう。今はもう、眷属たちもわずかに数えるだけとなってしまいました。私だけが消えるだけならともかく、森を失うことで、私に長年仕えてもらったあなたたち眷属に迷惑をかけてしまう』


(そんな、森が消えてしまうなんて……なんとかならないんでしょうか? )


『私の巫女よ、あなたにお願いがあります。あなたには私の使いとして、ある場所に行き、私の半身たる若木を育ててほしいのです。そして、あなた自身もその場所で多くのことを学び、試練を乗り越えることで、巫女としての神格を成長させてください。まだ幼いあなたに頼むものではないのですが、もはや他の手段が残されていないのです。申し訳ありません』


(試練……でも、私にできることなら、わかりました。大樹様)


『私の巫女よ、あなたに2つ与えます。1つは私の半身たる若木を。1つは私の知識を書き記した本を。本は、これからあなたを送る地で最初に出会うものに渡すとよいでしょう。きっと、私の知識を理解し、あなたの助けとなってくれるでしょう』


(はい、わかりました。大樹様)


『私の巫女よ、感謝します。では、しばしの別れを。目を覚ましたら、見知らぬ地で不安もあると思いますが、最初に出会うものとの縁を大切にしなさい。きっとあなたの助けとなってくれます。私の半身たる若木が成長した暁にはこちらへ帰ってくることができるようになりますから、その時にまた会いましょう。あなたが健やかに成長し、再会できることを楽しみにしています』


(大樹様、私、がんばります)


そして、また再び私の意識が遠くなった。

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