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4-45 青葉リゾートでのひと時、3日目①

 3日目の朝、もはや恒例のリリの散歩でボルゾイハウスを訪れる司とリリは、いつも通り子犬たちに熱烈な歓迎を受ける。


 もみくちゃにされるリリだが、その顔は少しも曇っていない。ここにきて、ずっと満面の笑顔だ。一人っ子のリリにとって、弟妹との触れ合いは大歓迎なのだろう。


「よーしよしよしよし」


 3匹の子犬の内、1匹はなぜか司に懐いた。リリと3匹が追いかけっこをしていても、いつの間にか1匹だけ抜け出してきて司にすり寄っているのだ。司も悪い気がしないものだから、いつもリリを撫でる要領で子犬を構うと、ますます懐くという循環になっていた。


 しかし、その様子を見て、少しだけ快く思わない者がいた。言わずと知れたリリである。子犬が司に甘えだすと、追いかけっこを中断して司の元に急行するのだ。まるで、司に甘えていいのは自分だけだと主張するように。


「なんだなんだ、リリも撫でてほしいのか? お姉さんなのに、しょうがないな……」


 司は苦笑しながらも子犬とリリの両方を相手する。しかし、そうするとリリを追いかけて他の2匹の子犬も司に殺到するというカオスな状況になっていた。再びもみくちゃになる4匹だが、それが嬉しいのか、懐いている子犬が司の顔をベロンベロンと舐める。まだ、短い尻尾もパタパタと左右している。


 そんな状態をしばらく続けていると、3匹の子犬は急に電池切れになって眠ってしまう。食べる遊ぶ寝るの3コンボ達成である。ここ最近の司とリリは、散歩からの子犬たちの寝かしつけまでがルーティーンになりつつあるのだ。


「さて、そろそろ戻ろうか」


 母犬が子犬たちを回収して寝床に戻ったのを確認して、司がそういうとリリが足元で頭を擦り付けてきた。珍しく抱っこを要望しているようだ。子犬が司に甘えているのを見て感化されたのかもしれない。


 苦笑しながらもリリが甘えてくるときは絶対に拒むことがない司は、リリを抱き上げて撫でてからボルゾイハウスを後にする。今日の散歩はこれで終了である。


 司たちはボルゾイハウスから出たところで、丁度すぐそこを走っていた宗司を見つけた。


「宗司さん、おはようございます」


「おはよう、司、リリちゃん。司たちは散歩か? 早起きだな!」


「そうです。リリの散歩と、ここに住んでいるボルゾイの子犬たちと遊んでいましたよ。今日は一人なんですか? 舞が一緒にいないのは珍しいですね」


「ははは、羨ましいことだ。あの犬たちは俺に絶対に近づかんからなぁ。別に取って食おうとしているわけじゃないんだが……。舞はお休みだな。たぶん、今日はまだ寝てるんじゃないか? 舞も年頃だからな! そういう時もあるさ!」


「そうですね。折角の休暇ですから、たまには澪ちゃんたちと過ごすのもいいですよね。日頃から頑張りすぎてますし、たまに休むくらいでバチは当たりませんよ」


「うむうむ。今まで舞は、ろくに女らしいことをしてこなかったから、あのままでは嫁の貰い手がいないと密かに心配していたのだ。司がもらってくれる予定だから、それは即解決したがな! それに、司に会ってからというもの少しずつでもいい方向に変化してきて兄として嬉しいぞ。ふははは!」


 司と宗司は、昨日の夜、舞たちがガールズトークで盛り上がっていたことは知らないし、舞が澪たちに吐露した心境の変化を知る由もない。しかし、2人とも舞の変化には何となく気づいてはいるようだ。普段は鈍感だが、意外と見ているところは見ている2人である。


 折角だからと、司と宗司は男同士で話しながら澪の別荘へ向かう。戻るころには、そろそろみんなも起き出して活動をし始める時間帯になる。きっと、橙花たちが朝食を作って待っているだろう。


「それで、司は舞とどうなのだ? 俺から見る限りは割といい線行っていると思うのだが? あの武神流一筋だった舞がああも変わるとは……正直、思わなかったぞ! ははは」


 恋愛経験ゼロの宗司が何を偉そうに言っているのか。そう言うセリフは、せめて身近にいるある女の子の気持ちに気づいてからにしてもらいたい。いや、本当に。


「どうって言われても困るんですけど……それに、まだ出会って半年ですよ? もともとは親同士が決めたのがスタートですからね。お互い少しずつ歩み寄っている最中なんじゃないですか?」


「そういうのは時間じゃないだろう? こう、心に滾る何かがあれば、時間なんて不要だ! フィーリングで全て解決だ! 目じゃない! 心で感じろ!」


 いや、そのセリフはお前が言うなし。


「まぁ、焦っても相手に失礼ですから、無理がない範囲でぼちぼちですよ。それに、舞が悲しむ顔は見たくないでしょう?」


「むぅ、それを言われると……。確かに、妹の幸せが一番だからな」


 そんな会話をしながら男2人は歩いて行く。リリは会話の内容はよくわからないが、久しぶりにゆっくりと司に抱っこしてもらえて満足そうに微睡んでいた。この後は美味しい朝食が待っているのだから、リリにとっては最高の散歩タイムになったのではなかろうか。

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