0-1 紫の乙女は森の民に生まれる
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私はリリ、ウルの森にすんでいる。
大樹様を信仰する森の民として、ウルの森で一番腕のいいの狩人のお父さんと、大樹様の巫女の血を引くお母さんとの間に生まれた。私は生まれつき体毛が紫色だったため、大樹様の巫女をしていた大婆様と同じ色だと大騒ぎになったらしい。その時のお父さんのはしゃぎようはすごく、森じゅうを駆け回ったとか。残念ながら一人っ子で他に兄弟はいなかったけれども、その分、両親からの愛をたくさん受けて育つことができた。
ウルの森にすむ、私たちの部族は数が少ない。今では10くらいしかいないらしい。離れて暮らしているため、お互いに顔を合わせることはほとんどない。私も生まれてから一度もお父さんとお母さん以外に同族を見かけたことがない。数が少ないのにお互い離れて暮らしているのかがすごく不思議で、お母さんに聞いたら、大樹様をお守りするのが私たち部族の役目で大樹様を円で囲むように住んでいるらしい。
大婆様が大樹様の巫女をしていたころはもっと部族も多く、大婆様からの指示がたまにあって、一族で連絡を取り合っていたのだけれど、大婆様が天寿を全うして巫女が不在になってからはそれもなくなってしまったみたい。
そんな状況だったから、新しい巫女候補の私が生まれたときのお父さんとお母さんの喜びようは言葉にできないものがあったのも肯ける。私としては、そんな大役が務まるのか、ずっと不安だった。
お父さんはウルの森で一番の狩人で、私たち家族のご飯をとるのが一番の仕事。今日も私たちが満足に食べることができる獲物をとってきてくれた。毎日おなかいっぱいご飯が食べれるのはすごいことだ。私はまだ狩りはできないけれど、今日はお母さんと一緒に食べられる木の実と草を見つけることができた。大樹様、今日も恵みを分けていただきました。ありがとうございました。食べ物をとってきてくれたお父さんに感謝しながら、家族でお腹いっぱいご飯をたべて、両親と一緒に眠りについた。明日も一日無事に過ごせますように。
でも、穏やかな日々は突然終わりを迎えた。
ある日、ウルの森に魔獣がやってきたのだ。それは、大きな大きな、今まで見たこともないくらい大きい魔獣だった。額に丸い石を持ち、血のように真っ赤な両目。大きな鋭い爪で森の木をなぎ倒しながら、私たちの前にやってきた。私はその姿を見たとき、強い恐怖を感じて全身の毛が逆立ち、身がすくんでしまった。
私たちは本能的に相手の強さがわかる。そうでないと森で生きていくことができないからだ。だから、すぐわかった。あの魔獣は森で一番の狩人のお父さんにも倒せない。はやく逃げないと。
しかし、お父さんとお母さんはあの魔獣と戦うと言う。そして、まだ幼く戦えない私を逃がす時間を稼ぐと。でも、私はお父さんとお母さんと別れたくない。もっと一緒にいたい。
お父さんは最後に「一人でも強く生きなさい」と言って、魔獣に向かっていった。
お母さんは最後に「育ててあげられなくてごめんね」と言って、魔獣に向かっていった。
私は言葉にならない咆哮を上げると、全力で大樹様に向かって走り出した。悲しくて悔しくて、視界に涙が溢れた。