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赤色連盟  作者: 久彌アサ
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 放課後になると同時に教室を飛び出した彰浩を、日向の家の塀の前で待つこと、十五分。息を切らしてセレクトショップの大きな紙袋を振り回しながら、彰浩はやって来た。その後ふたりして塀を乗り越え、日向のところへ急ぐ。最初は「不法侵入だろ」と驚いていた彰浩も、次の瞬間には「なんかドキドキすんな」と笑っていた。親友は基本、深く考えない。

 ふたりしてヒマワリの群れと格闘しながら、奥を目指す。日向はいつもの場所に腰かけていた。今日はひとりのようだ。日向がこちらに気づき、嬉しそうに近寄って来る。

「葵、約束守ってくれた!」

「うん、約束は守らなきゃ」

「嬉しい、ありがと」

 日向は本当に嬉しそうに笑う。感情表現が、よくみる海外ドラマのように豊かだ。そんな日向を前にして、いつも賑やかな彰浩が無言だ。どうしたのかと振り返れば、彰浩は天を仰ぎ、感極まっていた。

「葵、俺は今モーレツに感動している。ここは楽園か」

「何言ってるの、彰浩」

「日向ちゃん!」

 突然日向の両手を握りしめたかと思えば、鼻息荒く日向の名前を呼ぶ。これには日向も驚いた様子で、目をしぱしぱさせている。

「俺、吉崎彰浩!十六歳!葵の親友やってます!」

「葵の……?」

「そう、そう!葵は昔から大人しくてさ、俺が連れ出してやらないと、ずっと部屋で本ばかり読んでる根暗野郎だからさ」

「ちょっ、なんだよそれ!」

「本当のことだし~」

 彰浩の余りにもな言い草に反論すると、更に返される。そんな僕たちの様子を見ていた日向が吹きだした。

「ふっ、あは、ふたりとも仲良し」

 日向がお腹を抱えて笑い出したところで、俺たちもお互いを見つめ、吹きだす。ひとしきり笑ったところで、彰浩が当初の目的を思い出したのか、日向に袋を渡す。

「これ、俺の姉ちゃんの制服なんだけどさ。きっと日向ちゃんにも似合うと思うんだ。身長は姉ちゃんの方が少し高いけど」

「制服?」

「そう、学校で皆来てる服。僕のは男用だけど。日向、着てみなよ」

「うん!」

 日向が制服を受け取って、奥に消えていく。残された僕たちはテラスに座り込み、ふたりして雲一つない空を見上げる。

「イイコだな、日向ちゃん」

「うん」

「んで、めっちゃ可愛いな」

 視線は夏空から離さずに、感慨深げに呟く親友。

「……彰浩、お前」

「あーあ。葵の方が先に彼女出来るとかないわー」

「ばっ、何言って」

「葵!できたよ!」

 彰浩の言葉に慌てた僕を、日向の声が制止させる。振り返れば、僕たちの高校の制服を身に纏った日向がいた。普段ワンピース姿しか見ていなかっただけに、新鮮だ。僕たちの高校の制服は著名なデザイナーに製作を頼んだものらしく、県内外でも評判が高い。夏服は青地に白色を差し色にした、爽やかな装いだ。

「日向ちゃん、可愛い!よく似合ってるよ、な。葵」

 バシンと何も言えない俺の背中を彰浩が叩く。

「う、うん。……似合ってる」

「本当?」

 クルクルとその場で回ってみる日向。スカートが靡き、ヒラリと舞う。……彰浩のお姉さん、ありがとう。

「日向ちゃん、ちょっとこっち座ってみて」

「?」

 彰浩が日向を呼び、横に座らせる。何事かと見ていると服が入っていた袋から、クシと髪留めを取り出した。

「姉ちゃんの部屋からパクってきた。クシはあれ、ホテルで置いてあるやつ、旅行に便利だからって母さんがストック持ってるんだよね」

 慣れた手つきで日向の髪を梳き、ポニーテールにしていく。最後にキラキラと輝く青い星があしらわれたバレッタを、ゴムが隠れるように飾る。

「ほら、できた」

 スマホを日向の前に出し、見てみ、と促す。

「わぁ」

「うん。一段と可愛くなった。葵はこういうとこ気が利かなさそうだからなー」

「悪かったな」

 正論だけれど、腹が立つ。確かに僕は考えもしなかったけれど。

「ありがと、彰浩!」

 そう言い先程とは逆に日向が彰浩の両手を握りしめる。

「っ」

 あ、今初めて人のキュンという音を聞いた気がする。彰浩が目を泳がせ、「う、うん」と珍しくどもっている。先程の仕返しとばかりに、背中をバシンと叩く。

「いてっ、おま、葵。さっきより強くないか~?」

「気のせいじゃないですかね、彰浩さん」

「てめ……まぁいいや。んじゃ行きますか!」

「は?どこへ」

「……」

「なんだよ?」

 彰浩が信じられないものを見るような視線を寄越す。一度盛大にため息をついたかと思えば、やれやれというていで話し出す。

「ほんっと葵って、肝心なところ抜けてるっていうか」

「だから、なんだよ?」

「制服を来た男女三人が行くところなんて、ひとつしかないだろ」

「は?」

 ニヤニヤとした顔で彰浩が言うが何の事だか分からない。

「学校だよ、学校。行こうぜ、葵・日向ちゃん!」

「え?」

「学校?行く!行ってみたい!」

「うし、そうと決まれば、行きますか!」

「お~っ」

「ちょ、え?ま、待ってよ」

 やけに意気投合して走り出したふたりを、僕も慌てて追いかける。

 日はまだ高い。

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