④
翌日、いつもよりかなり早く起きてしまった日曜日。昨夜の内から選んでおいた本を持って日向のところへ急ぐ。昨日は変なところから家に入ってしまったから、今日はちゃんと玄関から入ろうと洋館の前に立つ。
正面から見ると威圧感が凄まじい。正面入り口以外をグルリと塀に囲まれた洋館。玄関ポーチには扁平アーチが施されており、レンガ造りの壁は建って数年というのに、長い年月を感じさせる。空を仰ぎみれば、スレート葺きの屋根にはカラスが数羽止まっており、尚更不気味さを煽ってくる。
大丈夫、ここは幽霊屋敷なんかじゃない。日向がちゃんと暮らす家なんだから怖くない。自分を奮い立たせ、呼び鈴を鳴らす。これもまた「ビィィィィ」と素晴らしい音を立ててくれる。少し間を開けて、女性が顔を出す。日向の母親だろうか、面影があるといえばあるような。女性は最初不審げに僕を見ていたかと思えば、合点がいったのか優しく微笑む。
「町内の回覧板かしら?若いのに偉いわねぇ」
ゆったりとした口調で喋る女性。こういったところは日向と似ているかもしれない。
「いえ、違います。僕は」
「?」
「日向……さんに会いに来ました」
その言葉を発した途端、女性の片眉が上がる。
「ひなた?」
「あ、はい!そうです!日向、日向に本を……」
言いながら本を見せようとカバンを漁る僕に、冷たい言葉が降ってきた。
「日向って、誰ですか?日向なんて子、ウチにはいないんだけど」
「え?そんなはず……だって」
「どこか別のお宅と勘違いしてるんじゃない?ここ住宅街だし」
冷ややかな瞳が僕を見下ろす。何の感情も感じられない表情に、思わず手をとめてしまう。
「違います、ここで合ってます。僕と同じくらいの歳の女の子で……」
「しつこいようなら、警察呼びますよ」
「っ」
その言葉と共に、重く扉が閉まる。加えて、ガチャンと鍵のしまる音。明らかな拒絶の音に、僕はしばらくその場を動けなかった。