①
その日は夕方から降り出した雨で視界が極端に悪かった。加えて、高速道路でスリップ事故が起きたという情報が入った為、一般道を走行していた。何度目かの赤信号に捕まる。
久しぶりの家族旅行だというのについていない。そう独り言のように呟いた私の愚痴を後部座席からなだめる妻。妻の横、私の席の後ろでは愛しい愛娘が長旅に疲れたのか、眠っている姿がバックミラー越しに目に入る。
雨粒が反射する色が赤から青に変わり、アクセルを踏み込む。交差点の真ん中あたりに来た時、やけに右側のライトがまばゆいことに気づく。
気が付いた時には、視界いっぱいに広がる白い光。横からの衝撃と共に、車体が悲鳴を上げる音が耳を支配する。エアバッグが開き、何とかその場に体が固定された。打撲だろう、全身が痛い。けれど、無事だ。家族の無事を確認しようと、バックミラーを何とか覗き込む。そこには、突っ込んできたのだろう車の前部分が映る。
「―――――――――え」
待て、待ってくれ。そこには、だってそこには。運転席の後ろは一番安全だから、と。だからそこは二人の愛しい娘の定位置にしようと。
歯が噛み合わず、カチカチとなる。急速に身体が冷えていく。
「―――う」
妻の苦し気なうめき声に反射的に振り返る。
そこにあったのは妻の血にまみれた姿と。バックミラー越しに見たと同じ、力なく垂れ下がった幼い我が子の小さな、小さな腕だった。