9話:レッツサバイバル
9話:レッツサバイバル
「起きるのじゃ…………起きるのじゃ……………………いいかげんお・き・る・の・じゃーーーーー!!!!」
耳元での大きな声でハッと飛び起き腰につけた短剣を握り精一杯の戦闘態勢を取る。しかし漫画みたいに短剣は綺麗に抜けずにいた……寧ろ今も抜けてないんだけどね……
周囲を確認している最中に頭を両手でガッチリとホールドされ視界に幼女もとい女神が入り込む。
「いやー粋がっていた割に無様じゃったのー。あれじゃ竜が四肢を使わないで戦ってくれたって勝てないのう。夢のまた夢じゃな」
「僕は生きているの?」
「ああ、何とかお前がアースリザードは倒したのを見てたのじゃ。ってきゃっ!! ちょっと! ねぇ! ちょっとーーー」
自分の無事を確認して力いっぱいアイリスを抱きしめた。
アイリスが騒いでいるがそれどころではない。
(僕生きてる)
何よりも今の僕には生きていることが安心できた。
おでこをつるぺたのアイリスの胸に押し付けているうちにアイリスが僕の頭を撫でていた。
呼吸を整えて拘束を解きアイリスの顔を見る。
「死んだかと思ったよ」
「確かに初戦にしては相手は強すぎじゃの。ほれっ! 降ろしておいたから【鑑定】してみるのじゃ」
アイリスにいわれるがままにアースリザードに鑑定を行うと腕輪が起動しウインドウが表れる。いつもの魔法の選択画面とは違い魔物の情報が映し出される。
名前:アースリザード
年齢:496
Total Lv:369
ステータス
体力:Lv 90
魔力:Lv 1
攻撃:Lv 108
防御:Lv 150
敏捷:Lv 20
超能力:無限繁殖
能力:成長促進
魔法:土魔法
称号:子沢山母さん
「ステータスなんだよこれ? こいつ1匹で王都を滅ぼせるんじゃないのか?」
「まあできるじゃろうな。
じゃが……この山の主である竜は人間と関わることをしないのじゃ。攻めてこない限り無関係だからの……まあ相手が攻めて来た時は容赦なんて無いのじゃがの」
「すぐにこいつが襲ってこなかったのはそういう理由があったんだな。でもこの魔物のレベルは普通なのか?」
「普通な訳ないじゃろ。こいつで普通ならとっくに人間は魔物によって滅んでおる筈じゃ。
まあ、普通なら土地神とかいわれるレベルじゃな」
「初っ端から死ぬかと思ったよ」
「まあ殺されてもおかしくなかったの。我が折角後ろから【略奪】を使うのじゃ! ってアドバイスを送っていたのに地面から立ち上がることすらできなかったしの」
「何もいい返せないよ。それでこいつどうしたらいい?」
「まずは魔石を取るのじゃ。ひっくり返して腹に手を突っ込んで探すのじゃ」
「うん……」
アイリスにいわれたとおり。土魔法のレベルを下げてワニの右半分に段差を作っていくとバンッ!って音と共にひっくり返り砂埃が舞う。
傷口に腕を突っ込み骨と骨の間に手を滑り込ませて行くと大きい石の感触がある。しっかりと掴みブチッ、ブチッという音と共に腕をゆっくり引き抜いて行く。
僕の手のひらには紫色に輝きを放つソフトボール程の石があった。
「おお、長く生きていただけあって中々に立派な魔石じゃの! この世界ならそれひとつで10回生まれ変わっても豪邸を建てながら遊んで暮らせてお釣りが来るのう」
「やべぇな。まあ売るつもりは無いけどね」
「ん、そうか?てっきりスグに売るものかと思っていたのじゃが……」
「折角の初勝利記念だからね。加工してずっと身につけてるつもりだよ」
「だったら武器に付ければいいのじゃ。魔法剣になるのじゃ!」
「ふむ。まあ色々と考えてみるよ。他にも使える素材とかある?」
「うむ。串刺しとはいえ腹にしか突き刺さらず鱗は貫通しなかったからの、こいつの鱗は全てが売れるのじゃ」
「ちなみにどの位で売れるの?」
「竜族じゃからの……1枚で金貨5枚程かの?まあ大きさにもよるが、大きかったら10枚位かの?」
「やべぇな。ちなみに食えるのこいつ?」
「それは勿論じゃ鱗を綺麗に取れば骨以外は食べれないところが無いのう……内蔵も薬として高く売れるのじゃ」
「ちなみに骨は?」
「武器にも防具にも使えるのじゃ」
「この世界ならこいつを狩り続ければ王にもなれるな」
「そうじゃろうな……この世界でトータルレベル300を越えるのは大魔王と魔人と竜族くらいなものじゃからな」
「初っ端からハズレを引きすぎたって事ね」
「山に向かうからじゃ。今から竜と戦うとかはいわないで欲しいのじゃ」
「いわないよ。まずは鱗を剥がなきゃね」
まあ案の定といいますか……持っている安物のナイフでは鱗を剥がすことはできませんでした。ですよね……
アイリスがアースリザードの素材とナイフを合成するのじゃy-と騒いでいるから仕方なくもう一度ワニの腹の中に手を突っ込んで肋骨? を一本ずつ引っ張っていく。三本程ヒビが入っていたようで力を込めるとボキッ!っと音と共に取れる。
三本の骨と安物のナイフを対価に【合成】する。
そこにはワニの骨で作られたナイフがあった。
とりあえず鑑定してみる。
【土竜刃-鰐】
属性:土
効果①:攻撃Lv+50
効果②:自動修復
説明:アースリザードの骨から作られしナイフ。このナイフはトータルレベル300までの魔物を切り裂くことが可能。
素材の剥ぎ取りならばどんなレベルでも刃こぼれすることなく剥ぎ取れる。
刃こぼれは魔力を込めることで自動で修復する。
鱗や魔石と合成することで更なる力を持つ。
序盤で持つ武器じゃなかった……
まあいい。一枚ずつ鱗を剥ぎ取り地面に山を築く。
「ねえアイリス? 何か入れ物ってない?」
「お前の鞄があるじゃろ」
「こんなにいっぱいは入らないよ……殺した以上全部を責任持ちたいんだ」
「ふむ……では【空間作成】を習得するのじゃな。そしたらその鞄の中に新しい空間を作り素材を入れれば良いのじゃ」
「うーん。じゃあそれで。アイリス頼むよ」
「わかったのじゃ。ほいっと」
ストックしてあった空間作成を習得する。
早速バッグの中に空間を作成すると一枚ずつ鱗を入れていく。
定番だけど便利すぎるねこれ。
次は本体を解体しようと思ったけど骨を綺麗に取って防具の素材にしたかったため、15mはある巨体をそのまま鞄に入れて宿に戻ることにした。
宿に戻るとまだ灯たちは帰ってきてなかったので、食堂へ行き旦那さんと話をする。
「あのー少しお時間いいですか?」
「構いませんよ? どうなさいましたか?」
「食材を取ってきたので料理を作ってもらいたいのですが可能でしょうか?」
「ええ。問題ないですよ。家内にも良くするようにいわれていますので」
「では、ちょっとここだと申し訳ないのですが狭い……スペースが足りないので店の裏でもいいですか?」
「いいですよ?」
僕と旦那さんは外へ出て店の裏に回る。
直に置くのも嫌だったので地面の上に薄い空間を作り広げておく。
その上に鱗が一枚残らず剥がされたアースリザードが置かれる。
「あの……これなんですけど」
隣を見ると旦那さんは気絶していた。
これが普通の反応なのか……とりあえず肩を揺すって声をかけると目を開ける
「いやー夢を見ていましたよ。お客さんが竜でご飯を作って欲しいなんてそんなことある訳無いのに」
「いや、素材の方を向いてるじゃないですか。現実から逃げないでくださいよ」
「これは……あなた一人で倒したのですか?」
「ええ、まあ……」
「深く聞くと此方の命が危なそうだな……いわれた通りにしよう」
「いや、心の声が出てますよ?」
「いや! 嘘です。殺さないでください」
大人の土下座を始めて見たよ……
料理してっていっただけなのに……
「まあいいや、これで料理できます? ちなみに骨は防具で使いたいので全て綺麗に取りたいのですが……」
「まあそのくらいでしたら私でも可能ですよ。ただ一日で全てを解体するのは大きさ的に無理なのでご了承ください」
「その辺は任せますよ」
「いやーそれにしても久々の大物だ! 腕が鳴りますよ!」
「ではお願いします。お礼はこいつの鱗は10枚でいいですか?」
「宿に部屋が増やせます。本当にありがとうございます」
「では終わったら教えてください」
入り口を入り女将さんにこの子追加です。とアイリスを紹介して二階の部屋に行こうとすると、
「あーあんたらの部屋は一階の奥だよ。荷物も運んどいたからね広い部屋だからゆっくり休めると思うよ。ごゆっくり」
部屋の移動は聞いていたけど全部やってくれたようだった。
まあ荷物も着替えくらいしかないんだけどね。
部屋に入ると確かに広くなっており、鏡付きの机があった。ベッドもダブルサイズ?って奴かな?になっていた。
風呂に入ってないので寝転ぶ気にもならずとりあえず机に仕舞われていた椅子に座る。
この街で防具作れたらなんて思っていたけど自分で合成した方が早い気がするんだよね……アイリスに今度防具一覧でも見せてもらおう。
「あーアイリス?ちょっといい?」
「なんじゃー?」
僕が椅子に座った時に何事もなかったかのように自然な動作で僕の膝の上に座ってきたアイリスの頭を撫でながら話しかける。
「とりあえず先に風呂行こうか」
「うむ。汗かいたのじゃ」
旦那さんの方を確認し、1時間ほど出かけてきますといった後に僕の【転送】で風呂に移動する。
「はい、アイリスバンザーイ」
「バンザイなのじゃ」
白い膝下まであるワンピースを頭から抜きお互いすっぽんぽんになり風呂場へ向かう。
身体を洗う為に洗い場には湯汲み用の一般家庭用の浴槽大の岩で作った容器を用意していたが、お湯を抜いて一日放置していた事もあり、一度水を貯めてから火魔法で沸騰させ煮沸消毒をした後に再度お湯を作った。湯船も同様の作業を行う。
アイリスの頭を洗ってから背中を洗ってやると前は自分で洗えるようで断られた。
残念なんて思ってないからね?
その後は何故かアイリスが同じように慣れていない手つきで僕の頭と背中をあらってくれた。
お父さんになるってこういうことかな?なんて父性を感じていたが、背中を洗ったらそそくさと湯船に入って落ち着いていた。
僕も身体を流してから湯船に浸かるとアイリスから話しかけてくる。
「で?聞きたいことは何じゃ?」
「ああ、氷魔法ってある?覚えたいんだけど…….」
「本来は風と水を同時使用して氷魔法とするのじゃが……まあいいじゃろ【創造】で作れるようにしてやるのじゃ」
「じゃあいっぱいある【火魔法】と【水魔法】を対価にして」
「わかったのじゃ。ほいっできたのじゃ」
目に見える物であればアイリスがいなくても創造できるが、能力とかは僕が管理できないためアイリスに預けてある。そのためアイリス経由でしか合成できないのが問題かな……まあ困らないけどね。
腕輪の宝石を押しウインドウを開くと一番下に【氷魔法】があった。
あれ?
魔法のLvが上がってる?
Lv 10がMAXだったのにいつの間にか20になっている?
「ああ、アースリザードを魔法で倒したからじゃな。」
「上がりすぎじゃない?」
「魔力切れ起こして生死の境を彷徨っていたからの……我も魔力を少し注いだらそうなったのじゃ……」
「アースリザード倒した時の僕の魔力Lvは?」
「11じゃ」
「殆どアイリスじゃん。でもありがとね」
そうして、風呂場でも膝の上に座っているアイリスの頭を撫でる。
「それで何で氷魔法なのじゃ?」
「ああ、それは食材を長持ちさせようと思ったんだよ。
空間魔法に氷と一緒に食材を入れれば腐らないかな?ってさ」
「確かにLv 20の氷魔法で作った氷なら火魔法でもぶつけない限り溶けないから可能じゃろうな」
「それを聞いて安心したよー。あとはまったりお風呂を楽しもうか」
「そうじゃのー」
そうしてふたりはまったりとお風呂を楽しんで宿に戻った。