8話:レベル上げしてきます
8話:レベル上げしてきます
昨日はお楽しみでしたね。そんなことはなく……まあお風呂ではスッキリさせてもらいましたけどね。さておき、今何時だろうと身体を起こそうとする。
「うー、んぅ、んうぅ……」
あれ?
僕に覆い被さるように寝る幼女により起きることは叶わなかった。
左手は横に伸ばされて、昨日できた可愛い彼女の枕になっているようで感覚もない。腕枕ってしたことなかったけどさ……これ腕に血液行かなくて腐って落ちたりしないよね?
マジで腕があるのかわからないくらい感覚が無いんですけど……
まあ可愛い寝顔をゆっくり見れるからそのくらいの代償は払おうじゃないか。
それにしても、今までも勉強しながら寝落ちして同じ部屋で寝たことはあったけど一緒のベッドで寝るのなんて何年ぶりだろうと思っていながら寝顔を見つめていたら瞼を瞑ったり力を抜いたりしながら灯がゆっくりと目を薄く開いた。
「んぅ……アキ? おはよぅ。 んー」
寝ぼけているのだろうか……まだ完全に目を開ける前に口付けをされた。そしてそのまま二度寝に入る灯さんは再び隣で可愛らしい寝息を立て始める。
僕ももう一度寝ようかと視線を正面に向けると今度は目を開けてじーっと見ている幼女……もとい女神がいた。
「ほーう」
「子供にはまだ早かったかな」
子供とは思えないような含みを込めた顔でじーっと見てくるアイリス。
「まあ昨日一緒にお風呂に入った時に感じてはいたがの」
「まあずっと片思いだったけどな。この世界に召喚されたおかげで、お互いに気持ちの確認ができたからこれだけは姫さんにも感謝してるよ」
「我も力を貸したかいがあったかの」
「そうかもね、ちなみにアイリスが力を貸した理由って何だったの?」
「それはじゃな……」
「別に無理しなくてもいいよ。ちょっと気になっただけだし」
「そんな大した理由って訳でもないのじゃ。ただの……友達が欲しかったのじゃ」
そんな可愛いことをいうアイリスの頭を優しく撫でていると隣から伸びた手が僕の上からアイリスを奪っていった。
「んーアイちゃん可愛いなー私達の子供になっちゃう? 私は立派なママになるよ?」
「アカリ……苦しいのじゃ……」
どこから話を聞いていたのか、いつの間にか起きた灯がギューっと昨日知ったばかりの着痩せする胸にアイリスの顔を押し付けて溺愛する灯にそのままだと僕がパパかな? なんて思っていた。異世界だってのに今日も平和である。
「そろそろ起きるか?」
「「そうね(じゃの)」」
「アイリス今何時かわかるか?」
「うむ。もうお昼じゃの……」
完全に飯の時間を過ぎていた。チェックアウトって何時なんだろう?
そんなことを思っていたらドアがノックされる。
「アイリス不可視化してくれ」
「しょうがないのじゃ」
アイリスが不可視化したのを確認してから扉を開けるとそこには仁王立ちした女将さんが立っていた。
「あんたらはいつまでいるつもりだい? 宿賃は一泊分しか貰ってないんだけどね。」
「すみません。疲れて寝過ぎてしまいました。これは迷惑代です。」
僕は袋から大銀貨を1枚渡す。
「まあ商売だからね。貰える物貰えれば文句は飲みこもうじゃないか。それで、今日は泊まるのかい?」
「ええ、これで泊まれるだけお願いします。
あと、今晩から1人子供を増やしたいのですが可能ですか?」
僕は金貨を1枚渡すと女将さんは見てわかる位笑顔になった。
「別に子供のひとりやふたり構わないさ。部屋は流石に狭いだろう、今夜から一回り大きいベッドの部屋が空くから変えてやるよ」
「ありがとうございます。では今夜から3人でお願いしますね」
「わかったよ。ごゆっくり」
この世界もやっぱり金か……どこの世界も世知辛いね。
さてと……
「今日から日中は別行動をしたいんだ」
「どしたの急に?」
着替えていた灯とバッチリ目が合う。少しは隠しなさいよ
「えっと……いや、ね。 灯は不可視化したアイリスと一緒に身分証を作ってきて欲しいんだ」
「あれ? 身分証はこの国を出るまで作らないんじゃなかったの?」
「作らないよ? 作るのは偽物の身分証だよ。僕が【偽装】で灯の外見と名前を変えるからそれで作ってきてもらいたいんだよ。名前はカリーナとかどう? 銀髪の青眼でポニーテールにしてさ!」
「後半はアキの趣味なの? まあ別にいいけど身分証って何が必要なの? わかるアイちゃん」
「うむ。普通の身分証なら必要なのは名前と年齢だけじゃの。もし金が必要になって住人や街、国からの依頼を今後受けるつもりがあるのなら試験を受ける必要があるのじゃ」
「だって。アキわかった?」
「ああ、じゃついでにそっちも頼むよ。アイリス一時的に灯の能力を封印って可能なの?」
「そうじゃの、できないことはないのしゃ。ただ【能力】を作る必要があるの」
「預けてあるのを対価で作れる?」
「うむ問題ないのじゃ。どれを対価にするのじゃ?」
そういって、アイリスが手元にウインドウを出現させ対価にできる同程度の能力が表示される。
・飛行
・空間作成
・重力支配
・神化
・竜化
・物理反射
・魔法反射
・再生
・復活
・時間停止
「いや、これらは切札だからできれば使いたくない。もっとどうでもいい能力で数を増やしてできない?」
「うーむ。そうじゃのーまあ可能じゃが……最低でも3つ以上は必要じゃ」
そこには
・属性耐性
・物理軽減
・魔法軽減
・体力増加
・魔力増加
・力増加
……
と、劣化番の能力がズラーっと並んでいた。
そこから絶対に使わないであろう能力【棍棒創造】【棍棒ダメージ上昇】【棍棒の可能性】を選択した。ちなみに全部楠木君が所持していた能力だった。
「それで、どんなスキルなんだ?」
「うむ、【封印】でいいじゃろ。これは我が預かっておくのじゃ。
アカリが試験を受ける時に我が操作して普通のハンター程度の強さにしておくのじゃ。終わったらアキに渡せばいいじゃろ?」
「じゃあそれで頼むよ」
「任せるのじゃ」
無い胸を張る幼女の頭を撫でて灯と話をまとめて行く。
「それでアキは何をするつもりなの?」
「僕は森へ行こうと思う。今の自分の力を試したいんだよね。レベルの上げる方法とか持っている知識とどのくらい違うのか試したいし」
「それで危険はないの?」
「アイリスどうなの?」
「うむ、アキのレベルなら全然問題ないのじゃ……だがの、我の本体が『ひとりで行かせるのはダメなのじゃ!』『 我が着いて行くのじゃ!』といっておるのじゃ」
「女神様自身が? 女神様って強いのよね?」
「強弱では測れんのじゃが……まあ傷を付けられるのは同じ神くらいじゃろうな」
「それなら私は構わないわ」
「じゃあ、そんな感じで」
僕はアイリスから女神のアイリスを召喚する指輪を貰った。
灯とは宿を出て別れた。
僕は門を出て街道を王都の方へ戻って行き森に入る。森の奥に着いた頃に女神のアイリスを召喚する。
「来たのじゃー」
登場して早速抱きついてくる。可愛いな~とワシャワシャ頭を撫でる。
「なんか付き合わせちゃってごめんね」
「まあいいのじゃ。こんなところでお前を失うリスクは犯せないのじゃ」
「この辺ってそんなに危険なの?」
「いや、ここら辺は大したことないがの、あそこに山が見えるじゃろ? あそこには竜が住んでおるのじゃ間違えて行ったら大変じゃからな」
「ふーん成る程ね……」
「あそこはお前にはまだ早いのじゃ……行かせないのじゃ」
「……うん」
「なんじゃ今の間は」
さり気なく山の方へ足を向けつつ魔物を探すが一向に出てこない。
「なあ、アイリスこの辺って魔物はいないの?」
「そうじゃな、この辺は魔素が薄いからの魔物が育ちにくいのじゃ」
「じゃあしょうがないね。山へ向かおう!」
「何でそうなるのじゃ! ダメじゃ! アカリに我も怒られるのじゃ!」
「大丈夫だよ。山の中へは行かないかし麓で魔物と戦って帰るから」
「それなら……アカリには内緒じゃよ」
「ありがとアイリス」
精一杯頭を撫でて山へ向かうと、この世界に来て始めて魔物とエンカウントする。
見た目は15mくらいの巨体の爬虫類で四足で歩くようだった。ぱっと見はワニに近い姿をしている。
色は茶色で眼が紅く染まってこっちを見ている。
《アースリザード》
近づくに連れ緑色の文字が魔物の上に見える。名前から見てもどうやらワニではなくて羽の無い竜に近い魔物のようだった。
眼が合った瞬間にアースリザードは口を大きく開け威嚇してきた。
真っ赤に染まった口内を見て逃げ出したくなる気持ちに負けないよう拳を握りしめる。
「アイリス、弱点だけ教えて」
「ちょっと待つのじゃ……えーっと……腹が柔らかいようじゃの」
「切断と打撃はどっちのが通る?」
「腹以外は打撃じゃのー」
「わかった行ってくる」
「無理はしないようにの」
アースリザード……長いからワニで……
ワニに近づくと完全に敵意を持った奴と認識されいよいよ紅い目で殺意をこちらに向けてくる。
昨日の追っ手とは全然違う。そもそも昨日はアイリスが耳元でアドバイスをしながら戦っていたのだから余裕があった。
だけど今回は違う。見たことも無い生き物で向こうの世界で会ったら祈ることしかできなかっただろう……そんな相手と戦う。
いざ命の取り合いで対峙すると緊張で呼吸が荒くなる。
血液が送られ心臓の動きで内側から胸骨を砕くのではないかと思う程音が鳴る。
やはり硬直状態を破り動いたのは相手からだった。
巨体でスピードタイプでは無いように見えても向こうは本物のハンターであり自然の弱肉強食の中で生き抜いてきた殺戮者だ。
僕を獲物と決めて4本の脚を動かし掃いながらも距離をあっという間に詰めてくる。
一方僕は緊張で初動が遅れ足が思うように動かず足がもたれ三歩程進んだところで転んでしまった。
後ろでアイリスが何かを叫んでいるが今の僕の耳には自分の心臓の音以外は入ってこない。
(死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。ヤバイ。ヤバイ。起きなきゃ。起きなきゃ。ヤバイって! 本当に死ぬっ!)
さっきからポジティブなイメージが何も湧いてこない。立ち上がろうとしても足が地面を掴んでくれない……
必死に後ろに後ずさることしかできずに目の前には口を大きく開けたワニがいる。
その時に目に入ったのは腕に着けているバングルだった。
宝石を力任せに押しウインドウを起動する。風呂を作る時にレベルを10にしたままだった土魔法をタッチして地面に腕を叩きつける。
下から石の槍を突き出すイメージで発動させて目を瞑る。
(頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む頼む)
目を開けた時には全てが終わっていた。
僕の周囲360°には岩でできた鋭利な棘が突き出ていた。
目の前の岩の棘からは血や内臓が滴り僕の足元を赤く染めていく。
自身の無事を確認した時に僕の意識は深い闇に落ちていった。