7話:お風呂って最高だよね?
7話:お風呂って最高だよね?
お風呂の話をしよう。
正直に話せばこんなに疲れたお風呂は初めてだったってことかな?
疲れを取るはずのお風呂で疲れが溜まるって中々だよね。
ちなみにアイリスは爆睡だったので旅館のベッドで絶賛お休み中です。
僕と灯が一緒お風呂に入らなくなったのはよくある思春期になったからだった。毛が生えるに連れ産毛の時は私のほうが、僕のほうが先に大人になった! と多少の自慢で見せ合いもしていたが、濃くなると何故かお互いそれを見せるのが恥ずかしくなり、いつの間にか一緒に入らなくなった。これが小学6年の時だからもう随分前の話だった。
それが今から一緒に入るなんて無理でしょ! 僕だって見たい気持ちもあるけど見られたくない気持ちもある。恋人って契約があれば多少は勇気が持てるけど……付き合っている訳でもない幼馴染の女の子の裸を見て生殺しってのも、性欲が溢れ出てくるお年頃の高校生には厳しすぎるよ。
まあこんなことで葛藤している間にも時間は過ぎて行く訳で、悩んでいる僕の前で灯はとっとと服を全て脱ぎ捨て、土魔法で作った脱衣所の棚の中へ服をたたんで入れた。ご丁寧に下着を服の下に隠し、タオルの代わりになる布を一枚持つとお風呂に入って行こうとした。
「ちょっと待って!」
「えっ? ここで止めるの?」
向かい合って何も隠そうとしない灯に僕の方が恥ずかしくなってしまうが、棚からタオルのような布を1枚取り【創造】でタオルを作る。
【創造】は等価交換が基本で、条件は神が決めるらしい。要するにアイリス次第だった。今回はすんなりと上手くいったようだった。
「はい。こっちの方がいいでしょ?」
「ありがと。でもね、流石に見すぎだよ!」
「ご、ごめんッ!」
「まあ別にアキならいいけどね。先行くから」
そのまま灯は大人に現在進行形で変化している体を隠すことなく風呂場へ入って行った。
もし、このまま灯と付き合えなかったらこの映像は生涯の僕のメインディッシュになる可能席が高いよね。脱衣所に置いてある布を煩悩を振り払うかのように一心不乱に【創造】でタオルに変えていく。全部変え終って、未だに服を脱ぎ切れない僕に風呂場から声がかかる。
「いい加減入ってきなよ~私もお風呂に早く漬かりたいよ~」
「う、うん」
これって、よく灯の家にある少女漫画で見るシチュエーションだけど、男と女逆だよね? 恥ずかしがる女の子を金持ちのイケメンがおいしく頂く前だよ。
僕もおいしく頂かれるのかな? ないか。
腹を括って服を脱ぎ捨て、タオル代わりの布を一枚下腹部に巻きつけ風呂のドアを開ける。
「やっと来たね! 女の子を待たせるってどういうことよ?」
「いやさ、灯はどうしてそんなに堂々としてるんだよ……少しは隠そうとか思わないわけ?」
「ん~アキだし?」
「親しき仲にも礼儀ありってあるよね?」
「でもさ実際見れて嬉しそうだよ? そんなこといいながらアキずっとガン見だし」
「いやだって……」
僕の股間に話しかけないで……
言葉って大事な時に出ないよね。僕は非常にテンパってるのに灯は余裕で……
「いやだって何?」
「綺麗だよ」
何も考えられなくなった僕の口から出たのは感想だった。
「ふぇ?」
「やっぱり一緒にお風呂は無理だよ。頭冷やしてくる」
水魔法で頭から水を被り、そのまま風呂場から退場しようとしたがそれはできなかった。
「あ、灯さんっ? 何をしているのでしょうか?」
「ふぇ? いや? えっと……」
後ろから灯に抱きしめられ、本当にこいつ着やせするんだなって思ったのは随分後で冷静になってからだったけど、内心では『どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。』って感じだった。
水を被って冷たくなった僕の背中に灯の温かい身体を押し付けられ、柔らかいふたつの高校生男子を魅了して止まない物の先端が、冷たさで硬く自己主張をするサムシングに変わっていた。しかし残念なことに僕は緊張して石のようになり感じる余裕なんて無かった。
「アノ、アカリサン?」
「ちょっと待って……」
-5分後-
「アノ、アカリサン?」
「ふぅ~落ち着いた。どう気持ちいい?」
「アノ、アカリサン……」
「緊張しすぎ! 私のこと好きなんでしょ? 何でここまでしてるのにわからないのよ!」
「……あの、灯さん?」
「一度しかいわないからね!
私もアキのことが好きだよ。恋愛感情でね。間違いないよ」
「はい?」
「ちょっと、何よその反応」
「いや、だって……急にどうして?」
「急にじゃないわよ。そもそも私は昔からアキがずっと好きだったよ。朝の会話で冗談の付き合う? とか正直ね、付き合いたかったよ。『いいよ』っていいたかった。けど、アキの本当の気持ちはわからないし関係を壊したく無かったの……。でも、この世界じゃ何が起こるかわからないでしょ? だから私も進みたいの。後悔はしたくないよ。それに、こっちに来てからは急に格好良くなっちゃってさ! ズルいよ……」
全部吐き出した灯は抱きしめる腕に力を入れて僕の背中に耳を付けている。
何? 急にどうした!? 僕の頭はついてこないし、一度落ち着こうと思い深呼吸する。頭がスッキリしてくると感じるのは灯の身体で、マイサンが風呂場にハローエブリワンしてる。だけど今はマイサンに構っている暇はなかった。
「灯。嬉しいよ」
「うん」
「でもね、僕の方が好きだよ」
「それ決着がつかないやつでしょ?」
「一度やってみたかった」
「アキも少女漫画好きだもんね。始めは私の持っているので満足してたくせに、いつの間にか自分で買って、アキんちに置くのは恥ずかしいからってわざわざウチに持って来てさ、おかげで私は買わなくてよくなったけどさ」
「じゃあ別にいいじゃん」
「まあね、少しは落ち着いた?」
「うん。身体冷えちゃった。お風呂入ろうか」
「先に身体洗わなきゃダメ! 今日は森の中走ったし汚れてるから」
「はいはい」
「洗ってあげるからあっち行こうよ」
「そうだね……って一回離れてよ。歩けないじゃん」
「いや、なんか急に恥ずかしくなっちゃった」
「今更過ぎるよ。じゃあ先に湯船に浸かってなよ、僕も身体洗ったら入るし」
「そうする……今度洗ってあげるからね」
急ぎ足でこちらをチラチラ振り向きながら湯船に向かう。振り向くたびに『エッチ!』っていってくるけど、一緒に入ろうっていったの灯ですから!
身体を洗い僕も湯船へ向かう。
ちなみにシャンプーなどは【創造】で作った。対価はどのくらいかわからなかったから大銀貨にしたらとてもいい物になったようだった。匂いもいいし髪の毛が手櫛でつっかえないし。
「あああああああああぁぁああ極楽」
「気持ちいね」
いつの間にか灯が隣にいた。『身体しっかり洗った?』とかいってくるけど、あなたは僕のママンですか? とはいえ昔は確かに身体を洗うのが嫌いで風呂場に入ってすぐに湯船に入ろうとするのを灯に止められて身体を洗ってもらってたことを思い出す。
ウチの母親も『あかりちゃん、あき君の身体しっかり洗ってあげてね』なんていうもんだから、頼られるのが嬉しかった当時の灯はいわれた通りしっかり洗ってくれたっけ。懐かしい思い出です。
「あの、灯さん近くない?」
「嫌なの? 彼女なんだしいいでしょ役得だと思って諦めて」
嫌なわけがない! が、いつの間にか段差に座っている膝の上に乗ってきて頭を僕の肩に預けて極楽モードの灯さん。この位置からだと全部見えるので色々とまずい。特にマイサンが……そんな目線に気づいたのか灯さんは僕の手首を掴んで自分のお腹の前に持ってくる。
「触りたかったら我慢しないでもいいよ?」
そんな素敵な日本語あったんですね!
「触りたいけど……今は先にキスしたい」
「別にいわなくてもしてくれてよかったのに」
灯の顎を軽く触りこちらに顔を向けると灯は目を閉じた。
キスなんてしたこともなかったけど吸い込まれるように灯の唇に自分の唇を重ね目を閉じる。
ここで僕がいえるのは、生きててよかった!!! ってだけだよ。
「そろそろ出ようか」
「うん、ありがとね」
「……エッチ」
まあ何があったのかは想像にお任せします。
最後まではしてないよ。ただデュエルスタンバイ状態だったマイサンを灯は封印されし右腕で解除したってだけだよ。
あんなに出……げふんげふん
風呂も終え、着ていた物を水魔法に洗剤を入れ洗濯し、火魔法で火玉を近くに作って屋根の上に干してきた。
宿の部屋に転移すると頬を膨らませたアイリスがベッドの上に座りこちらを見ていた。
「ズルいのじゃ……」
「アイリス遅くなってゴメンな」
「アイちゃんゴメンね起こしたんだけど……」
「ふんっ、我はどうせいらない子なのじゃ。ずっとひとりなのじゃ」
アイリスは布団を被り『グズッ』と鼻を啜る。
「ほらアイリス起きたなら風呂行くぞ」
「そうよ、一緒にお風呂に入りましょう」
「いいんじゃ。ずっとひとりだったのじゃ。慣れているのじゃ」
完全に子供である。友達ができたと思ったのに起きたら誰もいなくて、またひとりになった気がしていつの間にか泣いていた。そんなアイリスを布団ごと僕は持ち上げて灯にアイコンタクトを取り【転移】で本日2度目の風呂へ行く。まさかこんなに早くまた灯の裸を見ることになるとは……
「ほらアイリス風呂入るぞ」
「いいのじゃ! ひとりでいいのじゃ!」
「アイちゃん。お風呂気持ちいから入りましょう」
グズるアイリスを2人がかりで脱がし、僕が抱っこして風呂場へ入ると
「自分で歩けるのじゃ」
「アキは先に湯船に入ってて。私はアイちゃん洗ってからにするよ」
「わかった」
「じゃあアイちゃん身体洗おうね」
「わかったのじゃ……」
身体を洗い終えた時にはアイリスも機嫌が良くなったようでふたりで手を繋いで湯船に入ってくる。
「あああぁぁあああ極楽なのじゃ~」
灯の膝の上に座り、さっきの僕と同じことをいう。
「ふふっ。アキと同じこといってるよ」
「げっ! そんなの嫌じゃ~」
「なんかアイちゃんとアキって親子みたいね」
「何歳の時の子だよ! むしろ僕等よりアイリスのが年上でしょ?」
「我は5歳なのじゃ! 生まれたばかりの女神なのじゃ!」
「「えっ!?」」
「女神は10000年経つと生まれ変わるのがこの世界の仕組みなのじゃ」
「その時の記憶ってどうなってるいるの?」
「まあ引き継ぐのじゃ」
「それじゃあなんちゃって5歳じゃん」
「ふんっ! いいのじゃ。この身体になってまだ5歳なのじゃ」
その後は僕がアイリスの身体を拭き着替えさせて宿に戻った。
尚、アイリスの着替えはどこから出したのかパジャマだった。
いっぱい昼寝をしたアイリスは眠れるはずもなく、爆睡するふたりに挟まれて構ってもらえずイライラしていたが、灯に抱き枕代わりに抱きしめられるといつの間にか眠りに落ちていった。