3話:やっぱりこうなった
3話:やっぱりこうなった
さあ、僕の異世界ライフよカモン!
いざ行かん!
「アキっ!!」
目を開けると、いきなり灯が飛び込んできた。
まあ、僕だけ掴みそこなった女神様のおかげで転送されなかった訳だし、心配してくれたのかな?
でも、今ならドサクサに紛れて色々できるんじゃね?
とりあえず、左手は背中に回して、右手で頭を撫でてみる。
ちらっと顔をずらしてこちらを窺おうとしている。どうやら恥ずかしさはあるようだが、抱きついしまった以上もう少し僕の好きに出来そうだ。
だが、周囲の目線が痛い。嘘です、ちょっと気持ち良い。
いいだろ~なんて思ってもいいよね?
ここはどうやら、異世界物テンプレである召還の間のようだった。
同色の大理石?を正方形に切り、床に敷き詰めてある。
普通と床と違うのは、赤い塗料で大きくいわゆるカルト的なのを崇拝する人たちが好きな魔方陣が描かれていた。
どうやらこれで魔法が発動するようだった。
周囲をキョロキョロしていると胸の中で我に帰ろうとする女の子がいる。
こんな時だし、少しからかってみる。
「灯どうしたの? 僕のこと好きになったの?」
「ち、違うわよ! アキだけいないから心配で……」
ほう、心配ですか。そうですか。抱きつくぐらいの高感度はあるようだ。
僕の胸に埋める灯の旋毛の匂いを嗅いでいるところで邪魔が入った。
「国王様がお待ちです。全員申し訳ないが、一緒に来ていただきたい。」
突然、鎧をガシャガシャ鳴らしながら入ってきた兵士のおかげで、僕のハッピータイムは終わりを告げた。
と、思ったが灯は国王の所まで向かう間、僕の手を握っていた。
女の子の手って小さいってより細いんだね、こんなこと出来るなんて異世界最高!
移動の間の時間で興味もあったし異世界の兵士を見ると、頭から足先まで全身鉄で覆われていた。
ヘルムのフェイス部分を上げているため顔はわかるが、腰に下げている剣に右手に持つ2m程度の槍は、漫画で似たようなものを見たことがあった。
見たことがあるだけで、普段は戦うことを知らない高校生を怯えさせるには充分すぎる武器だった。
恐怖を抱きつつも、いつの間にか高さが10m、幅は5mはありそうな両開きの扉の前に着く。
ここまで案内した兵士が、扉の前にいる同じような格好をした兵士に状況を伝えていくと扉を開け中に全員入れられた。
兵士が、赤いカーペット?を歩き先導して行く。
5段ある階段の上にはおっさんが座っていた。
まあ王様だろう。王冠なんて始めてみたし、座ってるのに杖持ってるし、赤マントって……もうここまで来ると笑えます。
右隣には、女の人もいるようだ。
姫かな?女王かな?姫だったら若干行き遅れてるななんて失礼なことを思ってるうちに、兵士が階段の前で跪いて報告する。
「国王様、勇者様20名、全員無事に到着されました」
「うむ、お前は下がってよい」
「はっ、では勇者様方失礼いたします」
みんなぽかーんである。
勇者って? まあ僕は異世界大好きだからわかりますよ? 魔王でも倒して来いっていわれるんでしょ?
「さて、20名全員そろったようだな。
では、今度こそ始めさせてもらうぞ、私はティノン・コジャナーイ
このコジャナーイ王国の国王である。こちらは娘のマノンだ。」
「初めまして勇者様方、私がコジャナーイ王国の第一王女、マノン・コジゃナーイです」
「まずは、一つずつ説明させていただきたい。マノン頼む」
おっ、兵士の時にはそんなに気にならなかったけど、言語理解ってすげーな。
言葉がちゃんとわかる。それにしても、名前ね、ノを抜いたら大変なことになっちゃうよ。
さておき、王族ね~今は下手に出てるけど、こいつらは敵かな? それとも味方かな?
まずはしっかり見極めようじゃないですか。
「はい、まず始めに謝らせてください。この世界に皆様を召還したのは私です。
私共で、できる限りのサポートはしますし、不自由な生活はさせません。
今はそれしかいえませんが、よろしくお願いいたします。」
「……」
真実を知って誰ひとり言葉を発することは無かった。
そりゃ、今までといきなり違う世界に呼んで喜ぶ奴なんて僕くらいなもんだろう。
真実を聞き青冷める奴等が多い中、姫は本題に無理やり入る。
「では本題に入りますね、この世界は勇者様方が暮らしていた世界とは違います。
この世界はエアレイドと呼ばれています。一番の違いは、おそらく魔法があることです。
見てもらった方が早いでしょう。私の指の先を見ててくださいね。
では、【火球】」
人差し指を上に向けた姫がひと言呟くと、野球ボールサイズの火の玉が指先に浮かんでいた。
周囲からは『うおっ』なんて声がでる。
「見てもらった通り私でも魔法は使えます。この世界の住人でも10人にひとりは魔法が使えると思ってください。
それで、問題なのですが……現在エアレイドには魔王と呼ばれる者が4人、大魔王がひとり、魔神がひとりいます。
その者達を勇者様方に倒していただきたく、女神様にお願いし、召還させていただきました」
「そんなのは、どーでもいいんだけどよ、帰れんの?」
話途中で楠木君が口を出す。この台詞の係は楠木君のようだった。
この台詞いう奴って大体敵役で、下心丸出しのクズだよね。ピッタリだね。
別のパターンで即効殺されるケースもあるけどどっちかな?
できれば後者の方が僕的には楽だけどさ。
さて、姫様はどうするのかな?
「ええ、魔王を倒せば、女神様から変える方法が神託にて伝えられるそうです」
「それで? 帰れんのかって聞いてるんだよ、勝手に呼び出して魔王退治してくださいって都合よすぎだろ」
「今現在、勇者様方を帰す方法はわかっておりません」
「話にならねーよ、まず話してーなら先に帰る方法を持って来い。
ただ働きなんてゴメンだね! リスクがありすぎる」
はいはい、神託ね。もはや、僕は転送の【力】あるし今この場で全員送り返してもいいんだけどさ、そこまでしてやる義理は無いんだよね。
どいうわけで辞めた。灯だけでも送ろうかと思ったけど、今は話を聞ける状態じゃなさそうだったから後で聞いてみようと思う。
さて、中々に鋭い楠木君だが、まだその台詞は早い。
何故なら、まず本当に僕を除いた19人は戦力になりえるのか、という問題があるからだ。
おそらく、楠木君は僕と同じでファンタジー系の小説を読んだことがあるのだろう。
やってやったぜ! って笑みがこぼれている。だけど本当に全員にチート能力が備わっているのか確認してからじゃないと駆け引きが成り立たない。
これで、スキルが調べられる鑑定石みたいので個人を見たときに、チートスキルなかったら殺されてもおかしくないよね。
会話を無理やり切った楠木君の所為で姫が話を切り上げたらまずいな~時間足りるかな?
みんなとは違う心配をする僕は、兵士と移動している最中からある作業を続けていた。
「では、帰る方法は私達が責任を持って調査します。それと報酬を出しましょう。」
「報酬ね、聞こうじゃないか」
「男子の勇者様方には1人ずつ生娘のエルフを用意しましょう。
奴隷ですのでどのように使用しても構いません。
女子の勇者様方には、持ち帰ることが可能な、宝石を使用したアクセサリー類と、王族が使用している最高級のエステなどをいつでも受けられるように手配いたします」
「そのエルフってのは選ばせてもらえるのか?」
「ええ、お好きな娘をお選びください」
「ああ、少し考えさせてくれ。
おいお前らどうする?」
正直僕も心が揺れました。
生娘のエルフの奴隷で選べるってこれはズルいでしょう。
姫じゃなくて中身はおっさんかな? 高校生を釣るには良い餌を使いすぎだろ。
結果はわかるよね……
男性の皆様は簡単に報酬に釣られましたね。女子陣の目が痛いことこの上ないけど、高校生の性欲はどうやら障壁にもなるようだった。
まあどういいけど、僕もそろそろ作業が終わりそうだし。
灯は相変わらず不安そうで顔を曇らせながら、僕の手をギュって握ってる。
周囲は、男共はエルフで童貞捨てられるとか悪くないと終始興奮しっぱなしだ。
女共は、エステなんて受ける年齢でもないだろう、そんなに興味がなさそうだったが、持ち帰れる宝石に少し心が動かされそうだった。
試しに、灯に
「エステと宝石で命かけれる?」
「無理!」
即答でした。ですよね~
結果、楠木を筆頭に男達は、僕を除き団結していた。
「俺等、男はその条件で受けるぜ!」
「私達、女は無理です」
「そうですか、ではこの後、男性にはエルフを選んでもらいましょう。
女性には何か別のものを考えさせていただきますね」
おいおい、勝手に話を進められても困りますよ?
作業も全部終わった僕は姫に意見する。
「ちょっと待ってくれ、僕と灯は報酬はいらない。
だから、協力もしない。好きにやってくれ。
もし、少しでも申し訳ない気持ちがあるのなら金は欲しいが、それも強制はしない。
僕達は自分で帰る方法を探させてもらう」
「そうですか、ではせめてものお詫びに、いくらか用意しましょう。
用意する間は少々お待ちいただけますか?」
「それは構わない。わがままを聞いてもらい感謝する」
あー緊張した。みんなこっち見るんだもん。いない者として扱ってくれよ。
灯もいるし無理か。
数名の女子は僕の後ろで震える灯に一緒に残ろうとか声をかけていたが、灯は首を横に振り続けた。
灯さん、僕のこと信用しすぎじゃないっすか?
これを何時いおうかと思っていたのだろう。
僕達が出て聞く前にどうしてもやらなきゃいけないことだしね。
「では皆様、先に自分の能力を知りたくはありませんか?
勇者様方はこの世界に召還される際必ず神界と呼ばれる神々が住む世界を越えるといわれています。
その際に、神様方が会話できるようにした上で、【能力】を授けてくださるそうです。
こちらに鑑定石を用意しましたのでお手を触れて確認なさってください。
文字が読めないと不便でしょうから、ひとり通訳を付けますね」
はいはい、鑑定ね、上手くいってるといいけど……さて、どうかな?
「俺から行くぜ!」
一番手は楠木君のようだった。
「おお、これは凄い! 力がLv20です。
さらに、防御不可能の超能力を持っています」
「おい、これって自分でステータスは確認できないのか?」
「ステータスでしょうか? わかりかねます……基本鑑定石を使用することで能力を確認しておりますので」
「そうか、わかった」
楠木君が終われば、みんな興味があったようで、早く知りたくてしょうがない感じだった。
そして、僕と灯を除き、みんなが鑑定を終えた。
男達は僕等には興味が無く、待ちきれないようで早速エルフを見に行っている。
王と姫をチラ見すると、戦力を確保できたようで嬉しそうだ。
逃げられないし僕達も鑑定をすることになった。
貴重な能力だったら逃げられないんだろうけどね。
相手もどのように引き止めるか考えているのだろう、王と姫も注目している。
「アキ……」
灯が不安そうだったが、「大丈夫だよ」といったら手をかざした。
「ふむ、特別なのは、敏捷Lv20ですね。
能力は、皆様方と同じで言語理解と環境適応で超能力は浮遊です」
「ありがとうございました」
「では、僕で最後ですね。お願いします」
「これは、本当に外へ行くつもりですか?」
「ええ」
「やめておいたほうがいい。どれを見ても、この街の住人と同じレベルだ。
一応、皆様と同じ能力のほかに、超能力で鑑定がありますが……
これでは、街道で魔物に襲われたときに死にますよ?」
「ご心配ありがとうございます。
ですが、ここにいると、人に殺される危険もあるので」
王も姫もたいした能力じゃなかったため安心したようだ。兵士にアイコンタクトを飛ばす。
「……そうですか。ではこちらを」
金が入った小袋を渡される。
「ありがとうございます。
では、失礼しますね。灯行くぞ」
「うん。信じるよ?」
「ああ、大丈夫だ」
そうして僕達は城から脱出した。
「ねえ、アキ……」
「落ち着いて聞いて、ずっとつけられてる。
とりあえず武器と服と地図だけでも買うよ」
「うん」
不安でギュッと腕を絡ませてくる。胸が当たっているが恐怖でそれ所ではないのだろう。
だが、ただでさえ目立つ格好をしている僕等は、すれ違う街の人の興味を独占していた。
最初は服を買いに行こうと探し回った。
しかし、どこにも服屋は存在しなかった。どうやらこの街では、武器と防具屋と服屋がひとつになっているようだった。
「いらっしゃい」
「これで、剣2本と短い剣2本、服2着ずつ、靴2つにカバンも2つ、あと下着を男女で4セットずつ、それと、タオル……体を拭ける布を6枚程用意して欲しい」
そういってテーブルの上に金貨を1枚置く。
この世界では、
1円=鉄貨
10円=銅貨
100円=大銅貨
1000円=銀貨
10000円=大銀貨
100000円=金貨
1000000円=大金貨
10000000円=白金貨
となっている。
10万円出したのだから充分だろう。店主も嬉しそうに笑みを浮かべている。
「これでいかがでしょう?」
「試着してもいいか?」
「ええ、あちらでどうぞ」
試着室をすすめられ、別々に入る。
特に複雑な作りでもなく普通に着替えられた。サイズも紐で絞って調整できるようで、動きにくいということもなかった。
僕は、オリーブ色のシャツにベストを羽織り、下は皮で作られたズボンだった。
しばらくすると灯も出てくる。完全に街娘です。
白のだぼっとしたシャツの上に、黒い肩にかけれるコルセットのようなもので締めているため胸が強調される。
もう少し欲しいけど、まだ16歳夢は諦めるには早いよね!
下は白とベージュの2枚の布を組み合わせたロングスカートだった。
靴は、アキ達が通う学校は制服ではなく、私服登校の高校だったのでスニーカーだったが、とりあえず皮のブーツを履いている。
ズボンにベルトを通すと剣と短剣を装着した。
普段から武器なんて持つ習慣が無い僕等にとって、それは大きく気持ちに変化をもたらす。
「結構重たいな」
「そうだね、早く慣れないといけないね」
灯はどこまで理解しているのだろう。腰に挿した剣は生き物を殺すための物で、僕は気持ちを固めるために付けた。
早く慣れるのは何に慣れるのか。そんなことを僕は考えていた。
残りの荷物と着替えた服をそれぞれのカバンに詰め込んで店を出る。
お釣りはチップとして渡したら、店にあった地図をくれた。
地図は必要なくなったが、雑貨屋を確認すると、ありましたよ回復薬。
白かったり、青かったり、絶対に元いた世界では飲まないであろう色をしています。
とりあえず、一番安い緑色の回復薬を銀貨1枚で10本買った。
小瓶に入っているため、非常にかさばる。
早急に対応が必要だった。
準備も整い地図を見ながら一番近い村へ向かうことにした。
「灯、気持ちの準備はいい?」
「絶対にひとりにしないでね」
「お前は僕の彼女か」
「私はアキのこと好きだし付き合っちゃう?」
「灯のことは恋愛感情で好きだからいいよ」
「えっ!?」
「ほら行くぞ」
「いやっ、ちょ、待って!」
2人は手を取り合って街から外へ旅立った。