12話:いざ迷宮へ
12話:いざ迷宮へ
ダイ村を出て南下する。
道は無くあるのは見渡す限りの草原で本当に迷宮がこんな場所にあるのか? という疑問を抱きながら僕達は足を進める。
2時間ほど同じような場所を歩き続けたとき、景色は一変する。
大地の終わりに立つ僕の目の前には青一面の世界が広がる。
大きく深呼吸をし空気を味わうと、この世界の海にも塩が含まれているのか磯の香りが漂う。僕達はしばらく腰を下ろし景色を楽しんでいたが、そもそもの目的を思い出し迷宮を探そうと提案する。
「アリス迷宮はどの辺りか分かる?」
「うむ、もちろんじゃ! 丁度この下じゃな」
僕達が今いる場所は海を目の前にした【凸】の地形の先端であり、迷宮の入り口など見当たらない。崖の下に入り口があったら面倒だな……と思いつつも覗き込む僕を見てアリスが止める。
「違うのじゃ。本当にこの下なのじゃ」
「よく分からないんだけど? 下っていわれても草の生えたただの地面だよね?」
「しょうがないのじゃ。少し下がっているのじゃ」
アリスはそういい地面に手を置き魔力を込めているようだった。
2分ほど経ち『ふぅ~』と手で額の汗を拭うとアリスも僕達がいる方へ避難した。
「封印されておったからの、無理やり解除したのじゃ」
そこには元々あった草の生えた地面では無く、いつの間にか地下へと続く洞窟の入り口が顔を出していた。
中に入るといきなり不自然な物がある。どう見ても遊園地などで見られる無人の券売機である。しかもそこには、
入場料金:大人銀貨1枚
入場料金:子供銅貨5枚 (※7歳未満無料)
と日本語で書かれていた。これ絶対に冒険者読めなくて素通りしてたやつだよね……
とりあえず硬貨の投入口に銀貨を1枚投入し大人のボタンを押す。
ガシャゴン! という音と共に1冊の本が落ちてくる。
表紙には【崖っぷち迷宮ガイド】と書かれており、赤いインクで【客】というスタンプが押されていた。どうやら入場券代わりのパンフレットのような物みたいだった。
中を開けると【迷宮の歩き方~マップを見ながらサクサク攻略~】と書かれており1階から10階までのマップが載っていた。ご丁寧に宝箱の場所や出る魔物についても書かれていて、言わばゲームの発売日当日に同時発売される中途半端な攻略本みたいだった。
折角だし人数分の入場料を払った。あれアリスとアイリって5歳だっけ?
まあいいか……
まずは宝箱の場所へ最短ルーとで行くとそこには木箱が置いてあった。
見た目は正方形で宝箱っていうよりは葛篭だったけど紐を解き蓋を開けるとそこには、【回復薬】がギッシリと入っていた。
鑑定を行い問題なく使用可能なのを確認しカバンの異空間に収納していく。
全部入れ終え、そのまま魔物と戦うため移動しようとするが
「待って! さすがに箱開けて中身だけ貰ってそのままってのはどうなの? せめて片付けてから行こうよ」
「あんまり考えたことなかったけど確かにそのままってのも嫌かも……虫とか入りそうだしね」
そうして灯が葛篭の蓋を閉めたときに『シュカタン!』って音がする。恐る恐るもう一度葛篭の蓋を開けてみると、そこにはギッシリ詰まった回復薬があった。
「なあこれ売って生活すれば一生遊んで暮らせるんじゃない?」
「間違いないわね……」
持てるだけ貰っていくことにしたはいいものの、いかんせん異空間だし幾らでも入ってしまう。100回程繰り返した時に流石にもういいかってことで『次で最後ね』と決め蓋を閉める。すかさず『カタカタ……ガシャコン!』と音が鳴るが今までとは違う音だった。
多少音が違ったところで問題ないと判断し蓋を開けるとそこには【回復の腕輪】が4つと手紙が入っていた。
『これ以上合成するのはかったるいので自分で回復してください。魔力を込めれば使えます』
この迷宮サービス良すぎでしょ……まあありがたく僕と灯は装備する。
アリスとアイリはそもそも傷を受けないので【回復の腕輪】は鞄にしまっておいた。
迷宮を進み地下2階へ降りる階段へ辿り着く直前にそいつはいた。
《ハイドラ》
名前:ハイドラ
年齢:1640
Total Lv:590
ステータス
体力:Lv 125
魔力:Lv 15
攻撃:Lv 200
防御:Lv 150
敏捷:Lv 100
超能力:再生
能力:状態異常無効
魔法:水
称号:限界を超えし者
9本の首を持ち2階へ続く階段から胴体を出している魔物の鑑定を終えるともう諦めムード全快だった。だってパッと見で全長30m以上あるよこいつ
「もうさ、こいつに王都滅ぼしてもらわない?」
「これってアキ倒せるの?」
「無理じゃね? 完全にこいつ迷宮のボスでしょ」
「うむ、間違いなくボスじゃな」
「アリスとりあえず弱点を調べて」
「わかったのじゃ……こいつは弱点は特に無いのじゃ。頭を切っても新しいの生えてくるからダメじゃな。
胸に埋まってる魔石を引き抜けば勝機はあるかもなのじゃ。まあ【略奪】すればすぐ終わるのじゃ」
「魔石抜くのは無理じゃね? 【略奪】ねぇ」
「アキどうする?」
そんな相談をしている間に痺れを切らした九頭竜は襲い掛かってきた。
今回はずいぶんと余裕があった。
前回は初めての戦いだったのに比べ今回は【略奪】使えばどうにでもなることを知っている。そもそも無理なら【転送】でどこかへ送ってしまえばいいのだから危機感も無かった。
「まあ非常時だし悪く思わないでくれよ!」
僕は【略奪】を使いステータスと能力、魔法を全て奪うと、ナイフを持って常人ではありえないスピードで九頭竜の胸元へ駆ける。
そして、右手でナイフを横一閃に振るい傷口へ左手を突き刺した。九頭竜の体内をまさぐり目的の物を見つける。
しっかりと掴みバスケットボール大の魔石を引っこ抜きアリスに投げる。
再度左手を傷口に突き刺し心臓を握りつぶすと、再生の能力まで奪われた九頭竜はそのまま地に倒れた。
前と同様素材の剥ぎ取りをしなければならないのだが、そんな気にもならず鞄へ放り込んでおく。
「なんか強くなってる気がしないよね……」
「ゲームを改造して遊ぶとすぐに飽きるっていうしね」
「ですよね」
「ねえアリスこの迷宮を調べて欲しいんだけど、まだ【ハイドラ】クラスの魔物っている?」
「うむ~もういないようじゃな。まあ迷宮だから迷宮の一番奥にある魔力結晶、要するにコアを破壊しない限りいつかは復活するじゃろうがの」
「わかった。とりあえずアリス僕のステータス預かってくれない?」
「「「はあっ!?」」」