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勘違い少女の幸福

作者: 望遠鏡

人によっては主人公の性格に苛々してしまうと思います。すみません

新しくできた友達のかよちゃんとみなみちゃんは優しい。

二人ともメイクがバッチリで、元気。ついこの前まで、といっても半年は経ってるんだけど、私をいじめていた女の子達とタイプが似てるのかなって思ってたけど、中身は全然そうじゃないみたい。

みなみちゃんはいつでも元気で場を明るくさせてくれるタイプで、かよちゃんはどっちかっていうとさりげない気遣いをしてくれたりする優しい感じで、二人はとってもバランスがいいと思う。中学校からの付き合いらしくて、息もぴったりだ。

私も仲間に入りたいなぁと思うけれど、流石に高校から知り合った、付き合いのまだまだ浅い私とは難しい所なんだと思う。寧ろ、私をグループにいれてくれて感謝するべきだよね。でも、流石にそろそろ名前呼びしてほしいなぁ、とは思う。やっぱり千川原さん、は距離がある感じがするよね。


私は、およそ一年前に千川原輝美(ちがはら てるみ)になった。いじめの一貫で、たくさん殴られた後水をホースでいっぱいかけられたらころっと死んでしまった。時期が冬だったのもいけなかったんだろう。未練はあまりない。親は所謂ネグレクトってやつだったし、友達も親しい人もいなかった。

一方、千川原輝美も同じ時刻に運悪く通り魔に刺されて一度死んだらしい。目が覚めたら病院で、医者には何度も奇跡です、と言われた。確かに心臓が止まった十分後に生き返ったら奇跡的だ。ただ、私は本当の千川原輝美ではないから何も分からない。だが、通り魔に刺されて倒れ込んだときに、ちょうどよく頭に大きめの石を打ち付けたのもあって、病院では記憶に乱れが生じていると判断された。両親は泣いて、生きているだけで充分だと言って私を抱き締めた。抱き締められたのはこれが初めてで、その温かさに私は確かに幸福を感じた。

丁度、それは高校になる直前の春休みのことだ。高校に入って私は三人も友達ができた。前では考えられないことだ。千川原輝美が本来得るべき幸福を奪っているようで申し訳ないけれど、私は幸せだった。



そんな新しい友達のかよちゃんとみなみちゃんは同じクラスの三谷真人(みつや まひと)くんが好きだ。格好良いとよく言っている。確かに三谷くんは格好良い顔立ちをしているし、スポーツもできる。頭も結構良いらしい。三谷くんは大抵一人だ。でも不思議と友達がいない人というより、他とはどこか違う特別な人、といった感じだ。言葉にするなら孤高、だろうか。

三谷くんを好きなのは何もかよちゃんやみなみちゃんだけではない。三谷くんはとてもモテている。私としては二人を応援したいけれど、付き合えるのは一人だけだし、一体どっちを応援したらいいのか困ってしまう。ただ、もしも二人がこの事で仲が悪くなってしまったら嫌だなぁ、と思う。私は二人が仲良くお喋りをしているのにたまに相槌を打ちながら聞くのが好きだ。その関係が壊れてしまうのはとても悲しい。

でも二人とも、関係が悪化するのは避けたいみたいで、同じクラスとかの関係で三谷くんと関わりができるとその役目を私に譲る。片方が三谷くんと関わると抜け駆けみたいに感じてしまうからだと思う。例えばかよちゃんは教科係りといい、所謂雑用みたいなことをしている。宿題のプリントが出た時の回収とかもそうで、三谷くんはたまにプリントを出し忘れることがある。そういう時は此方から声掛けしてプリントを受けとるのだけれど、かよちゃんはその役目を私に譲ったりするのだ。それに、私は偶々三谷くんと委員会も一緒で、意外に三谷くんと関わる機会が多い。何だか二人にとても申し訳無い気分だ。

でも断ろうとすると、「それは千川原さんの仕事ですから!」と二人とも慌てる。そういえば二人は私に敬語も使っている。

何だか距離が遠いような気がするなぁ。それとも、これが普通のことなのかな?経験が全然ないから私には判別ができないところだ。


そんな三谷くんと私は案外関わる機会は多いけれど、親しい仲とは到底言えない。話すことと言えば精々が事務的な会話で、委員会で必要なこととか、プリントを受けとるときの「プリント出せるかしら?」「ああ」といったような会話くらいだ。

千川原輝美は一応お金持ちのお嬢様だから、上品な口調で話すよう心がけている。上手くいってるのかは、正直自信がない。少し硬い口調かもしれない。だから一応口数も減らしたりしている。元々喋る機会に恵まれていなかったから、何を話していいのかもよく分からない。

それに比べてかよちゃんとみなみちゃんは話題がとても豊富だ。話が尽きるのを見たことがない。昨日見たテレビや芸能関係、学校の噂話にも精通していて、二人の話題はバラエティに富んでいる。私は聞いていることばかりだけれど、二人の話は新しいことを知るようでとても楽しい。何より二人が笑顔なのが嬉しい。

けれど、最近二人は頻繁にある一人の女の子について話すようになった。聞くところによると、その子は夢原さんと言って、三谷くんとよく話しているらしい。つまり二人にとって恋敵ってやつなんだと思う。でも夢原さんは三谷くんだけでなく、他の人にも思わせ振りな態度を取っているらしい。確かに自分の好きな人が軽く扱われていると嫌だよね。二人が悲しそうな顔をしていると私としても何とか力になってあげたいと思うけれど、こればっかりは私が口を出すことでもないのでどうしようもない。



隣のクラスの、頭がとても良い、もう一人の友達である真城静乃(さなぎ しずの)ちゃんに何か良い知恵を貰おうとも思ったんだけど、返ってきたのは素っ気ない返答だった。


「そういうのは二人の問題でしょ?輝美が関わることも無いわよ」


静乃ちゃんは高校に入って直ぐにできた、いわば初めての友達というやつだ。静乃ちゃんは年上のお姉さんみたいな、人に世話を焼いてしまうタイプだ。それに、歯に衣着せない物言いが、さっぱりとした印象を与える。でも顔立ちは少し釣り目だが可愛らしく、どことなく猫を連想させて、性格とちょっとしたギャップみたいなものを感じさせる。とても良い人だと思う。


「というより、相変わらず輝美は鈍いのね」

「それってどういうことかしら」

「まあ分からなければいいのよ。そういえば夢原っていえば妙に私に絡んでくるのよ」

「まあ」

「それが本当にうっとおしくてね。参っちゃうわ。友達になりたいっていうけど絶対嘘よ、あれ。私のこと内心見下しているの見え見え」

「それは大変そうね」

「でしょう?そういえば輝美は夢原さんと会ったことなかったかしら?」

「ええ。話はお二人から聞くのですけれど」

「そう。でも、気を付けてね。噂では輝美に悪感情を抱いているみたいだから」

「まあ、でも心当たりが無いわ…。私、何かしたかしら?」

「どちらかというと、輝美の噂のせいだと思うわ」

「噂?」

「まさか知らないの?あんなに有名なのに?」


会話を続けていると聞き捨てならない言葉が静乃ちゃんから出てきた。噂?私、高校に入ってから大人しく誰にも迷惑かけないよう過ごしていたのに、何か間違ってしまったのだろうか。急に不安になる。この幸せを知ってしまった今、私はこれを手放せそうにない。無くなってしまったら、知らなかった昔よりも遥かに辛く感じるだろう。すっと背筋が冷えた。


「輝美。大丈夫?」

「あ…、ええ」

「そうは見えないけれど。本当に?噂は、まあ残念なことにあまり良いものではないけれど、そんなに気にすることでもないわ。輝美はそのままでいれば、きっと誤解も解けるわ」

「そういうものなのかしら…」

「ええ。少なくとも私は輝美がそうでないことを知っているわ」


噂の内容はよく分からないけれど、静乃ちゃんが私を慰めてくれているのは分かった。静乃ちゃんは、優しいなぁ。

私が微笑むと静乃ちゃんは苦笑した。




かよちゃんとみなみちゃんの夢原さんへの不満は日に日に激化している。

最近の夢原さんは三谷くんが嫌がっているのにまとわりついているらしい。私はその場を見たことは一度も無いけれど、それが本当なら結構な問題だ。


「夢原ほんと酷いんですよ!」

「ねー!ほんと三谷様のことも考えろってかんじ」

「千川原さんどう思います?」

「ええ、そうね」

「やっぱり調子に乗りすぎですよね」


と二人して溜め息を吐く。とても頭にきているみたい。確かにいくら好きでも相手が嫌がっていることをするのは駄目だよね。


「千川原さん!やっぱりもう我慢の限界ですよ!夢原に直接言いに行きましょう!」

「それがいいですよ!自分の立場を分からせてやりましょう!」


ああ、大変だ。ついに実力行使に出るなんて。二人とも余程腹に据えかねていたのだろう。でも、今の口ぶりからして私も行くのかな?うーん、私も仲間外れにしないようにっていう配慮なんだろうか?二人とも優しいなぁ。

と、もたもたしていたら、みなみちゃんは意気揚々として「放課後に裏庭に呼び出してきますね!」と言って行ってしまった。みなみちゃん行動が早い。かよちゃんは私の隣で「楽しみですねぇ」と少し悪どい顔。何だか引けない雰囲気になっちゃったみたい。どうしよう?

そうしている内にみなみちゃんは戻ってきてしまった。とても早い。「ちゃんと伝えておきました」と物凄く良い笑顔だ。それにしても放課後の裏庭に呼び出すなんていじめみたいだ。私も昔はよく呼び出されていた。殴られたり蹴られたりは当たり前で、たまに根性焼きとか言われて煙草の火を押し付けられたり、ピアスと称してホチキスで耳朶をパチンととめられたこともあった。夢原さんのことはよく知らないけれど、そういうことはしたくないなぁ。


「これはいじめかしら?」

「そんなことないですよ!ただの話し合いです」


私が不安を口にするとかよちゃんが安心させるように笑った。かよちゃん、優しい。話し合い、なら大丈夫かな?でも放課後の裏庭で三対一みたいなのってどうなんだろう?今まで普通では無かったから、普通のことかどうかよく分からない。私はとても無知なのに、その度に二人ともこうやって嫌がらずに答えてくれるから、私はつい優しさに甘えてしまう。友達って、いいなぁ。




授業が始まるとかよちゃんとみなみちゃんはそれぞれ自分達の席へと戻っていった。二人との席は廊下側の前から二番目と三番目なんだけれど、私だけ窓際の一番後ろだ。席替えは完全にランダムのくじ引き制なのに、二人だけ前後の席なので、授業中には二人の後ろ姿がちらっと見えたりして、少し、寂しい。でも知り合いが近くの席に全然いないわけではなくて、私の隣の席には三谷くんがいる。だけど私達はお喋りをするほど仲の良い関係ではないから、話は全然しないし、向こうも話しかけない。筈だったんだけど、今日は違った。


「おい」

「何でしょう?」

「夢原のこと、呼び出したって、本当か?」


そう睨むように言う三谷くん。三谷くんは私と話す時いつも鋭い眼孔を私に向ける。とても怖い。きっと三谷くんは私のことを嫌っているんだと思う。それなのに委員会も一緒だし、席も隣、そういえば前の席でも偶然隣の席で、申し訳ないと思う。嫌いな人とこんなに一緒なのってやっぱり嫌だよね。どうにか改善したいと思うけれど、本人に聞くのは私の経験上駄目だと思う。

前のお父さんもお母さんも学校の人達も私を嫌っていたけれど、どこが嫌なのか聞くと嫌な顔をする。ニヤニヤと笑って教えてくれない時もあるし、全部という答えが返ってきたこともある。要するにまともな返事が返ってきた試しがないのだ。それに、この質問をすると相手は気分を害することが多い。だから、しない。三谷くんにこれ以上嫌がられるのは嫌だ。三谷くんは私のことが嫌いだけど、私を傷付けたことはない。三谷くんは優しい人だ。私はそんな人をこれ以上嫌な気持ちにはさせたくないのだ。


「ええ」

「そういうの、やめろよ」


肯定すると三谷くんは眉に皺を寄せて、不快そうに言った。ああ、結局嫌な思いをさせてしまった。三谷くんは元々他人から干渉されるのを酷く嫌がる。一度、三谷くんが女の子に言い寄られているのを見たことがある。その時に三谷くんは冷たい声で「鬱陶しいから二度と話しかけるな」と言っているのを聞いてしまった。とても嫌だったんだと思う。私はきっとそれと同じことをしてしまったのだ。かよちゃんとみなみちゃんはきっと知らなかったんだと思う。だけど私は三谷くんがそういうことが嫌なのを知っていたのに、こんなことをしてしまった。最低、だ。


「申し訳、ありません」


そう口にするのがやっとだった。三谷くんからの返事は無かった。




私はお昼休みにみなみちゃんとかよちゃんにそのことを伝えた。二人は凄く困った顔をして私に謝った。私に謝るなんて、むしろ謝らなくてはいけないのは私なのに。巻き込んでしまったことを申し訳なく思っているんだと思う。結果的にしてしまったことは間違っていたけれど、それでも仲間にいれてくれたことは嬉しかった。そういう思いを込めて笑顔を作ると二人はおずおずと私の側に近付いた。このことで変なわだかまりができなくて、良かった。

そう、ホッとしていると教室のドアが開き、「輝美」と誰かが名前を呼んだ。振り返ってみると、そこに立っていたのは静乃ちゃん。静乃ちゃんは急いでこっちに来て「大丈夫なの?」と聞いた。


「大丈夫、とは?」

「夢原を呼び出したって話しよ!」


口調こそ荒いが、出てきたのは心配の言葉で、私はつい嬉しくなった。


「ええ、心配ないわ」

「そういう時って、限りなく心配だわ。輝美は鈍いから」


と、静乃ちゃんは溜め息を一つ。私の言うことってそんなに信用ないのかな?とても残念だ。そう思っていると隣にいたかよちゃんとみなみちゃんが「何しに来たのよ」と棘のある言い方で言った。実は静乃ちゃんとこの二人はあまり仲が良くない。私から見たら三人ともそれぞれ良い人だけれど、やっぱり相性の合う合わないはあるんだと思う。できればみんな仲良しでいて欲しいけれど、難しいのだろう。


「私は夢原を放課後呼び出したっていう噂で持ちきりだから輝美が心配になっただけよ」

「とか言って本当は偵察にでも来たんじゃないの?ほら、真城さんと夢原って仲良いらしいしねー」

「千川原さんが優しいのをいいことに近付くなんてサイテー」

「私と夢原が仲良いわけないじゃない。アイツが勝手に近付いてるだけ」

「どーだか」


ああ、言い争いが始まってしまった。こればかりはいつも心臓に悪い。しかもどちらも根底が私を心配してくれていることが分かるだけにどうしたら良いのか分からない。どうしようかと私が思案していると、「静乃!」と静乃ちゃんを呼びかける声がした。透き通ったソプラノの可愛らしい声。不思議と耳に心地好い。振り返ると、肩まである、ふんわりとした内巻き気味のピンクベージュの髪と大きくて吸い込まれそうな榛色の目を持つ少女が教室のドアの前で立っていた。


「うわ、最悪……」


静乃ちゃんがそう呟く。その女の子は小走りで静乃ちゃんまでに駆け寄り、「大丈夫?」と聞いた。


「なんなの、ほんと鬱陶しいから関わらないでって言ってるでしょ。名前で呼ぶのもやめて」

「で、でもっ!私静乃が心配で……!」


そう言ってうるうるとした瞳を私に向ける。その様子は小動物のようでとても可愛い。でも、何だかあまり私に対して良い感情では無いみたい。どうして?


「あのっ!千川原さんが私を気に入らないのは分かってます!だったら直接私に言って下さい!静乃に言うなんて卑怯です!」


今にも泣きそうな顔で、しかしきっぱりと少女は言った。何の話だろう?かよちゃんとみなみちゃんは嫌悪感を露にして私の前に立った。どうやら庇われているような静乃ちゃんもその子に向き合うような形になる。


「だから、何度も言ってるけど私と輝美は友達なの。貴女とは何も関係ない」

「静乃……静乃はいつも優しいよね。分かってるよ、私のこと庇ってくれてるんだよね。ありがとう。でも、私大丈夫だよ」

「あーもう、ほんと話し通じない!輝美、この女と関わらない方がいいわよ」


苛々したように静乃ちゃんは私の手を取って教室を出るよう促すけれど、寸でのところで静乃ちゃんはその少女にもう片方の手を取られた。


「静乃、どこ行くの?どうしてそんなこと言うの?」


困惑した顔で言う彼女は庇護欲をそそる。とてもこのままにはしておけない雰囲気だ。私は思わず静乃ちゃんの方に顔を向けると、静乃ちゃんはとても嫌そうな顔を向けた。静乃ちゃん、かなり怒ってる。かよちゃんとみなみちゃんは若干疲れたように成り行きを見守っていた。


「貴女がいないところ。もう、本当にかかわらないで」

「どうして?静乃はそんなこという人じゃないのに……」

「貴女が、私の何を知っていると言うの?」

「静乃は、静乃は本当はとても優しくて頼りになる存在でしょ?」

「何その決めつけ。意味わからない。夢原さん。もう、やめて。これ以上関わらないで」

「な、何それ……そんなの、おかしいよ……。だって、シナリオにないもん…………あと、真人だけなのに……」


少女、もとい夢原さんはそう呟くと泣き出してしまった。シナリオ?それにあと三谷くんだけってどういう意味なんだろう?私にはよくわからなかったけど、その言葉を聞いてかよちゃんとみなみちゃんが怒ったのはわかった。


「あと三谷様だけって何それ!生徒会長や双見先生や五島様まで侍らせておいてまだ足りないわけ!?」

「それに馴れ馴れしく名前で呼ばないでよ!三谷様だって迷惑してるんだから!」


二人は先程より数段怒った声で夢原さんに詰め寄る。夢原さんは泣きながら「名前しか出て来なかったモブのくせに……」と言っている。静乃ちゃんは軽蔑した目で夢原さんを見ている。よくわからないけど、どんどん事態が進んでいってしまって、でもどうにも出来ない。「ど、どうしたら……」と静乃ちゃんの方を見ると、「自業自得じゃない」と静乃ちゃんは冷たく言い放った。


「そもそも、三谷がちゃんと後始末していれば輝美の方まで来ることは無かったのよ」


苛立たしそうに静乃ちゃんが言った。


「それって、どういう……」


意味?と聞こうとした時、「何してるんだ」と言う声が聞こえた。


「ま、真人……!」


夢原さんが、声の主である三谷くんの方へと駆け寄る。だが、三谷くんは駆け寄ってきてすがろうとした夢原さんの手を振り払った。温度のない、底冷えするような目付きに私は思わず息を飲んだ。三谷くんはそのまま夢原さんを無視し、私の方へと向かってくる。


「やめろって、言ったよな」

「あ……」

「それなのに、この騒ぎは何?」

「いや、これは……その……」

「言い訳も出ないわけ?」


氷のような、冷たくて鋭い瞳が私をい抜くようにこちらを見ている。ああ、私また三谷くんを失望させてしまった。みるみると目元がじわりと滲んで、涙が一粒溢れた。あれ、私、いじめられていた時だって泣いたこと無かったのに。


「ちょっと三谷!輝美のこと泣かさないで!そもそもこれは輝美のせいじゃないわよ」

「真城さんったら三谷様のこと呼び捨てにするなんて!いえ、確かに千川原さんは悪くないっていうのは本当ですけど……」

「そ、そこにいる夢原さんのせいなんです!三谷様信じて下さい!」


三人がそう庇うと、三谷くんは一瞬黙ってから、突然私の手を引いて教室から連れ出した。なんで?夢原さんも同じ気持ちなのか、擦れ違ったときに、驚いて目を真ん丸にした夢原さんの顔と目が合った。


三谷くんは私を人気のないところまで連れ出すと、私に向き合った。その顔はとても不機嫌そうだ。


「かかわるなって言っただろ」

「ええ」

「ファンクラブの会長やったりして俺のこと守ってくれてるのも嬉しかったけど、もうやめろ」

「?」

「これからは……」

「??」

「これからは、俺が守るから」

「???」

「夢原がお前狙って不穏な動きしてるの知ってたから探ってたんだ。浮気してたってわけじゃなかったけど、でも何も言わなかったから勘違いしたんだよな?ごめんな」

「????」

「俺…………あ、いや。やっぱ何でもねぇよ」


そう言って照れたようにそっぽを向く三谷くん。何だかよく分からないけれどもう怒ってないみたいだった。私はそれに安堵した。

三谷くんは「戻るぞ」とまた私の手を引いた。私はそれを振り払うことも出来ずに、ただかよちゃんとみなみちゃんに嫉妬されたくは無いなぁと思った。













《設定》

・千川原輝美

いじめにより死んでしまい、本物の千川原輝美と入れ替わった。色々なことに無知で、またとても鈍い。

実家はヤクザの家元。そのため生徒に恐れられている。三谷のファンクラブの会長になっているが本人は知らない。見た目はきつめの美人。乙女ゲームでは悪役の少女という設定。


・三谷真人

クラスでは「氷の王子」と呼ばれている。人付き合いが苦手で極度の照れ屋のため言葉が足りない。輝美がずっと好きで、ファンクラブの会長になった時に両思い→付き合っていると勘違い。見た目は冷たい印象を受ける美青年。乙女ゲームでは攻略キャラクターの一人。


・真城静乃

輝美の友人。何事にも鈍い輝美にいつもやきもきしている。夢原のことはかなり嫌い。猫のように吊り気味の目が特徴の美人。乙女ゲームではサポートキャラクター。


・夢原密実

乙女ゲームに転生した少女。とても可愛らしい見た目をしている。逆ハーレムを狙っている。この世界をゲームだと思っている。三谷が輝美のことを嫌っていると思っている。(本来のゲームでの設定)

乙女ゲームではヒロイン。


・みなみちゃん

輝美の取り巻き。気の強い性格。悪役の取り巻きの典型。

乙女ゲームでは名前と台詞でのみ登場。


・かよちゃん

輝美の取り巻き。自分より上のものに媚を売る性格。

悪役の取り巻きの典型。

乙女ゲームでは名前と台詞でのみ登場。




気がのったら他視点も書くつもりです。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです。 主人公視点だけではよく分からない部分もあったので、ぜひ他者視点も書いてほしいです。
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