‡桜満開‡
犯人の自首という形で、私の事件は幕を閉じた。
《テレビにあの事件が取り上げられているのを見て、得意な気分になった》
……犯人が、公園で気を変えて自首しようと思った理由。
警察は首を傾げているし、あの日、公園にいた人達の中で口を開こうとする者も皆無だった。
(説明のしようがない、が正解かな)
私はふわふわと桜の木に触れ、その幹に軽くキスした。
それは撤退された看板の跡に植えられた幼木で、他の桜と比べたらまだまだ小さい。
だが、今年初めて、その枝に溢れんばかりの蕾を膨らませている。
(もうすぐ咲くね)
ミオンを抱いて、私は愛おしく微笑む。
腕の中のミオンは静かに寝息を立てている。正直、私も眠たくて仕方ない。
満開の桜に包まれた公園の中で、幸せそうな家族連れがはしゃいでいる。
小さな女の子を滑り台に乗せた女の人は、とても由香里に似ている。
女の子は嬉しそうに滑り台を楽しみ、砂場にいる猫達に向かって走る。戯れる猫の一匹は、ミオンに生き写しだ。
(変なのぉ)
私は微笑む。
その家族連れの楽しそうな様子を見ていると、なぜだか心が安らいで幸せな気分になる。
理由は分からないけれど。
(この桜が咲いたら、あっちに行こうか?)
ぼんやりと囁くと、眠っていたミオンが目を開いて私を見た。眠そうに、でもゆっくりと口を開いて、肯定の鳴き声を返した。
小さな桜は、もう少しで花を咲かせる。
愛らしい花弁が煌めく頃、私とミオンはこの世界と離れることを約束する。
今や全てが朧で不確かだ。眠くて仕方ない。
もうすぐ、私とミオンの為に植えられた桜が咲く。
私は今、とても満ち足りた、幸せな気分の中にいる。
この世界の、全てを愛おしいと思っている。




