表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

‡桜満開‡

 犯人の自首という形で、私の事件は幕を閉じた。




《テレビにあの事件が取り上げられているのを見て、得意な気分になった》

 ……犯人が、公園で気を変えて自首しようと思った理由。


 警察は首を傾げているし、あの日、公園にいた人達の中で口を開こうとする者も皆無だった。


(説明のしようがない、が正解かな)




 私はふわふわと桜の木に触れ、その幹に軽くキスした。

 それは撤退された看板の跡に植えられた幼木で、他の桜と比べたらまだまだ小さい。

 だが、今年初めて、その枝に溢れんばかりの蕾を膨らませている。


(もうすぐ咲くね)


 ミオンを抱いて、私は愛おしく微笑む。

 腕の中のミオンは静かに寝息を立てている。正直、私も眠たくて仕方ない。




 満開の桜に包まれた公園の中で、幸せそうな家族連れがはしゃいでいる。

 小さな女の子を滑り台に乗せた女の人は、とても由香里に似ている。

 女の子は嬉しそうに滑り台を楽しみ、砂場にいる猫達に向かって走る。戯れる猫の一匹は、ミオンに生き写しだ。


(変なのぉ)


 私は微笑む。

 その家族連れの楽しそうな様子を見ていると、なぜだか心が安らいで幸せな気分になる。

 理由は分からないけれど。



(この桜が咲いたら、あっちに行こうか?)


 ぼんやりと囁くと、眠っていたミオンが目を開いて私を見た。眠そうに、でもゆっくりと口を開いて、肯定の鳴き声を返した。



 小さな桜は、もう少しで花を咲かせる。



 愛らしい花弁が煌めく頃、私とミオンはこの世界と離れることを約束する。



 今や全てが朧で不確かだ。眠くて仕方ない。



 もうすぐ、私とミオンの為に植えられた桜が咲く。



 私は今、とても満ち足りた、幸せな気分の中にいる。


 この世界の、全てを愛おしいと思っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ