‡花びら2枚‡
平和だった街は、突然起きた事件に騒然となった。
警察やマスコミや野次馬が次々と公園に押し寄せ、私の理不尽な死をあれこれと詮索し、噂し、推測し合った。
けれどそれも、所詮は一時の気まぐれ。人は飽きる生き物だから。
半ば桜の花が散り切ってしまった頃には、公園はすっかり元の静けさを取り戻していた。
事件の情報を求める大きな立て看板と弔いの花だけが、あの事件が確かに起きた現実だということを物語っている。
私はピカピカの看板の前に佇み、何度もその文面を読み返してみる。
『四月十二日…夕方六時頃に…通り魔…殺人事件…』
そうか、私は通り魔に刺されて死んだのか。
間抜けな話だ。私は看板を読んで初めて、自分の死因を理解したのだった。
早朝の朝もやに霞む静かな公園に、重なるように入ってくる二つの自転車の音が響いた。
振り返って見なくても分かる。私の母親と、中学生の妹の由香里。
二人は自転車を停めると、テキパキと花を新しい物に代え、冷たい水に浸した雑巾で看板を磨きだした。
私が死んだあの日から、二人は毎朝この作業を欠かさない。
花はまだ萎れていないのに。看板は綺麗なままなのに。学校やパートのある二人にとって、朝の一時間はとても貴重だろうに。
(ママ、由香里。もういいよ、もういいんだよ)
私の声は風に溶け、家族達には届かない。
やる瀬ない思いで桜を見上げると、そんな私を見下ろすつぶらな瞳と視線が合う。
(あんたも早く帰りなさい、ミオン)
実の所、私がここから去れないでいる一番の原因は、このミオンなのだ。
私がいなくなってから、ミオンは一日の大半を、この桜の枝の上で過ごすようになっていた。
最初は母親や妹が無理に連れ帰っていたのだが、どうしてもまたここに戻ってきてしまう。
(ミオン、待ってたって私は帰れないんだよ)
視線が合ったと思った瞳は、私を素通りして地面に置かれた皿を見ている。
(ねえミオン、あんた私が死ぬの見た筈じゃない)
細い体をしならせて木から降りると、ミオンは母親達が置いていった食事を豪快に食べ始めた。
(ミオン……)
動物には霊が見えるなんて、誰が言ったのだろう?
私は可愛い飼い猫の背を撫でてやることも出来ずに、ただ切ない気持ちで空を見上げた。
鮮やかに澄んだ青色が、今の私の目には痛すぎる。




