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王妃の資格

作者: 行見 八雲

 異世界トリップもののお話が、大好きです。


 勢いで書きました。似たようなお話があったらすみません。

 これは地球とは異なる世界のお話。



 蒼天の空に可愛らしい小鳥が羽ばたく、ある日のこと。


 ここ、世界で一番大きな大陸のほとんどを占める大国、アセスフィアの王城の王の執務室では、長い黒髪を後頭部で纏め、シンプルなドレスに身を包んだ女性が、群青色の髪の美丈夫に詰め寄っていた。



「ちょっと、陛下! 私を王妃にするって、本気ですか!!?」


 今にも美丈夫―――この大国の現王である―――の胸ぐらを掴みそうな勢いで、女性は眉を吊り上げて声を張り上げた。


「ああ、本気だ」


 そんな女性の勢いを気にもせず、王は手に持っていた書類を執務机に置いて、女性へと向き直った。


 その相手の余裕に満ちた態度と、見上げるほどの長身に女性はむっと眉間に皺を寄せる。


「無理無理無理無理無理!! 私なんか王妃にしたら大変なことになりますって!」


 両の拳を握りしめて、全身で否定する女性に、王は苦笑いを浮かべて。


「前にも言っただろう。俺が惚れているのはお前だけだ。お前以外、王妃にするつもりはない」


「いやいや! それだって、陛下に対して初めて会った時から気安かったとか、言動が突飛で見ていて飽きないとか、そんな理由ですよね!?

 でもそれって、私が異世界人だからですって! 異世界、特に私のいた国には、王様なんていなかったから、対応の仕方が分からなかったからですし!

 突拍子の無い行動だって、この国との価値観の違いからですよ! この国での普通が普通じゃないからですよ!

 それを新鮮に感じただけです! どうせそのうち目も覚めますから、もっと落ち着いて考えて下さい!!」


 勢いのまま、女性はそう言い切った。




 そう、この女性、水瀬咲良みなせさくらは、ある日突然異世界からこの世界にやってきて、たまたまこの国の王に拾われ、王城で仕事をしながら生活することになったのだ。


 そんな彼女がこの世界にやってきて、かれこれ一年は経とうとしていた。


 だいぶこの世界に慣れたかな~と、思っていた矢先の王の告白に、咲良は心臓が飛び出るほど驚いた。しばらく心臓が拍動のしすぎで痛かった。


 そして、先ほど城の者にお祝いの言葉を言われ、王の言っていたことが本気だったと知り、しかも国中にすでに話が広がっていることも知り、慌ててこの執務室に駆け込んできたのだ。


(みんなに冷やかされて、顔から火が出るかと思ったわよっ!!)




「第一、私はまだこの世界のことを良く知らないんですよ!? そんな女を王妃にしたら、常識が無いだとか、マナーがなってないとかで、国の品位が疑われることにもなりかねません! だいたい―――」


 咲良が言葉を続けようとしたとき、コンコンコンと勢いよくノックの音が聞こえ、執務室の扉が開かれた。


「失礼致します。咲良様、例の上下水道整備の報告書が届いております」


 そう言って、文官服の男が咲良に、手に持っていた書類の束を渡す。

 それを受け取った咲良は、ぱらぱらとページを捲り、ざっと目を通していく。


「いや、その様付止めて。―――うん、工事は順調のようね」


 そう頷いていた咲良だったが、あるところでぴたりと目線が止まる。


「ん? この金額おかしいわね。これにはこんなに費用がかかるはずがないのに………。担当は、あの欲深貴族のおっさんか。

 費用の着服の可能性があるわ。以前調べさせた時も、疑わしい事例が大量に出てきてたし。

 私の権限の使用を許可するから、あのおっさんの屋敷、隅々まで家宅捜索してきてちょうだい」

 

「はっ!」


 咲良がそう言って、書類を文官の男に返すと、男は頷き礼をして早足に執務室を出て行った。



 文官の男が出て行った後、咲良は再び王へと向き直り、


「えと、それで、何でしたっけ?

 あ、そうそう、大体、私のような身分の無い、どこの馬の骨とも分からない女を王妃にするなんて、他の貴族達の反対に―――」


「この間、ベルグラード公爵家の養女になっただろう」


「……………そうでしたね……」


 二月ほど前、何となく公爵家一家に気に入られた咲良は、あれよあれよという間に、養女にされていたのだった。


 王の切り返しに、咲良はぐっと言葉に詰まった。


「あ、でもでも、私は王妃の教育も受けてませんし、国内の情勢のことだって―――」


 コンコンコン!


 再び軽快なノックの音が聞こえ、先ほどとは違う文官服の男が「失礼します」と声をかけ、扉を開けて入ってきた。


「咲良様、こちらは、先だって考案されました調味料の、市場での評価や流通状況の報告書です」


 そう言って、手に持っていた書類の束を咲良へ差し出す。


「だから、その様付止めてって。

 うん、市場への広がりはまずまずね。今度は、あれを使った料理を考えて、国内に広げてみよう。

 あれが世界中で取引されるようになれば、国にとって良い収入源になるし、この国ならではの料理が流行れば、国外からの観光客もお金を落としてくれるしね。ふふふ、金の余ってる珍しいもの好きの貴族達が、好みそうな料理を考えないと。

 そう言えば、国の南東部のシュクト地方を、遺跡や温泉を売りにした保養地にするのもいいわね。ああ、ちゃんと自然破壊はしないから安心してね。

 うん、近々視察に行くわよ。人選は任せるわ。調整をお願い」


 咲良が文官の男を見ながらそう言えば、男も表情を引き締めて頷いた。


「はい! お任せください!」



 そのまま礼をして退出する男を見送って、咲良はまた王の方へ体を向け。


「え~~~っと、だから、私には王妃に相応しいような気品も、カリスマ性も、威厳もな―――」


 コンコンコン!!


 焦ったようなノックの音が響き、執務室の扉が開かれた。


「失礼します! 咲良様!」


 またしても、先の2人とは違う文官服の男が、早足で咲良へと近づき、急ぎの用らしく何事かを耳打ちする。


「だ~か~ら~、その様付止めてって………」


 男の報告を聞いていた咲良の眉間に、ぐっと皺が寄った。


「あのハゲ子爵が! 議会で決まった法律に従わないばかりか、そんなことまで!」


 忌々しそうに呟いた咲良は、王に退出の挨拶をしてから、早足で扉へと向かっていく。


「私が制圧に向かうわ! クァルテ達を呼んでちょうだい!」


「はっ! 直ちに!」


 文官を付き従えていくその凛とした背中が、扉の向こうへ消えていくのを見ながら、王は愛おしそうに目を細めて微笑んだ。



「お前以外に、誰が王妃に相応しいというのだ」



 このお話は、主人公最強ではありません。主人公は、普通の(?)一般人です。


 主人公の周囲が最強ぞろいです(クァルテ達もその中の1人)。


※少し行間を変えました。読みにくい等ご意見がございましたら、お寄せ頂けると助かります。


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― 新着の感想 ―
[一言] 咲良さんは王妃というよりは宰相向きなのでは。 というか、実務に関わりすぎているので妊娠などで動けなくなった場合書類が滞る可能性が高いと思われます。 王妃になるのは止めた方がいいように見えます…
[一言] とても楽しいお話でした。このテンポだと短編シリーズ話の方が良い感じで進むんではないのでしょうか?他者視点を短編で色々読みたいですね。ほのぼの隠居した好々爺っぽい腹グロ老宰相なんて居たら彼女は…
[一言] 連載してみても面白いと思います。話がふくらみそうですし
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