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『ダンジョンは封鎖できません 〜侵食災害管理局・封鎖班〜』  作者: 逆位相
第一章 『第七地下接続駅侵食災害』

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第六話 「第九層反応」

 地下管理室から音が消えた。


 誰も喋らない。


 モニタ中央。


 地下第九層。


 閉鎖済み旧保守縦坑。


 そこに表示された深層反応だけが、

 赤く点滅していた。


「……誤作動ですよね」


 新人観測士が乾いた声を出す。


 誰も答えない。


 第九層。


 それは浅層災害の数字じゃない。


 地下七区は本来、

 第三層までしか民間利用されていない。


 第九層は旧深層調査区域。


 二十年前に閉鎖された。


 理由は今でも秘匿指定。


 一般職員ですら詳細を知らない。


「位相計確認」


 榊伊織が言う。


 観測士が慌てて予備機を起動する。


 旧型位相計。


 起動ノイズ。


 同期処理。


 数秒後。


 表示結果。


 同じ。


「……一致しました」


 観測士の顔色が青白い。


「そんな……浅層侵食ですよね、これ」


「分からん」


 榊は即答した。


「最初から誤認していた可能性がある」


 立花冬吾が舌打ちする。


「深層起点なら話が違うぞ」


「分かってる」


「第四搬送路封鎖だけじゃ止まらねえ」


「分かってる」


 榊の視線は地下断面図から動かなかった。


 地下七区。


 旧水脈。


 第四搬送路。


 そして第九層。


 線が繋がっている。


「……地下水脈そのものが侵食経路か」


 観測士が息を呑む。


 通常の菌糸災害は、

 表層から広がる。


 だが今回は違う。


 深部側から既に入り込んでいる。


 だから静かだった。


 浅層観測では、

 最初から全体が見えていなかった。


「主任」


 施工班員の一人が声を上げる。


「位相壁施工、同期誤差上がってます」


「どれくらいだ」


「5.8」


 立花の顔が歪む。


「駄目だな。壁が保たん」


 位相壁は便利な防御魔法ではない。


 地脈同期を利用した、

 強引な圧力固定技術だ。


 地脈が乱れれば、

 施工精度も落ちる。


 同期誤差が一定を超えれば、

 固定壁そのものが崩壊する。


「予備演算器は」


「ありません」


「冷却材」


「不足」


「アンカー」


「旧式」


 施工班員が淡々と答える。


 現場はいつも不足していた。


 予算不足。

 供給停止。

 企業優先。


 管理局は災害を管理している。


 だが。


 管理局自身も限界だった。


「主任」


 観測士が再び声を上げた。


「第九層反応、増えてます」


 モニタ。


 赤い点。


 一つだった反応が、

 三つ。

 六つ。

 十を超える。


 だが異常なのは数じゃない。


「深度が変わってない……?」


 通常、

 生体反応は移動する。


 だが第九層反応は、

 その場から動かない。


 代わりに。


 周辺地脈ノイズだけが変化している。


 榊の眉がわずかに動く。


「……圧力源か」


「え?」


「生体じゃない可能性がある」


 その瞬間。


 地下全域が揺れた。


 低い振動。


 壁面の照明が点滅する。


「地脈振動!?」


「違う!」


 榊が即座に叫ぶ。


「位相ズレだ!」


 位相計警報。


 同期異常。


 管理室のモニタが乱れ始める。


 映像が数フレーム遅れる。


 時計表示がズレる。


 新人観測士が青ざめた。


「主任、時間同期が……!」


「認識同期確認!」


 全員がヘルメット側面の同期ランプを見る。


 緑。


 まだ正常。


 だが。


 立花が突然顔をしかめた。


「……おい」


「どうした」


「お前、さっきからそこにいたか?」


 施工班員の一人を見ている。


 若い班員が困惑する。


「え?」


「いや……いたでしょう」


「何人いた?」


 空気が止まった。


 誰も即答できない。


 施工班は五人編成。


 のはずだった。


 だが。


 今この場に、

 何人いる?


 観測士の呼吸が速くなる。


「主任……」


「数えるな」


 榊が低く言った。


 即答だった。


「確認し合うな。認識固定が崩れる」


 新人観測士の顔から血の気が引く。


 認識異常。


 まだ軽度。


 だが始まっている。


 しかも浅層で。


「なんでだよ……」


 立花が呟く。


「菌糸災害だろこれ」


「違う可能性がある」


 榊はモニタを睨み続けていた。


「菌糸は症状でしかない」


 その言葉と同時。


 地下断面図の第九層反応。


 その中心で。


 位相値が急激に落ちた。


 ゼロ。


 観測士が悲鳴を上げる。


「位相消失!?」


 あり得ない。


 位相値ゼロは、

 空間接続断絶に近い。


 通常空間では発生しない。


 次の瞬間。


 地下七区全域の通信が落ちた。


 完全沈黙。


 管理室の空気が凍る。


 そして。


 誰かが言った。


「……今、ひとり増えませんでした?」


 全員が振り向いた。


 誰が喋ったのか。


 分からなかった。

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